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物語の途中で殺される悪役貴族に転生したけど、善行に走ったら裏切り者として処刑されそう  作者: maricaみかん
12章 未来のために

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433話 単純な答え

 ひとまず、暴動への対処は終わった。俺が捕らえた相手は、最終的には公開処刑されたらしい。ブラック家らしい手段だとは思うが、仕方ないとも思う。


 というか、人の命を狙っておいて無罪放免というのはあり得ないからな。当主に武器を向けたと考えれば、普通の貴族でもやることだろう。極端に過激な手段ではないし、納得はしている。


 ブラック家は変わらなければならないし、領民に対して良い顔をする方針ではある。それは、際限なく甘くすることを意味しない。俺たちの方針を示す上では、大事なことだったはずだ。


 というわけで、後は黒幕に対処するだけになった。暴動に関しては、民衆は腰が引けているだろう。


 そんなこんなでジャンたちの動きを待っていると、ミルラとマリンが俺のところにやってきた。特にマリンは、少しバツが悪そうに見える。


「レックス様、黒幕が判明いたしました」

「アカデミーの人間だったみたいなのです。こちらから、お詫びするのです」


 ミルラもマリンも、深く頭を下げている。責任感としては正しいが、あまり気分は良くない。俺としては、ふたりに謝罪させたいとは思わないからな。


 だが、ここはしっかりと受け取るべきだろう。ふたりが頭を上げるのを待って、俺は頷いた。そして、気になることを問いかけていく。


「それは、ブラック家に派遣された人間という意味か? 今でもアカデミーにいる人間か?」

「後者でございます。どうやら、アカデミーの人員が奪われると考えていたようで」


 動機としては、そこまでおかしなことではない。アカデミーの人員を多く使って事業を起こすわけだからな。


 まあ、そこまで追求しても仕方ない。利害の対立だというのなら、交渉すべきだった。そこを放棄した時点で、俺が寄り添うべき相手ではない。


「まあ、間違ってはいないな。それで、どうやって対処するんだ? 俺が動くべきか?」

「今回は、私どもに任せていただければと存じます。レックス様のお手を、わずらわせはしません」

「こちらにも、責任があるのです。しっかりと、挽回したいのです」


 どちらも真剣な目で俺を見ている。よほど、責任を感じているのだろう。ミルラにとっては古巣で、マリンにとっては所属している組織なわけだからな。


 出向している時に、派遣元である企業が問題を起こした。そう考えれば、納得はできる。なら、本人たちに任せた方が、気は落ち着くか。


「それで良いのなら、止めはしないが。俺の手が必要になったら、すぐに言ってくれよ」

「もちろんでございます。余計に負担をかけては、本末転倒ですから」

「モニカ様もやる気みたいなのです。私の出番は、少ないかもしれないのです」

「母さんが……。一応聞いておくが、どういう手段なんだ?」

「こちらのツテを利用して、立場から追い落とそうと考えております。よろしいでしょうか?」


 モニカも貴族の女だからな。ツテはあるのだろう。ミルラやマリンとも協力しつつ、各方面から圧力をかける。そんなところだろうか。


 学術機関は、どうしても単体で収益を得る構造にするのが難しい。学費だけで賄うのには、限界があるからな。そこで、出資者から特定の人物の排除を要求させるんじゃないだろうか。モニカが外から、ミルラとマリンが内から、俺の敵を潰しにかかると。


 とはいえ、かなり穏当で時間のかかる手段でもある。マリンたちの気持ちも大事だな。事業を壊されそうになって、下手したら自分も襲われていたのかもしれないのだから。


「マリンたちからすれば、心穏やかではないかもしれないが。一応、面倒なこともあったからな」

「ふふっ、案外そうでもないのです。ただでさえ魔法を使えないのに、地位まで失う。その後、どうするのです?」

「当然、こちらでも情報操作を予定しております。王家などにも協力していただき、悪評を流します」


 ふむ。言わば、大きな不祥事を起こしてクビになったと、同業他社に知られて回る感じか。それは、かなり厳しいんじゃないだろうか。


 少なくとも、他業種に移るくらいの事をしなければ、話にならないだろう。確かに、苦しい様子が想像できる。なまじっかプライドがあるのなら、もっと効果的だろう。他業種に移るということは、実質的には下っ端からということになるだろうし。


 最悪、どこでも仕事にありつけない可能性もある。そうなってしまえば、野垂れ死んで終わりだろうな。まあ、知ったことではない。どこまで狙っていたかは知らないが、人の命を奪いかねないことをしたのだから。


「やられたことを、そのままやり返すわけか。まあ、妥当なところだな」

「レックス様は、そのような解決をお望みかと判断いたしました」

「まあ、そうだな。あまり過激な手段は、避けたいところだ」


 力を持って敵対者を潰すというのは、あまり好ましくない。無論、敵が武力を使ってくるのなら反撃するのは当然のことだが。


 それでも、なるべく平和的な手段で解決したいところではある。ブラック家を変えるためにも、個人的心情としても。


 結局のところ、力ですべてをねじ伏せようとすれば、周りは敵だらけになるからな。そんな未来は、嫌だ。


「それでも、私たちのためになら意見を曲げようとする。だからこそ、仕え甲斐があるのです」


 穏やかな顔で、マリンは言う。まあ、マリンたちが望むのならば、転移を利用して暗殺することも考えていた。そうはならなかったが。


 平和主義だなんだと言っても、俺は仲間のためになら手を汚せる。汚せてしまう。良いことなのか、悪いことなのか。


 俺の一番大事なものは、あくまで仲間だ。だから、優先順位としては妥当だ。倫理的に正しいかは別として。それでも、俺は変わらないのだろうな。


「一番の被害者は、マリンたちだからな。そこを優先するのは、当然のことだ」

「その気持ちに応えるためにも、こちらでしっかりと対処するのです」

「ここにはいないクリスさんやソニアさんも、同様の意見でございました」


 俺を慕ってくれている人は、何人もいる。そう実感できて、心が温まるようだ。だからこそ、絶対に失いたくない。


 どこまでいっても、俺の望みは変わらない。仲間と平和な日常を過ごすことなんだ。そのためになら、なんだってする。


「まあ、無理はするなよ。お前たちの負担が増えるくらいなら、俺がどうにかする」

「もちろんなのです。レックス様に心配をかけては、意味がないのです」

「私たちの能力で、十分に対処可能と判断いたしました」


 ミルラたちからは、強がっている雰囲気を感じない。だったら、俺のやるべきことは背中を押すことだ。


 誰かが信じてくれるということは、力になる。この世界に転生して、よく分かったことだ。だからこそ、俺はその嬉しさを仲間に分けるべきなんだ。それで、良いんだよな。


「そうか。なら、頑張ってくれ。お前たちなら、きっと大丈夫だろう」

「信じてくれて、ありがとうなのです。このお礼は、成果で返すのです」

「今後とも、レックス様の御為に。私たちは、全身全霊を尽くします」


 ふたりは深く、深く頭を下げていった。俺はそれを見ながら、マリンたちの行動がうまくいくように祈っていた。

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