427話 同じ未来を夢見て
ひとまず、ブラック領で流れている噂に関しては、対抗するような噂を流しつつ様子を見ることになった。同時に、今すぐにできることが無くなったということでもある。
ならば、何をするべきか。俺としては、マリンたちと今後のビジョンを共有するのが良いんじゃないかと。目の前の解決するべき課題ではなく、俺達が見るべき夢とでも言うべきか。
言ってしまえば、社訓のようなものを形にしたい。必ずしも言葉でなくても良い。とにかく、俺たちの中でつながる何かがほしい。そんなところだ。
ということで、マリンたちの暇を見て、俺たちで話をすることにした。今回は、俺から話題を切り出していく。
「魔道具に関しては、いずれは自立稼働するレベルのものができれば理想だな」
「自立稼働というと……、人間が何もしなくても動くということなのです?」
AIレベルのものが作れるかというと、まだ怪しいとは思う。理想と言えば、その通りなのだが。今の俺がイメージしているのは、ロボットだろうか。
勝手に配膳してくれるものとか、掃除をしてくれるものとか。あるいはペットみたいに扱えるものとか。説明は難しいが、伝わってくれるとありがたい。
「知能まで作れれば、完璧だな。とはいえ、まずは遠隔で操作するような感じだろうか」
「魔法を使わなくても、ってことだよね。レックス様、すごいことを考えるね……」
「ちょっと、驚いちゃったかもー。発想が違うというかー」
ソニアもクリスも目を見開いている。まあ、中世の人間にロボットを説明するようなものではあるからな。驚きという意味では、かなり大きいんじゃないだろうか。
まあ、発想が違うというのは、ある意味では当然だな。俺は別の世界の文明を知っているから、そこで考え方に差が出ている。
だからこそ、明確なビジョンを持てるという長所もある。逆に、明確すぎるという短所もあるのだが。
なんというか、ゲームと言って俺の世界のゲームそのものをイメージするというか。完全に新しい発想ができていないというか。
魔法がある世界だからこそ、前世とは違う進化ができる可能性がある。それは捨てたくないんだよな。
とはいえ、前世と同じことにも魅力はある。どちらも大事にしていくのが理想だ。
「空を飛んだりとか、俺の転移魔法を誰でも使えるようにしたりとか、夢は多いな。まあ、まだまだ夢ではあるが」
「確かに、夢なのです。ですが、追いかける価値のある夢なのです」
「レックス様、私たちより魔道具に期待してるよね。なんというか、ゾクゾクしちゃうね……」
マリンは目が燃えているし、ソニアはちょっとだけ震えている。壮大な夢だからな。感じるところはいろいろとあるだろう。
地に足のついた課題を解決すべきではある。それでも、俺は夢を見ていたくもある。両立できたら、最高だ。現実を見ながら、夢に向かって進む。そんなイメージだろうか。
「夢見がちなだけかもしれないぞ。現実を見ていないだけかもな」
「ちゃんと問題点を分かった上で、だからねー。だからこそ、価値があるというかー」
「レックス様は、自分の魔法でとんでもないことを実現しているのです。その影響かもしれないのです」
まあ、こちらで心配事については伝えているから、問題点については分かっていると思われているのかもしれない。といっても、前世で起きた問題をそのまま言っているだけだからな。分かっているかは怪しくはある。
魔道具の可能性について信じているのも、機械という物を見ているからではある。とはいえ、嬉しそうなところに水を差しても仕方ないから、黙っておくが。
「まあ、闇魔法は万能と言っていいよな。俺が敵になったら、厄介どころじゃない」
「レックス様なら、勝手に動く魔法が作れちゃったりして……」
「ありえそうだよねー。もらったアクセサリーだけでも、すっごいもん」
俺の分身を作って、2ヶ所で活動するとかどうだろうか。実現できたら、かなり活動の幅が広がる。俺の負担は大きいが、いろいろな策が思いつく。
単純に戦力を2ヶ所に割り振れるというだけでも大きい。俺の位置を誤認させたりもできる。影武者だって作れると言って良い。他にも、まあいろいろとあるだろう。
本当に、良い案が聞けた。実現できるかは分からないが、まさに夢が広がる発想だ。
「なるほど。試してみる価値はあるかもな。良い案だ、ソニア」
「レックス様って、魔道具なんて必要としなさそうなのにねー。本当に、すごく評価してくれるよねー」
まあ、俺個人で言うと、闇魔法で大体解決できるからな。とはいえ、それではブラック家としては良くない。俺に何かがあれば、それで終わりだ。
だからこそ、魔道具の価値は理解できるつもりだ。魔法の才能によらず、魔法使いの力を使える。そうなれば、組織という面では大きく強くなれるはずだからな。
「最大の理解者が、魔法の天才なのです。皮肉と言えば、そうなのです」
「魔法の天才じゃないから、私たちは否定されてきたんだもんね……」
「完全に、逆って感じではあるよねー。でも、だからなんだろうねー」
まあ、言っていることは分かる。魔法を使えない存在が価値を増すのが、魔力バッテリーや魔道具だ。だからこそ、非魔法使いの希望でもあるのだろう。
マリンたちは、誰もが優秀な魔法使いではない。それだけで、この国では軽んじられ続けていた。俺から見て、飛び抜けた天才であるにもかかわらず。
それぞれに、複雑そうな顔をしているのが見える。詳しいことは聞いていないが、不遇の日々を送ってきたのが伝わる顔だ。だからこそ、俺はしっかりと評価したいところだ。才能の価値としても、大切な仲間としても。
「うんうん。サラちゃんが幸せそうな理由、本当によく分かるよ」
「もちろん言っておくが、今すぐに実現しろということじゃない。下手をしたら、3代かけても実現しないかもしれない」
「でも、確かに見てみたいよねー。自分たちで実現できたら、最高かなー」
「そうだね。誰も見たことがない景色に、たどり着けるはずだよ」
「研究者として、間違いなく歴史に名を残せるのです。燃えてくるのです」
誰もがやる気を出している。本当に大きな夢だからな。歴史に名が残るのは、間違いないだろう。とはいえ、本来はマリンたちのような才能が名を残さない可能性が高いことがおかしい。
魔道具なんてものを作れるのは、それこそ飛行機や電球を超えるかもしれないレベルの発明家なのだからな。
「魔道具だけでも、正しく評価されれば歴史には名が残ると思うがな」
「そこでそう言っちゃうのが、レックス様なんだよね……」
「ほんと、変な癖になっちゃいそうかもー。責任取ってくれるー?」
ソニアはじっとこちらを見てきて、クリスは流し目を向けてくる。間違いなく、からかっているのだろう。とはいえ、評価が嬉しいのも本心ではあるのだろうな。
これからも、しっかりと褒めていきたいところだ。これほどの才能が認められないなんて、おかしいのだから。俺だけでも、認めておかないと。
とにかく、俺の評価をしっかりと伝えておかないとな。どれだけ高く評価しているのかを。
「お前たちは、絶対に手放したりしない。それだけは、確実だな」
「別の意味で言っているのなら、色男なのです。でも、悪くないのです。レックス様のために、頑張るのです」
マリンたちは、拳を握りしめている。無理をしない範囲で、頑張ってほしいものだ。その先には、きっと良い未来が待っているだろうから。
同じ夢を見られる仲間を見ながら、俺は強く頷いた。




