392話 大きな区切り
邪神の眷属を討ち取って、それからは新しい闇魔法使いが発生しなくなった。つまり、今回の事件は解決したと言えるだろう。
とはいえ、王宮で敵が暴れたこともあって、復興には相応に時間がかかるだろう。犠牲者の補充だって必要だろうし。
近衛騎士も、今は三人しか居ない。実力としては十分ではあるはずだが、なにぶん数が少なすぎる。王家にとっては、今後も残る課題だろうな。
とはいえ、一段落ついたことも事実ではある。それを祝うための式典が、王家によって準備されていた。俺と近衛騎士が、功労者として称えられるのだとか。
俺達は玉座の間に集まって、ミーアとリーナの前にひざまずいている。他にも多くの人が参加している様子だ。
ミーアは華やかな笑顔を浮かべながら、こちらに手を差し出した。俺はその手を取り、頭を下げる。続いてミーアは話し始める。穏やかに。しかしハッキリと。
「私から、レックス・ダリア・ブラックに感謝の言葉を。あなたのおかげで、多くの人が救われました」
「まったくもって、私達のふがいなさを感じるばかりです。今後とも、私達に手を貸してください」
リーナはあまり表情を変えずに言っている。何度見ても、ミーアとリーナは対象的だよな。だが、いいコンビなのだと思う。明るくまっすぐなミーアと、皮肉屋だが視野が広いリーナだからな。
まあ、最近のミーアは少し残酷さを感じるとはいえ。ただ、表向きには明るい王女だというのは変わらないと思う。
ミーアひとりではできないことも、ふたりならできる。そう見えるんだ。だから、リーナの存在はとても大事なのだろう。一歩引いて冷静な目で見るリーナが。
もちろん、俺は王女姉妹に手を貸すつもりだ。大切な友達だし、尊敬できる仲間なんだからな。それは、ずっと変わらないはずだ。俺の決意を、ハッキリと言葉にしていく。
「もちろんです。王家の、ひいてはレプラコーン王国のために、粉骨砕身いたします」
「近衛騎士のみなさんも、ありがとうございました。被害が減らせたのは、間違いなくあなた達のおかげです」
ミーアは頭を下げる。それに対して、近衛騎士たちも深く頭を下げて返す。それから、俺達は楽な姿勢になった。
「所詮は眷属。その程度に苦戦させられたことを、恥じ入るばかりよ」
「私達が役に立てるのなら、力を尽くしましょう。それが、近衛騎士の役割だ」
「今後とも、両殿下にわたくしめの忠義を捧げます。なんなりと、お命じください」
カミラは相変わらずの態度だ。とはいえ、どこまでもまっすぐに進む姿は、憧れる部分もある。孤高というのは、カミラのような存在のことを指すのだろう。そう思える。
エリナは堂々とした態度を崩さない。ブレない芯を感じるところだ。やはり、俺の尊敬する師匠なのだと感じる。どこに居ても、強く居続けるのだろうな。
ハンナは強い意志を秘めた目をしている。悩みは完全に振り切れた様子で、安心できるところだ。これからは、きっと王女姉妹を強く支えてくれるはずだ。
「感謝します。私達が今後気をつけるべきことは、明確です。邪神の眷属は、必ず災いをもたらすでしょう」
「たかが一体に、大きな損害を受けたわけですからね。本腰を入れて当たらなければ、王国どころか世界が危険です」
邪神の眷属は、これまで三体倒してきた。どれも俺が関わっていて、最終的に俺が倒している。一度目はアストラ学園に封印されていたものが教師によって解放された。二度目は学園の課題の最中に襲われた。今回で三度目のはず。
ミュスカは一度負けていて、今回も俺が来るまで倒せなかった。王女姉妹と近衛騎士が居たにも関わらず。ただの眷属に、だ。だから、よほどの脅威であることは間違いない。
うっかり封印が解かれてしまえば、大規模な被害が出るだろう。容易に推測できることだ。だからこそ、対策を講じなければならない。そうできなければ、いつかどこかで大きな犠牲が出るだろう。
俺が居ない場所で眷属が現れる可能性もある。できるだけ早く、有効な手段を確立したいものだな。
「もちろん、俺の力のすべてをかけるつもりです。平和のために、戦いましょう」
「ええ、お願いします。もちろん、私も立ちます。光魔法の力は、今のような時のためにあったのでしょう」
ミーアは力強く前を見て宣言する。実際、原作では光魔法は闇魔法への大きな対抗手段のひとつだった。だから、ミーアが強くなれば、きっと邪神の眷属は倒せるはずだ。
とはいえ、特別な力を持っていなければ倒せないというのは、あまり良くない。できることならば、みんなに倒せるのが理想ではある。
「私も、負けていられませんね。カミラさんやエリナさんには、可能性を見せてもらいましたから」
「あたしも突き進むまでよ。本当にたどり着くべき境地は、まだ先にあるんだもの」
「私も努力を重ねなくてはな。ただの剣士であったとしても、邪神の眷属を討てるように」
「わたくしめも、もっと高みを目指しましょう。近衛騎士の名に恥じないように」
みんながそれぞれに決意表明している。邪神の眷属を倒せるくらいになってくれれば、安心して任せられる。それくらい強くなってくれるのが、理想ではある。
俺も、もっともっと強くならないとな。模擬戦とはいえ負けてしまったのだから、努力に甘さがあったはずだ。更に強い技を生み出して、運用もうまくなる。そうすることで、もっと先に進めるはずだ。
「頼もしい限りです。私も、皆さんの主として相応の力を見せましょう」
「皆さん、今後も私達に力を貸してくださいね。あなた達こそが、私達の騎士なんですから」
ミーアは胸を張って宣言して、リーナは俺達に軽く微笑みかける。やはり、リーナは俺達を信じてくれているのだろうな。人間不信の気が見えていた人だから、感動もひとしおだ。
二人の期待に応えるためにも、必ず結果を出さないと。俺にできることは、戦うことくらいなんだから。まだまだ俺は強くなれる。それは、エリナやカミラが示してくれたのだから。
「近衛騎士ではない俺も、全力で手伝いましょう。あなた達の願いを叶えるために」
「ま、本当の勝ちを手に入れるまで、走り続けるだけよ」
「私達の手で、未来をつかんでみせよう」
「ふふっ、私にやることがないくらいだと、嬉しいですね。痛いのは、嫌ですから」
「なら、私に活躍の場を譲ってもらいましょうか。私の力を、見せてあげますよ」
ミーアもリーナも、冗談めかして言っている。仲の良さを感じられて、いいな。やはり、王女姉妹が手を取り合っている姿は最高だ。これから先も、ずっと仲良くしていてほしいものだ。
ふたりなら、きっと良い未来を作ってくれるはずだ。俺も一助になりたい。だから、邪神の眷属なんかに負けたりしないさ。いずれは、邪神だって倒してみせる。闇の根源そのものだとしても、手段はあるはずなのだから。
「あらあら。張り切る姿も、素敵ですよ。やっぱり、見ているだけは嫌ですね。可愛い妹にだけ、戦わせたりしません」
「もちろん、わたくしめ達も戦いましょう。両殿下を支えることこそ、わたくしめの役目なのですから」
「絶対に、邪神の脅威を打ち払いましょう。俺達の未来を、明るいものにするために」
「ええ。レックスさんも、力を尽くしてくださいね。お願いします、ね」
みんなで手を取り合えば、きっとどんな敵にだって勝てる。そう信じながら、俺は強くなる決意を固めていた。




