403話 研究の成果
マリンの実験に付き合って、それからも俺たちはマリンと一緒にいる。まあ、案内もなしにアカデミーを見て回れば、警戒されかねない。だったら、今のところはマリン一本に絞るのは悪い考えではないはずだ。
それに、ミルラの紹介ということを抜きにしても、俺はマリンを信じても良いと思える。接していて心地良いし、話している理論も分かりやすい。そして、実用性も高そうだ。かなりの優良物件だと思う。
マリンはあれこれ紙に書きながら、考え事をしている様子だ。しばらく雑談をしながら見ていると、急に立ち上がってこちらにやってきた。
「先ほどまでの実験で、新しく分かったことがあるのです」
「分かった。聞かせてもらえるか?」
俺がうながすと、マリンはさっそく、勢いよく話し始める。
「魔力粒子どうしの関係性についての話ですね。無属性は反発が強く、闇属性は反発が弱いのです」
「そうなると、闇の刃は魔力の特性に合っていないのか。フィリスの五曜剣のようなものだが」
「魔力操作技術によって、無理やり反発が出る範囲まで押し込んでいるのです。同じ技術なら、無属性が威力が高くなるでしょう」
マリンの説明だと、俺の魔力操作技術はかなり高いってことになるな。まあ、そこは重要じゃない。下手でも上手でも、訓練を続けるべきだということに変わりはないのだから。
もっと大事なのは、いま聞いた性質を、既存の魔法の強化や新しい魔法を生み出すことに使えないかということだ。それができるかどうかが、気になるところだな。
「流石はレックス様です! 偉大なる魔法使いにふさわしいですね!」
「となると、僕が同じことをしたら、魔力量の割には高い威力が出せるってことかな?」
「そうなるのです。ただ、反発が大きい分、押し固めるのも難しくなるはずなのです」
さっそく、ジュリアは案を出している。俺やフィリスと同じような魔法を使えば、高い威力が出るのかもしれない。ただ、操作の難易度もあるから、事故の危険性もあるか。
まあ、よほどメチャクチャな魔力を収束しない限りは、俺の防御魔法で対応できるだろう。そして、ジュリアはいきなり無茶をするタイプじゃない。まあ、問題はないだろう。危険になる前の段階で、必ず相談してくれるはずだ。
なら、俺はどうするか。負けていられないよな。
「逆に、俺は反発の弱さを利用したいな。反発しない範囲で押し込めば、より純度の高い魔力を使えないか?」
「良い発想なのです。試してみなければ分かりませんが、可能性はあるのです」
マリンは頷きながら、そう言った。やはり、机上の空論よりも実践が大事だということは変わらないか。理論は理論で、見当違いの方向に進むことを避ける役には立つのだが。
となると、やはりまずは試してみるべきだろうな。俺の魔法で、魔力を収束するもの。闇の刃と闇の衣、闇の刃だ。
ひとまずは、闇の刃には使えないだろう。魔力の反発を利用して爆発する技だ。全力で魔力を押し固めるのが最適解になる。
闇の衣に関しても、似たようなものな気がする。試してみなければ分からないが、防御力を高めるのなら、結局は密度が大事な気がするんだよな。
となると、残りは一択だ。それなら、まずは動いてみるべきだろう。
「なら、俺は無音の闇刃の訓練に移りたいな。ジュリアも、どうだ?」
「そうだね、レックス様。新しい魔法が使えるようになれば、手段が広がるよ」
「では、私も付き合うのです。何か、良い案が出せるかもしれません。それに、実際に運用を見ることで分かることもあるはずなのです」
マリンは研究熱心でありながら、こちらにも利益を提示しようとしてくれる。本当に、ありがたいな。研究にすべてを捧げてコミュニケーションが崩壊している類の研究者ではないのが、よく分かる。
マッドサイエンティストみたいな相手も、それはそれで興味はある。だが、俺としてはマリンみたいな相手の方が接しやすい。だから、できれば本気でスカウトしたいんだよな。いま持ちかけたら、受けてくれたりしないだろうか。流石に、気が早すぎるか。
「もちろん、私たちもお供いたします。ね、サラ」
「休憩の時間は、抱っことなでなで。譲れない」
「あまり、レックス様に負担をかけるんじゃないわよ?」
「問題ない。レックス様だって喜ぶ。私たちなら、受け入れてくれる」
「訓練が中心だってこと、忘れてないよね……?」
サラとシュテルは、なんかよく漫才をしているな。ボケとツッコミが入れ替わっているので、役割ははっきりしていないが。
ただ、どちらも真剣な表情でボケている。ツッコミ狙いの発言という感じはしないのが、困ったところだ。まあ、そんなところも愛嬌ではあるのだが。嫌と思ったことは、ただの一度もない。
とはいえ、せっかくジュリアが話題を引き戻してくれたのだから、それに合わせたいところだ。あまり脱線をしすぎたら、マリンが困るだろうからな。
「さあ、行くぞ。激しい衝撃をぶつけても問題のない場所はあるか?」
「案内するのです。着いてきてください、レックス様」
そう言われて、俺たちは建物から出ていった。しばらく歩き、周りに何も無い砂だらけの空間に出ていく。おそらくは、被害の多い実験をするための場所なのだろう。
俺たちは、マリンが見守る中で訓練を進めていく。サラやシュテルも、自分の訓練をしていた。
その中で、俺たちは魔法の練習を繰り返していく。俺は魔力の密度を変え続けて、最適な密度を探していた。
しばらく実験を続けていると、ある段階で急に安定し始めたのを感じる。しっかりがっちり魔力どうしがつながっているような感覚だった。
その感覚に身を任せるまま、魔法を使う。すると、想像以上に流れるような剣を放てた。
「無音の闇刃! よし、ひとまずはこれで十分だろう。マリンのおかげだ」
そう言った俺に、マリンは穏やかに微笑んでくる。なんというか、俺の成果を本気で喜んでくれているのが伝わってきた。
「レックス様、僕も新しい魔法を覚えたんだよ! 見てみて! 拡散剣!」
ジュリアは魔力を収束させて、それを一気に解放させていく。激しい爆発が巻き起こり、地面に大きなクレーターができていた。本当に隕石がぶつかったのかと思うほど、強くえぐれている。
ひとまず、防御魔法で全員を守っていた。それがなければ、最悪風で全員が吹き飛ばされたかもしれない。そう思うほどの衝撃だった。明らかに強い魔法が生み出されていた。
「見事だ、ジュリア。それなら、俺にも通用するかもな」
「レックス様に撃つことは、絶対にないかな。でも、ありがとう」
ジュリアは俺に満面の笑みを見せてくれた。やはり、強い絆を感じるところだ。俺達が戦う未来なんて、決して訪れないだろう。心から信じることができた。
「今の光景を見ていて思いついたのです。基本の五属性なら、魔力粒子の振動のズレを利用できるかもしれないです」
マリンもこちらに案を出してくれる。五属性だから、俺やジュリアには使えないだろうが。それでも、多くの仲間にとっては有用な情報だろう。複数属性が使える人は言わずもがな。単一属性だとしても、魔力粒子の振動の性質を活かせるかもしれない。
「ああ、なるほどな。振動の強弱そのものに着目すれば、魔力を通して魔法の動きに応用できると」
「はいです。そこまでの制御は、とても難しいとは思うのですが」
「良い目標ができたわね、サラ。私たちも、負けていられないわ」
「なでなでと抱っこのために、結果を出す」
シュテルとサラは、こちらをじっと見ながらそう言っていた。俺は頷いて返す。
ひとまず、大きな成果が出たと言える。この調子で、もっと先に進みたいものだ。




