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物語の途中で殺される悪役貴族に転生したけど、善行に走ったら裏切り者として処刑されそう  作者: maricaみかん
2章 捨てるべき迷い

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44話 ラナ・ペスカ・インディゴの懇願

 あたしは、誇りあるインディゴ家の娘として、清廉潔白に生きているつもりでした。ですが、あたしの家は、没落へと向かって行っていたのだと、ある日に知ることになります。


 そのきっかけは、ブラック家から援助の話が来ていたこと。それまでは、インディゴ家が金銭に困っていることすら知りませんでした。


 あたしは、もちろん反対しました。ブラック家からの援助なんて、怪しいと思っていましたから。それに、領民を計画に差し出せなんて、どんな扱いをされるのか、分かったものじゃありませんでしたから。


 ですが、思い通りにはならなかった。お父様とお母様は、ブラック家の提案を受け入れました。それだけでなく、あたしを人質として、ブラック家に送り込むと決めたんです。


「あたしは、ブラック家に売られたんですか……? いや、そんなはずは無いです! きっと、そうなんです……」


 ウソだと信じたかった。いま見ているのは、夢なんだと。あたしは両親に愛されていて、領民にも慕われている。そう思いたかった。でないと、おかしくなってしまいそうでしたから。


 これまで、両親は愛情を注いでくれていたはずです。病気の身とはいえ、苦しいと思ったことはなかった。いろいろなものを、もらえましたから。


 領民の顔を見に行った時、あたしは歓迎されていました。ラナ様は素敵だねって、素晴らしいって、何度も言われていたんです。


 それが偽りだったとしたら、あたしは耐えられません。だから、両親も、領民も、信じていないと。だって、あたしを高く売るために、蝶よ花よと育てられた。そんな可能性が頭によぎって、追いかけてきたんですから。


 もし、あたしの思いついたことが真実なら。そんなの、人生を否定されたのと同じこと。だから、みんなを信じる以外の道なんて、無かったんです。


「若い女を息子のそばに置く。その理由なんて、決まっていますよね。妾か何かにされる。あたしは、それでも耐えないと。お父様とお母様、領民のためにも」


 せめて、息子の方であると信じたかった。父と同じような年の人に抱かれるなんて、嫌だと言うしか無かった。でも、あたしの意思では何も決められない。それだけは、分かっていましたから。諦めのような感情が、あたしを支配していたんです。


 お父様やお母様、領民のため。そんな理由でもないと、死んでしまいたいとすら思えそうで。だけど、疑いが頭をよぎって。自分を鼓舞するための言葉に、さらに追い詰められそうになっていました。


「でも、怖い……。あたしは、何をされてしまうのでしょうか……」


 もしかしたら、妾か何かじゃ済まないかもしれない。そんな考えも思い浮かびました。だけど、震えて待つ以外の選択肢なんて、あたしにはありません。


 結局のところ、ブラック家の考え次第で、あたしなんてどうとでもできる。それだけは、分かり切っていたんです。


「それだけじゃない。インディゴ家の領民は、どうなってしまうのでしょう。祈るしかできない。あたしは無力です……」


 そんな諦めの中、ブラック家の当主であるジェームズによって、あたしはレックスのもとに連れて行かれました。そして、あたしはレックスの部屋で2人きりになる。後は、することなんて決まっている。だから、あたしはせめてもの抵抗として、言葉だけは強気でいたんです。


 口に出してから、レックスに暴力を振るわれたらって、怖くなったんですけど。あたしには、覚悟が足りていなかった。そう思い知らされる瞬間でした。


 だけど、あたしが考えていたようには、ならなかった。レックスは、あたしに魔力を注ぎ込みました。されたことは、それだけ。呼吸が軽くなって、苦しさが消えて、困惑するだけでした。


 それから、少しだけレックスと話して、自室へと案内されて、1人で考え事をしていました。


「レックス様は、あたしに暴力を振るわない。なら、思ったよりも、悪い人ではないのかも……」


 それは、単に目の前の希望にすがっているだけの考えかもしれません。でも、周りに味方なんていない中で、少しでも優しくされたら、仕方のないことじゃないですか。だって、他に助けてくれそうな人なんて、いない。


「それに、あたしの病気を治してくれました。誰にも治せないって、言われていたのに」


 レックス様は、あたしの咳を見てから、少し心配そうな顔をした。そのはずなんです。だから、あたしを治してくれた。圧倒的な力をもってして。それで良いんです。


「闇の魔力を送られた時は、本当に怖かったんですけど……」


 もしかしたら、あたしでは想像もつかない、おぞましい事をされる。そんな可能性もありました。だけど、レックス様はあたしを癒やしてくれた。その心が善意であると、信じたいんです。レックス様だけは、あたしの味方になってくれるって、思いたいんです。


 そうじゃなきゃ、あたしはたった1人になる。両親に売られて、領民に見捨てられた、そんなあたしは。分かっているんですよ。あたしは病気だから、ちょうど良かったんだって。だって、領民は盛大に、あたしを送り出していたんですよ。


 だから、せめてレックス様にだけは、あたしのことを大事にしてほしかった。今は気まぐれでも良いから、身内だと思ってほしかった。


「でも、レックス様は、ブラック家の人間。これから、染まっていく可能性だってあります。そもそも、あたしを治したのだって、何か目的があっての事かもしれません」


 レックス様がブラック家に染まることだけは、避けたかった。目的があってあたしを癒やしてくれたのなら、叶える手伝いをしても良いと思うくらいには。もしかしたら、すでに染まっているのかもしれない。そんな考えからは、目をそらして。


「だとしたら、レックス様を監視するのが、できれば善き道へと導くのが、あたしの役割のはずです」


 そうすれば、レックス様の傍にいられる。あたしの味方かもしれない、ただひとりの人の傍に。だから、一石二鳥なんです。本当に善人なら、あたしのことを大切にしてもらって。悪人だというのなら、せめて捨てないでほしかった。


「レックス様が本当に善人なら、あたしは協力したい。そう思うのは、間違いなのでしょうか……?」


 間違いだとしても、構わない。あたしを売った両親より、あたしを治してくれたレックス様の方が、大事なんですから。だって、そうでしょう? ブラック家が悪だって言っていたのは、両親なんですから。それでも、あたしを捧げるくらいだったんでしょう?


 それとも、ウソをついていたんですか? ブラック家は悪じゃないのに、両親にとって都合の良い言葉を、吹き込みたかったんですか?


 どちらにせよ、両親を信じる気持ちは、失われていたんです。だから、信じられそうな人なんて、ひとりしかいない。


「裏切らないでほしいです、レックス様。あたしに希望をもたせたのは、あなたなんですよ……?」


 もし裏切られたら、あたしには何も残らない。だから、お願いです。せめてあたしを、大切にしてください。それだけがあれば、レックス様のために、強くなってみせますから。


 あたしを捨てないで。裏切らないで。お願いですから。お願いしますから。

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