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物語の途中で殺される悪役貴族に転生したけど、善行に走ったら裏切り者として処刑されそう  作者: maricaみかん
12章 未来のために

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436話 ミルラの檻

 私はアカデミーをブラック家の下部組織にするという計画のために、策を練っていました。


 最終的には、ブラック家の外部にも人材を送り込むための場所として使いたいという狙いはあります。教育や洗脳などを駆使して、密偵などの形で使うことが理想ですね。


 そのためにも、アカデミーの名を広めるということには実利があります。ブラック家の名前を出すのは、魔力バッテリーが中心になるでしょうね。多くの発明では、アカデミーの名を表に出しましょう。


 短期的には、利益を逸するでしょう。ですが、長期的展望としては悪くありません。単なる名誉や金銭以上のものを手に入れられるのですから。


 ブラック家にとっても、アカデミーにとっても利益がある。それでいて、実際はブラック家が総取りする形になるのです。


 すべてが成功せずとも、魔力バッテリーと魔道具の生産、人員の確保だけでも大きな利益がある。我ながら、良い手段を考えたものです。つい、笑みを浮かべてしまいますね。


 ただ、邪魔になるものもあります。それらへの対処も、考えなくてはなりません。


「私の計画に反対するアカデミーの人員を排除するために、すべきことがございますね」


 確実に排除し、その上でアカデミーの支配を深める。両立しなければならないのが、腕の見せ所でしょう。


 私ならば、手段はいくつか思いつきます。ジャン様と協力すれば、もっと幅が広がるでしょう。


 ブラック家に来てよかったことのひとつは、ジャン様という仕事仲間の存在でしょうね。私の案に、別の発想で案を返してくださる。それが、どれほど成果につながったか。どれほど私を成長させてくださったか。


 ただ凡人に囲まれているだけでは、成長の機会を逸する。その事実は、ブラック家で理解できました。


 そう。いま考えていることも、私が成長したからできることだと言えるでしょう。


「ただ排除するだけでは、周囲を抱き込むのは難しいでしょう」


 排除することなど、簡単です。レックス様に賜ったアクセサリーがあれば、いくらでも暗殺できますから。ただ、それではいけません。ブラック家に対する反発感情を深めるだけでしょう。


 私がすべきことは、排除に正当性を持たせることです。皆が喜んで敵を排除するのが理想と言っていいですね。


 そのためにすべきことは、敵を嫌われ者にすること。とても、単純なことです。そして、重要なことです。


「ならばいっそ、問題行動を起こさせれば良いのです。そして、周囲から排除されるように仕向ければ」


 こちらにあえて被害を出すことによって、被害者としての立場を手に入れる。いわば、こちらが正義となるのです。


 ちょうど、脇の甘い相手が思い当たります。欲望に忠実で、程々に愚かな存在が。過分な行動を実行しそうな者が。


 ですから、生贄として捧げましょう。ブラック家の敵がどうなるかを示しましょう。


「周囲に手を回して、思想を吹き込みましょうか。暴走した人から順に、切り崩せばよいのです」


 ブラック家の脅威を自分だけが知ったとでも思わせましょうか。あるいは、自分の利益が無くなると吹き込みましょうか。


 適当な損害を見せ札にして、そこから動かざるを得ないような状況だと思い込ませましょう。そうですね。アカデミーがやがてブラック家に支配されるなどどうでしょう。事実ではありますが、誰もが妄言と思うものです。


 真っ当な判断力があれば、ブラック家がどれほどアカデミーに配慮しているかなど伝わるのです。そうでなくても、派遣される教員や生徒たちから多数派工作をおこなって、同調圧力を叩き込めばよいのです。


 その状況で、ブラック家に敵対する。周囲から、どう思われるのでしょうか。言わずもがなです。


「レックス様のお力があれば、人員の安全は守れます」


 そこで損害を出してしまった方が、短期的には効果が大きいでしょう。誰かが死んだという事実は、黒幕の立場を損ねます。


 ですが、長期的にはレックス様が従業員を守ったという事実が大きい。そして何より、レックス様は望まないでしょう。自分の仲間が傷つくことは、決して許されないでしょう。ですから、放棄します。


 それでも、ブラック家で働くアカデミーの人員に損害を出す計画が存在した事実は、大きな意味を持つのです。


「自分の命を危険にする策を練った相手に、派遣された人員はどう対応するのでしょうね?」


 その事実を、様々な方向から広めていきます。もしかしたら、誰かは殺したいほどに憎むかもしれません。そうでなくとも、同じ組織に存在することなど許せないでしょう。


 派遣された人員の友人だって、その事実を知れば失望や敵意を抱くでしょうね。そこまで考えの及ぶ存在ならば、軽挙には走りません。


 ただ、学術的優秀さが人格的成熟を意味するわけではありませんから。いくらでも、狙うべき相手はいます。そして、どうなるか。


「少なくとも、アカデミーには居場所がなくなるでしょう」


 そして、おそらくは命まで危ぶまれるのでしょうね。仮にレックス様が許しても、許さない相手などいくらでもいるのですから。


 アカデミーは、貴族の中で魔法に優れないものの行き場でもあります。完全に見捨てられたわけではないからこそ、相応の金を支払ってまでアカデミーに通わせる。そんな相手を奪おうとして、ただで済むと思えません。


 その結果として、ブラック家の敵は大勢の敵へと変わっていくのです。


「さて、そうと決まれば動き出さなくては……。ミーア様に、手をお借りしましょう」


 王家からの人員を借りて、吹き込む内容に信憑性を持たせる。それこそが、私の狙い。ミーア様も、乗り気でした。


 結局、アカデミーの敵対派閥は大きく切り取ることができました。盗賊に襲われた人間が、やけに多かったようですね。ブラック家に襲撃を計画したものだけでなく、その派閥全体まで。


「ふふ、うまく行きましたね。これで、反対勢力は排除できました」


 つまり、これからはアカデミーの人員を大きく運用していくことができます。従業員を経由して、貴族とのつながりを作るのも大事になってくるでしょうね。


 ブラック家を中心にして、大きな派閥を作る。それができれば、今後も動きやすくなるでしょう。


「これからも、レックス様のために使える人員は増えていくでしょう」


 そして、レックス様の幸福につながっていく。私への信頼も、もっと増していくでしょう。レックス様のしもべとして、これほど嬉しいことはありません。私は、きっと輝く笑顔をしていることでしょう。


 本当に、レックス様のしもべとなれて良かった。その事実は、未来永劫変わらないはずです。


「誰を地獄に送り込もうとも、すべてはレックス様のために」


 レックス様の大切な人以外、どうなったとしても構いません。私にとって一番大切なものは、レックス様だけなのですから。


 さて、これからは事業を拡大していきます。その中で、レックス様の支配を深めなければなりません。


「マリンさんやクリスさん、ソニアさんにも協力していただきましょう」


 マリンさんの魔力バッテリーや魔道具は、世界を変える一歩になるでしょう。歴史に名を残す組織の一員になれる。学問の輩でなくとも、誰もが憧れる立場でしょうね。


 そして、私自身が稼いだ金銭もあります。ブラック家の資金と合わせて、当面は運用に困らないだけのものが。


 最終的には、魔力バッテリーや魔道具が大きな利益を生むでしょう。ですから、良い投資のようなものです。


「給金と、名誉と、愛嬌のある仕事仲間。それを失いたくはないのが人情ですよね」


 クリスさんやソニアさんのような方に、笑顔で接される。それだけで、少なくとも男は張り切ってくれる。


 サラさんのような愛される才能を持つ方も、学校もどきには居るようです。そこから引っ張り出すのも、悪くないですね。


 そして、居心地の良い職場を作り上げていくのです。幸せだと、信じられるような。


「結果的には、ブラック家に逆らえなくなっていくのです」


 満たされた環境こそが、人を支配するもの。レックス様が、教えてくださったことです。それを、最大限に利用しましょう。


「幸福で包まれた檻で、囲いきってしまいましょう」


 そして、逃げ場のない牢獄とするのです。ただ、幸福におぼれていただきましょう。ブラック家の糧として、存分に。


 結果として、私はレックス様に褒めていただくのです。その瞬間が、待ち遠しいですね。

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