415話 つながっていく出会い
アカデミーから人材がやってきて、ジャンやミルラ、マリンが面接をしている。俺は最後の段階で合否を決める立場にある。とはいえ、実質的には素通しみたいなものになる予定だ。基本的には、よほどやらかさない限りは採用だな。
そんな中で、面談に来た人を見て驚いた。前にアカデミーで話したサラの友人だったからだ。卒業まではアカデミーにいるみたいなことを言っていたし、来ないと思っていた。
ふたりとも同時に入ってきて、こちらに明るく手を振っている。親しみを感じさせて、少し微笑ましくなった。
おそらくは、ミルラあたりが気を使ってくれたな。俺が知り合いだと、知っていたのだろう。
俺は心からの笑顔を浮かべながら、ふたりと向き合った。
「レックス様、私たちも来ちゃったー」
「サラちゃんは、ここにはいないみたいだね。ちょっと、残念かも」
楽しげに、ふたりとも話している。一度会っただけではあるが、かなり打ち解けられているかもしれない。サラとも仲良くしていたし、社交性が高いのだろう。
とはいえ、少しだけ残念そうに見えるのも確かだ。本当に、サラを気に入ってくれたのだろうな。ありがたいことだ。俺が好かれるよりも嬉しいくらいかもしれない。
せっかくだから、交流を深めてほしいところだな。サラとしても、親しくなった相手と会えたら嬉しいはずだ。
「別の仕事を任せてはいるが、会う機会もあるはずだ。ブラック家から集めた人たちの上役みたいなものだからな」
「そんなに偉いんだ……。サラちゃん、すごい……」
「可愛いのに、アストラ学園に通えるんだもんね。すごいのは、そうか」
感心したように、ふたりは口を開けたり頷いたりしていた。なんというか、感情豊かだなと思える。見ていて心地いいというか。
こんな感じなら、能力が低くても仕事場を明るくしてくれることに期待できそうだ。面接官が認めたこともあるし、相当良い人がやってきてくれたな。できる限り、仲良くしたいところだ。
「アカデミーに通えるお前たちも、十分すごいんだからな? あまり気後れする必要はない」
「レックス様と比べたら、私だってただの平民みたいなものなんだけどねー」
跡取りになれない貴族の娘みたいなものだろうか。それなら、平民とあまり変わらないという自己認識も頷ける。まあ、大学みたいな場所に通える時点で、本当の意味での平民ではないのだろうが。
少なくとも、この世界で学校に通える余裕のある子供はそう多くない。奨学金みたいな制度があるかも怪しいからな。だから、ある程度は裕福なのだろう。
とはいえ、貴族として成り上がることも難しい立場ではあるはずだ。少なくともこの国では、魔法の実力が重要視されるのだから。
「そういえば、自己紹介をしてなかったかも。私は、ソニア・ミーリア・ブロンドっていうんだ」
「私は、クリス・エイン・メイズだよー。よろしくね、レックス様」
ソニアはおしとやかな感じで、クリスは元気な感じだな。ふたりとも、いわゆる女子学生のイメージに近い。前世にいたとしたら、学生にモテモテだっただろう。
今の世界だと、少なくとも貴族からはモテないのだろうな。残念ではあるが、都合がよくもある。親しみやすくて勉強もできるとなれば、どれだけいても困らない人材だろう。
「ああ、よろしく頼む。困ったことがあったら、気軽に言ってくれ」
「やっぱり、ラナちゃんが懐くだけのことはあるんだねー」
「うんうん。思っていたより、ずっと優しいかも……」
かなりこちらを持ち上げてくる。本心に見えるのだから、こちらも気分が良くなってきそうだ。仮に演技だとしても、それができるだけで評価は高い。人間関係の潤滑油になってくれそうだからな。
本当に、サラも良い相手を友達にしてくれたものだ。心から感謝したい。
「とはいえ、人目があるところでは気をつけてくれよ。一応、雇い主というていなんだから」
「分かりましたー。レックス様に、頑張って仕えますねー」
「誠心誠意、ご奉仕させていただきます……」
クリスの言い方は普通だが、ソニアの言葉はちょっといかがわしく聞こえてしまう部分もある。とはいえ、ちゃんと態度を変えてくれる意志はあるみたいだし、まあ十分だろう。
仕事ぶりを見てみないことには確信できないとはいえ、かなりの拾い物に思える。俺も、少しくらいひいきしても良いかもな。ブラック家に定着してくれるのなら、良い戦力になってくれるんじゃないだろうか。
「その調子なら、うまくやっていけそうだな。あまり窮屈をさせないようにしたいところだ」
「大丈夫だよー。研究もちゃんとやってるし、ちょっとは分かるつもりだからー」
「そうだね。むしろ、アカデミーよりも楽しそうかも……」
クリスもソニアもかなり乗り気に見える。ちょっと前のめりになっているくらいだ。姿勢が軽く崩れているあたり、本気っぽい。
やる気があるのなら、こちらでも手助けしていこうか。サラの友達ということを抜きにしても、優先度合いは高くなりそうな相手だからな。
「なら、何よりだ。ひとまず、お前たちには魔力バッテリーの作り方を覚えてもらう。良いか?」
「うん、話は聞いているよー。魔力をためておいて、他の道具で使うんだよねー?」
「使い道についても、考えてみたいな……。せっかく、研究をしているんだからね」
仕事の内容についても、しっかりと理解しているようだ。本当に、感心させられる。ただ言われた仕事をこなすだけではないという意志まで感じて、とてもありがたい。
このレベルの人材が多く集まってくるのなら、最高なんだけどな。まあ、ふたりが優秀なだけだとは思う。期待しすぎても、困るだけだろうな。
「確約はできないが、お前たちの望む仕事ができるように努力はするよ。とはいえ、成果を出してくれないと厳しいが」
「うん、大丈夫だよー。いっぱい気を使ってもらって、ありがとうねー」
「こんな感じだけど、私たち、本当に感謝しているんだ。ちゃんと、私たちを見てくれるから……」
少し熱っぽい目をこちらに向けてきている。言葉が本心からのものなら、苦労がうかがえてしまう。俺のやった程度のことで、本当に感謝しているだなんて言わせてしまうのだから。魔法を使えないという色眼鏡で見られてきた可能性が高い。
いや、演技だとしても苦労しているのだろうな。そうやって相手の機嫌を取ってこなければ、うまく生きてこられなかったという証なのだから。ここでは、良い生活を送ってもらいたいものだ。
「おいおい、まだ仕事も始まっていないぞ。気が早いな、ふたりとも」
「ふふふ、始まっていないうちから、分かっちゃうんだよ」
「うんうん。もう明らかに、他の人とは違うよねー」
にこやかに、こちらに向けて好意的な視線を向けてくる。この調子で打ち解けていって、しっかり仕事をこなしてもらいたい。
サラと会えるくらいの立場になってくれれば、俺としても頼れるだろう。みんなにとって、良い未来のはずだ。
「なら、良いが。これから、よろしく頼むぞ。どうかその力で、俺を支えてくれ」
「分かったよー。私たちに任せちゃってー」
「そうだね。レックス様のところなら、頑張れそうだと思うかな」
そう言って、ふたりは笑顔を見せてきた。クリスとソニアという新しい出会いは、明るい未来に繋いでくれる。そんな予感とともに、俺も笑顔で返した。




