425話 確実に進んで
魔道具に関して、魔力バッテリー部分と実際の魔道具部分を分けるという提案をした。要するに、機械と電池の関係だな。
その研究について、マリンたちが検証を進めてくれたらしい。ということで、また報告を受けることになる。
明るい顔をしているし、まあ順調なのだろうと察せられた。落ち着いた心地で、俺は話を聞いていく。
「魔力バッテリーに関して、規格をそろえるのは問題なさそうなのです」
「もともと、同じものを作る仕組みを作っていたからね。応用するだけだったよ」
「型を作って押し込む感じかなー。それで、後で組み立てるんだー」
工場で想像するままの作り方をしているのだろう。なら、かなり安定して同じ規格のものを作れるのかもしれない。まあ、部品の大きさがズレて組み立てられないみたいな問題とか、型の耐久がどれだけかという問題とか、そのうち発生しそうな問題はあるが。
とはいえ、あまりこちらで先回りしすぎるのもな。俺が答えを出すのが当たり前になれば、お互いに困る。マリンたちは試行錯誤の機会を奪われるし、俺は想定外の事態に対応できない。
だからこそ、ある程度は目に見えた問題を放置しておくのも大事なことだろう。口出ししすぎれば、成長の機会が失われるはずだ。とはいえ、致命的な問題になりそうなら先手を打つ必要はあるが。
その辺は、バランス感覚が難しいところではあるな。俺自身も失敗しながら学んでいく必要があるはずだ。もっと口を出せば良かったとか、ここは黙っているべきだったとか、いろいろと反省する機会はあるだろう。
今から言うことは、おそらくは致命的な問題につながることのはずだ。だから、言っておいていいだろう。
「なら、できることが増えるな。技術の流出に関しても、対策を講じられそうだ」
「聞いてみたいのです。その対策があるのなら、私たちにも利益が多いのです」
「せっかく頑張って、真似だけされたら悲しいもんねー」
「うんうん。ちゃんと技術は必要だけど、不可能ではないからね……」
そうなんだよな。無理やり力押しでこちらの権利を認めさせるという手も、使えなくはない。だが、避けた方が良い手段ではあるだろう。恨みを買うようなやり口は、どうしても他の手が無い時だけにすべきだ。
なら、どうするのか。悪意を持った相手が真似できない形を作るのが理想的だ。ここでこそ、前世の知識が生きるところだろう。
「俺の案としては、いっそ作る場所を分けてしまうということだ。別々の部品を作る場所、組み立てる場所、みたいに」
「なるほどー。1ヶ所だけ見れば良いわけじゃないから、調べるのは難しくなるねー」
「そうだね。ひとりやふたりが情報を漏らしたくらいなら、全体は分からなくなるよ」
「とはいえ、人員と土地の確保も必要なのです。私たちだけでは、難しいのです」
かなり的確に意図を理解してくれている。言ってしまえば、工場で働く本人たちには、何を作っているのかすら分からなくする。例えるなら、ベアリングをなんか円状のものとして作らせるようなものか。
それが実現できれば、製品作成の全容を知るものを限定できる。かなり身近な相手が裏切らない限り、情報を理解するのは難しくなるはずだ。
基本的には、大規模に人員を集めて調査するか、かなりの長期間かけて仕組みを理解することが必要になるだろう。解き明かした頃には、俺たちは次の製品を生み出しているんじゃないだろうか。そうでないとしても、魔道具と言えばブラック家という状況に近づいているだろう。
総じて、かなり良い感じの案だとは思う。無論、マリンが言ったような問題もあるのだが。
「ああ。ミルラやジャンと相談をする必要はある。だが、雇用を作れるという意味でも悪くない気がするな」
「その辺は、レックス様にお任せかなー。手引書を作るくらいなら、できるかもだけどー」
「細かい仕組みまで載せる必要はないもんね。やることだけを指示すれば良いから」
俺が何も言わずとも、俺の意図にそった案を出してくれる。有能という言葉では足りないんじゃないだろうか。
クリスもソニアも、もちろんマリンも、とんでもない才能を持っている。前世の俺なら、顔を合わせることすらできなかったレベルの存在だろう。
まったくもって、幸運な限りだ。ここまで優秀な仲間を、タダ同然で手に入れられたのだから。仕事に対する報酬を払うだけでいいなんて、お買い得なんて騒ぎじゃない。
「本当に、よく先回りをしてくれるな。お前たちのような人が埋もれていたなんて、信じられないくらいだ」
「私たちは、一属性しか使えないからねー。どうしても、あまり注目はされなかったんだー」
「もっと前から知っていたら、こっちに来たんだけどね。学校もどき、良い場所だったみたいだし」
クリスもソニアも、どこか遠くを見ながら言っている。この世界で魔法の才能が持つ価値は、よく分かっているつもりだ。一属性しか使えないとなれば、かなり軽んじられるものだからな。
そして、俺の持つ闇魔法は相当に重要視される。最高峰の教育を当たり前に受けられて、他にも特権を得られるのだから。この世界特有の歪みに、俺は間違いなく助けられている側だ。だからこそ、安易に壊せばいいとも言えない。
俺にできることは、仲間を大切にすることだけ。今も昔も、結局は変わらないことだ。
「サラちゃんとも、もっと早く仲良くなれたかもー。もちろん、レックス様ともー」
「ふふっ、そうかもね。でも、今は今で悪くないと思うよ。学んだ知識を、ちゃんと使えているからね」
「本当に、腕がなるのです。信頼も予算も理解もあって、迷う理由なんて無いのですから」
みんな満足しているようで、本当にありがたい。忠誠心も高くて優秀で接しやすい相手ばかりだからな。絶対に、逃がしたくない存在ではある。
ハッキリ言ってしまえば、味方にならないなら消した方が良いレベルの優秀さだからな。いくらなんでも、そこまでの非道に落ちるつもりはないが。ただ、それほどの才能だというだけだ。
これからも、しっかりと感謝していかないとな。マリンたちはもちろん、紹介してくれたミルラにも。そして、スカウトするきっかけを作ってくれたサラたちにも。
「これからも、よろしく頼むぞ。お前たちと出会えたことに、強く感謝しよう」
「ふふっ。こちらこそ、だよ。サラちゃんには、感謝しないとね」
「こんなにいろいろと変わるなんてねー。ちょっと、想像していなかったよねー」
ソニアとクリスは、お互いの顔を見て笑い合っている。今みたいな顔を、これからも見ていきたいところだ。
才能を無視しても、マリンたちは俺にとって大切な存在になっている。だからこそ、幸せな人生を送ってほしい。
そのためにも、俺だって努力を続けていかないとな。マリンたちが仕えるに値する存在でいられるように。
「お前たちにとって良い雇い主であるように、これからも精進したいところだな」
「もっと良くなっちゃったら、どうなっちゃうんだろー?」
「今でも、絶対に離れる気なんて無いのにね。でも、興味あるかも……」
「そうなったら、レックス様にはもっと成果を見せる必要があるのです。頑張るのです」
マリンの言葉に、クリスもソニアも強く頷いた。もっと成果を出すとか、どうなってしまうのだろうか。クリスやマリンが言うことと似たようなことを、俺も3人に考えていた。




