424話 対策を重ねて
魔道具について、ブラック家の中でも運用が広がっている。今のところは、特に問題らしい問題は起きていない。とても良いことだ。
とはいえ、サンプルとしては足りない可能性があるんだよな。数が少ないということもあるが、とにかく雑な扱いをするとか、猫をレンジでチンするレベルの意味の分からない行動がされていないというのもあるだろう。
一般に売ると思えば、信じられないくらいバカな事をされる前提で商品化するべきなんだよな。そこまでの愚か者は、今のブラック家には居ないらしい。良いことではあるのだが、今ばかりは困る部分でもある。
とはいえ、ある程度はデータがそろったようだ。今日はマリンたちから報告を受けることになっている。さて、どんな事になっているやら。
「魔道具の寿命に関して、ある程度見えてきたとのことだが。どうなった?」
「魔力が不足するだけならば、溜め直せば済むのです。空気中から吸収して、どうにかなるのです」
「ブラック家なら、レックス様たちの魔力が残っているから、効果的だねー」
「うんうん。強い魔法使いが居たほうが、作りやすいみたい。そういう意味でも、良い環境だね」
確かに、以前から空気中の魔力を吸収するとは言っていた。なら、魔力が多い空間の方が使いやすい。道理ではあるな。
とはいえ、課題もある。魔力を一切使えない獣人あたりの村だと、運用が難しいということでもある。やはり、発電のような機構が最終的な課題になってくるか。まあ、今すぐに実行できることではない。それどころか、俺の代で実現できるかも怪しい。おいおいといったところだろう。
ただ、俺の家が便利になるだけでも、大きな意味があるのは確かだ。最悪、貴族向けに売るという選択肢もある。本来のコンセプトからは外れるが、方針として検討する分には悪くない。
「なるほどな。まあ、魔力バッテリーが多すぎた場合は溜められないのだろうが」
「その場合でも、魔力量が多い空間に移れば溜め直せるのです。魔力が不足しても、健康被害はないのです」
「人が入っても、苦しくなったりはしないかなー。元気いっぱいって感じだよー」
「まあ、あまり入らないように気をつけているんだけどね。見えない問題が起こる可能性は、あるから」
前世でも、工業活動で従業員や周囲の住民に被害が出た例は、枚挙にいとまがない。とりあえず、健康診断のような何かを義務付けるべきかもしれない。俺の魔法があれば、かなりのレベルで調査できるはずだからな。
ただ、俺がいないと成立しないような対策だと、事業が拡大できなくなる。そのあたりも含めて、要検討といったところか。
少なくとも、俺の仲間として働いてくれている人たちについては、アクセサリーで定期的に様子を見るか。異常が出た段階で、即座に対処しなければな。
「ちゃんと気をつけているのなら、良いか。環境にどれほど影響が出るかは、気になるところではあるが」
「現状、水が尽きたり木が枯れたりするような問題は発生していないのです」
「とりあえず、経過観察はしているかな。おかしいことがあったら、すぐに分かるよ」
「ブラック家が不毛の大地になっちゃったら、困るどころじゃないからねー」
俺が言うまでもなく、検証はしてくれているようだ。本当に、優秀というレベルじゃないな。前世の知識がなかったなら、俺は素直に新しい発明を喜んでいただけだろうに。よくもまあ、先手を取って考えられるものだ。
自分の凡庸さも思い知らされるところではあるが、頼りになる味方を手に入れられているという満足感もある。
何度でも思うが、俺は本当に周囲に恵まれている。どれだけ助けられているかなんて、分かったものじゃない。だからこそ、仲間たちは絶対に大事にし続けないとな。どんな未来が待っていたとしても。
「ふむふむ。なら、本当に今のところは大きな問題はないんだな」
「とはいえ、魔道具の寿命に関しては解決が難しいのです」
それが本題だったな。マリンは深刻そうな顔をしているが、どんな原因なのやら。まあ、技術的なことに関して俺がいいアイデアを出せるとは思わないが。
とはいえ、話すだけでも解決案が浮かぶ時があるというのは聞く。プログラマーがテディベアに悩みを話していると解決できるらしいからな。
なら、ちゃんと聞くだけでも価値があるはずだ。遠慮なく話せる人になれれば、それだけで立派な仕事だと言えるだろう。
「どういう問題が起きて、寿命が発生しているんだ?」
「溜め直すたびに、使える時間が短くなっていくんだ。それで、最終的には……」
「本当に寿命が尽きたって感じかなー。二度と使えなくなるからー」
ふむ。魔力バッテリーと名付けたが、本当にバッテリーみたいになっているみたいだ。容量が尽きたら、魔道具は二度と使えなくなるのだろう。
どの程度の期間で寿命が来るのかにもよるが、買い替えを誘発する仕組みとしては悪くない。とはいえ、バッテリーの問題だけで全体を捨てるのも勿体ない気がする。
とりあえず、まずは気になったことを聞いていくか。それから、ゆっくりと考えていけば良い。
「処分については、どうしているんだ?」
「分解して再利用しているのです。ゴミについては、ほとんど出ないのです」
「燃やせば全部なくなっちゃうから、それで終わりかな」
「それくらいなら、私たちの魔力でもできるからねー」
そうできるということは、変なガスが出る類のものではないのだろう。完全に気を抜くべきではないにしろ、安心できることではあるな。
ゴミ処理場の問題は、とにかく大きな問題だ。だからこそ、リサイクルできて、できない部分は燃やせるというのはとても大きい。
というか、分解して再利用なんだな。金属まで戻してというレベルではない。それなら、いい案があるかもしれない。とりあえず、言うだけ言ってみるか。
「大体分かった。それなら、魔道具と魔力バッテリーを分けて、取り換えができるようにできないか?」
「なるほど! 確かに、それなら大きく寿命が伸びるのです。壊れない限りは、使えそうなのです」
「思いつかなかったなー。レックス様、やっぱりすごいよー」
「ちょっと、悔しいけどね……。本当に単純だから、思いつけたはずだよ」
3人とも、とても感心している様子だ。機械と電池の関係を応用しただけだから、俺がすごいというわけではないのだが。まあ、前世を説明できるはずもないし、謙遜しても困らせるだけか。素直に受け取っておいて、期待を示すのが良いだろう。
俺がみんなを信じていることだけは、絶対に確かだと言える。その気持ちは、できるだけ伝えたいところだな。
「魔力バッテリーを同じ大きさにするのは、なかなかに難しいと思うが。できるか?」
「問題ないのです。そもそも、製品化するのなら規格を揃えるのは当然のことなのです」
「なら、任せる。ひとまずは、そのまま進めてくれ。お前たちなら、きっと俺の期待を超えてくれるだろう」
そう言った俺に、3人はそれぞれに笑顔を見せてくれた。未来に期待しつつ、俺は3人の成果を待つことにした。




