396話 またいつか未来で
俺は個人的にミーアに呼び出されて、ミーアの私室に入っていった。そこにはリーナと近衛騎士達がいる。察するに、仕事の話だろうか。
邪神の眷属が一連の事件の黒幕で、倒しはした。ただ、根本的に問題が解決した訳じゃない。というのも、名前の通りただの眷属でしかないからな。本命である邪神が居る限り、脅威が取り除かれていない。
だからこそ、今後も気をつけなければいけないだろう。極端な話、邪神の眷属が復活するか、あるいは新しく現れる可能性もある。油断して良い段階ではないんだよな。
ミーアは真剣な目でこちらを見ている。やはり、真面目な話なのだろう。俺も手伝えと言われるのだろうな。
「これから、近衛騎士には邪神についての調査をしてもらうわ!」
「仮に眷属が関わっていると、近衛騎士でもないと情報を持ち帰ることすらできませんからね」
「レックス君には、カミラさんやエリナ先生を借りることになるけれどね。でも、ちゃんと無事に帰すからね」
ミーアやリーナの口ぶりからすると、俺は調査の人員に入っていないのだろうか。それなら、カミラやエリナに関する報告と見ていいのだろうか。
ふたりのことは、というかハンナに関しても心配ではある。だが、俺が居ないと何もできないとなれば、邪神には勝てない。闇魔法が通じない可能性は、常に想定しておかなければならないのだから。なにせ、闇魔法の根源は邪神だ。
だからこそ、余裕のあるうちにみんなには強くなってもらいたい。あるいは、邪神への対抗策を身に着けてほしい。ミーアの結論も同じなのだろうな。
「ま、たかが邪神の眷属なんかに負けるつもりはないわ。任せておきなさい、バカ弟」
「私達とて、危険を感じる相手ではある。だが、命を優先させてもらおう」
「死んで任務を果たすことは、事実上不可能でありますから。情報を持ち帰るだけでも、大きいでしょう」
みんなそれぞれに、決意を秘めている様子。命を大事にしてくれる姿勢はありがたいな。正直に言ってしまえば、見知らぬ誰かが犠牲になったとしても、みんなには無事で居てほしい。無論、あまり良くない考えだとは理解しているのだが。
だから、危険になったら逃げてくれるというのは助かる。生きてさえいるのなら、俺や仲間が援軍になれば良いのだから。
とにかく、無理はしないでほしいものだ。みんなが居ない世界で、俺は生きていける気がしない。
「私だって、光魔法で対抗するつもりはあるもの! みんなだけに戦わせたりしないわ!」
「俺も手伝いたいところだが、何でもかんでも手出しするのも違うか」
「あんたにいちいち助けてもらわなくちゃいけないほど、あたしは弱くないのよ」
「私達も、ちゃんと強くなります。レックスさんに、負けないくらいに」
「そうでありますな。わたくしめ達は、レックス殿を助ける側になるのです」
みんなの覚悟に水を差すのも、野暮だと言って良い。少なくとも、俺が手取り足取り支えるべき相手ではないんだ。誰もが強い意志と力を持っている。だから、信じることだって大切だ。
それに、保険はいくつもあるからな。みんなに贈ったアクセサリーは、いろいろな魔法が込められている。転移魔法で助けに行くこともできる。
いい加減、信じて任せることを俺も覚えるべきだよな。カミラやエリナに一度負けておいて、俺が居ればどんな戦場でも勝てると思うというのも傲慢だ。
だからこそ、俺は自分の仕事に励むべきなのだろうな。ブラック家を発展させるという、俺が達成すべき目標に向けて。
「逆に、レックス君はもっと頼ってくれていいのよ! 大切な友達だもの。力になるわ!」
「弟子に助けられるようなら、師匠失格だ。フィリスともども、お前の助けになる」
当たり前のことではあるが、俺にだって弱点はある。だから、頼ることだって大切だ。明るい笑顔で告げてくれるミーアや、まっすぐに頷いてくれるエリナにも。もちろん、他の仲間にも。
もしかしたら、俺が負けた相手にみんなが勝つという未来もあるのかもな。だからといって、負けていいとは思わないが。
「ありがとう、みんな。じゃあ、また会おうな」
「そうね! 今度はもっと楽しい時間を過ごしたいものね!」
「私達が会う時には、大体事件が起こっていますからね……。もう少し、平和に近づきたいものです」
リーナは呆れたように言っているが、実際のところ同感だ。普通の友達として日常を過ごしたいというのは、贅沢なのだろうか。
まあ、原作で起こった事件はまだまだ待っている。それを終わらせるまでは、きっと立ち止まれないのだろうな。ため息をつきたいくらいだ。ただ、負けたりしない。絶対にすべて乗り越えて、みんなと平和な時間を過ごしてみせるさ。
「腕をなまらせるんじゃないわよ。無様な姿を見せるようなら、叩き直してやるわ」
「再会を楽しみにしていますね。わたくしめは、もっと成長した姿を見せましょう」
ふたりとも、それぞれに目に力が入っている。カミラはきつい感じで、ハンナはまっすぐな感じで。どちらも、真剣に努力する未来が簡単に見える。俺だって、負けていられない。
俺の強さは、みんなが努力している姿勢を見せてくれるから保たれている部分もある。俺ひとりだったら、今ほどは努力できなかっただろうからな。今後も、切磋琢磨していきたいものだ。
みんなに恥じることのないように、努力を重ねる。それだって、俺の大切な思いだからな。みんなを守りたいというのもあるが。
「時々、連絡してほしいものだ。レックス、お前の声を聞けるのなら、私は嬉しい」
「そうね! 用がなくても、話したいもの! 友達との時間は、とっても大事よ!」
エリナもミーアも、とても優しい顔で言ってくれている。俺との時間を大切にしてくれる人がたくさんいる。それは素晴らしいことだよな。俺がこの世界で手に入れた、一番大きなものだ。
だからこそ、絶対に失いたくない。どんな敵にも奪わせない。もちろん、みんなが好きで居てくれるように努力もする。
仲間が居てくれるから、俺は頑張れるんだ。それは、何があっても見失ってはいけないよな。
「私達が忙しいってこと、忘れていませんか? 暇な時なら、歓迎しますけどね」
「時々なら、甘えたことを言ってもいいわよ。ずっとなら、無視するけどね」
ひねくれたことを言うリーナも、ちょっと厳しい言い回しのカミラも、俺を大事にしてくれている。強く伝わって、胸が暖かくなるな。
やはり、できるだけ連絡したいものだ。ただ話せるだけでも、幸せな時間になるはずなのだから。
「なら、たまには連絡するよ。俺も、みんなと会えないなら寂しいからな」
「今度は事件じゃないと良いですね。面倒事ばかりは、勘弁です」
「ふふっ、また会った時も、きっと楽しく話せるでしょうね! 私達は、いつでも繋がっているわ」
「しばらくは別の道を歩みますが、また交わることもあるでしょう。その時は、よろしくお願いします」
また会う時には、きっとみんな見違えている。そう思えた。だからこそ、俺もみんなに見違えた姿を見せたいところだ。
別れは寂しくはあるが、再開の楽しみもある。だから今は、笑顔で別れよう。そしていつか、また笑顔で会うんだ。
「ああ。俺も頑張るから、お前達も頑張れよ。必ず、平和を手に入れような」
みんなは一斉に頷いてくれた。俺もみんなも、未来に向けて進んでいく。その先に、幸せな時間が待つと信じて。
だから俺は、まだ立ち止まったりしない。




