405話 シュテルの誓い
私はレックス様のしもべとして、アカデミーでの成長を望まれていると思う。マリンさんとの交流をひとまず終えて、私はレックス様の手で自室まで転移してもらったわ。
そして私は、今日起こったことを振り返っていたの。レックス様が、私にしてくださったことを。
思い返すだけで、笑みを浮かべている私がいたわ。いくつもいくつも、贈り物をいただいた。それこそが、レックス様の愛のような気がして。
「レックス様は、やはり私のことを考えてくださっているわ」
胸のあたりに、暖かいものを感じるの。そこに手を置くと、強い鼓動と熱がある。その熱は、レックス様にいただいた魔力によるもの。フェリシア様の魔力を、闇の魔力で植え付けていただいたもの。
とはいえ、不足を感じていたのも事実よ。魔力をいただいても、私は弱いままだった。レックス様も含めて、周囲の誰にも勝てなかったもの。ジュリアにも、サラにも。
悔しさに歯噛みしたこともある。嫉妬だって、本当は抱えていた。とても言えることではなかったけれど。
だけど、そんな私ですら、レックス様は見捨てなかった。それどころか、新たなる寵愛までいただいたと言って良い。相変わらず、素晴らしい方よ。私の全てを捧げるべき、最高の主。
いつかは、抱かれることで恩返しができるのならと思っていたわ。けれど、今では欲望となってしまっている。想像するだけで、背筋にゾクゾクしたものが走るの。甘い喜びが、頭を満たしてしまうの。
他の誰かと比べることすらおこがましい、ただひとり至高である方。そのしもべであることが、どれほど嬉しいか。きっとレックス様にだけは、絶対に分からないのでしょうね。
「ただでさえ魔法をいただいて、その上で強化の道筋まで立ててくださる。そんな人、他にはいないもの」
マリンさんの発明を、私に渡してくださった。魔力を貯めることができる道具を。レックス様は、魔力バッテリーと呼んでいたわね。少し大きくて、持ち運びそのものは不便ではあるけれど。ただ、あるのと無いのとでは手札の幅がまるで違うもの。
継続的に戦闘することも、高い威力の魔法を撃つこともできる。きっと、レックス様ならもっと多くの発想をしているのでしょうけれど。私も、負けていられないわよね。
当面は、衣装やカバンを改造して装備するのが基本になるでしょうね。いちいち手に持たずとも使えるようになるのが、当面の目標と言えるわ。それができるだけで、私はもっと強くなれるもの。
あらゆる力の根源は、レックス様にいただいたもの。それが、心苦しくもあるけれど。私は、何も返せていないのだもの。魔力バッテリーを握りながら、少しだけ力を込めてしまったわ。
「だからこそ、私はレックス様のお役に立つべきなのよ」
とはいえ、魔力バッテリーの存在があったとしても、直接的な戦力として役立つことは難しいでしょう。あくまで私は、レックス様だけでは手が足りない状況で使える戦力として割り切るべき。自分の身の程くらい、分かっているわ。
あまり無理をして私が傷つけば、レックス様は確実に苦しんでしまう。それが分かるからこそ、安易に命は賭けられない。嬉しくもあるけれど、もどかしくもあるわ。命を捧げることができれば、話は早いのにね。
ただ、私の目標とすべきことは、結局は以前と変わらないわ。レックス様の支配下にある存在を増やすこと。そのために、周囲を籠絡すること。単純なのよ。
「今するべきことは、アカデミーにレックス様の評判を広めることよね」
レックス様のしもべとなる存在が増えるように、素晴らしさを広める。とても大事なこと。ただ、愚か者まで寄せ付けては困るのよね。完全に排除することは、おそらくは難しいでしょうけれど。
ミルラさんやジャン様ですら、人材の選定を見誤ったことがある。レックス様に反抗する存在を雇ってしまったことがある。そうと知っていて完璧を実現できると思うほど、私は自信過剰じゃないもの。
「とはいえ、外部の人間である私にできることは少ないわ」
いきなりレックス様の魅力を語っても、おかしい人だと思われるだけでしょう。ため息をつきたくなるけれど、事実ではあるわ。
そのためには、話を聞いてもいいと思われるだけの好意を手に入れないといけないもの。しっかりと、慎重に。私は深呼吸をして、思考を整理していく。
「まずは、懐に入らないとね。そこから、一歩ずつ進んでいく。それで、良いのよね」
とにかく、仲良くなるのが近道でしょう。私のことを信じても良いと思わせること。それこそが大事な一手となるの。
レックス様より先に私を好きになる人が居ると思うと、腸が煮えくり返りそうではあるわ。だけど、優先順位を見失ってはいけない。私の感情よりも、レックス様の利益を優先すべき。そこだけは、間違えるわけにはいかないわ。
「レックス様は、もっともっと崇められるべきなのよ」
そうして、レックス様は勢力を拡大していく。多くの存在に慕われる。いずれは、誰もが崇めるべき方なのよ。
本当に、腹立たしくあるわ。レックス様の魅力を理解しない有象無象も、的確に伝えられない私も。
とはいえ、恨んだところで無意味だもの。そんなことに時間を使っても、レックス様は喜ばないわ。私は、私の役割を果たすべき。そうですよね、レックス様。
「最大の目標は、私の手でレックス様の派閥を拡大すること」
だからこそ、人を魅了するのが手っ取り早い手段だとは思うわ。私の言葉なら聞いてもいいと思わせる。そのまま、レックス様のために利用する。
最悪、レックス様そのものは好かれていなくても良いのよ。そんな相手は、使い潰せば済むのだから。私のために、効果的に道具として使う。それでも、レックス様のお役には立てるのだから。
「手段としては、やはり褒め殺しが強いかしら?」
研究について、適当に褒める。思う存分自慢をさせて、心地よくさせる。役立てそうなら、成果を奪い取るのも一つの手段かもしれないわ。
レックス様なら、長期的な関係を築くのが大事だというのでしょうけれど。それもこれも、適切な実力があっての話よね。ミルラさんやジャン様と協力して、見極める必要はあるでしょうけれど。
「アカデミーの人たちは、認められていない。そこを存分に利用するべきよね」
いっそ、何の才能もないフリをしようかしら。実際、私は与えられた魔法を考えても一属性でしか無いもの。逆に利用するのは、悪くない考えかもしれないわ。
弱い小娘だと侮ってくれたのなら、いっそ踊らせやすいというもの。頭の片隅に、置いておきましょう。
「幸い、私は魅力的に見えるらしいもの。指一本触れさせないにしろ、誘惑も手段よね」
すごい研究をしていて、尊敬します。憧れます。そんなことを、適当に言いましょう。私と結ばれる可能性があると、誤解させましょう。その餌で、研究成果を吐き出してもらいましょう。
私はあくまでレックス様のもの。それを理解しない愚か者に、遠慮は不要よね。
「とはいえ、急ぎすぎても良くないわ。失敗するのが、一番迷惑をかけるはずよ」
私の目的は、あくまでレックス様のお役に立つこと。私が成果を上げることではないわ。絶対に、変えてはならないことよ。
だからこそ、周囲とも協力しないとね。私個人の才能は、凡庸でしかないのだから。
「順番通りに進めるのなら、まずはマリンさんと仲良くなるところからね」
私としても、仲良くしたい相手ではあるわ。レックス様を支える仲間だというのなら、大事にしたいもの。きっとマリンさんは、レックス様に墜ちている。同じだから、分かるの。
「あるいは、協力してもらうのも手かもしれない。ひとまずは、話せるようになりましょう」
順当に進めるとすれば、魔力バッテリーのお礼からよね。そこから話を進めていきましょう。レックス様の存在も、共通の話題として良いかもしれないわ。
いずれ、ブラック家に使えることになる人でしょう。だから、仲良くしましょうね。
「お互い、レックス様にご恩のある身。そこから攻めていくべきよね」
私も、とてもご恩を受けた。その事実こそが、マリンさんと仲を深める役にも立ってくれるはず。
ああ、やはりレックス様はどこまでも偉大です。どんな状況でも、私を救ってくださるのですね。ありがとうございます。
「さあ、レックス様。このシュテルが、あなたの支配を深めてみせます!」
胸に手を当てて、私は決意を言葉にしたわ。
私の全ては、レックス様のもの。世界だって、レックス様の手に収まるべきもの。そうですよね、レックス様。




