391話 ミーア・ブランドル・レプラコーンの企み
邪神の眷属が王城の地下にいることは、本当は知っていたの。王家の人間だけに口伝で知らされる伝統があったから。
だから私は、邪神の眷属をどう利用するか、ずっと考えていたの。もちろん、どうやって倒すかもね。
結論としては、レックス君と結婚するための計画に使うことにしたわ。レックス君に活躍してもらったり、敵と味方を切り分けたり、いろいろとね。
今回は、レックス君を罪人として地下に送り込んだのだけれど。それに対する周囲の立ち回りは、ずっと見ていたわ。これ幸いとブラック家やレックス君を追い込もうとした人が誰かなんて、絶対に忘れないわ。ずっと、私の敵として刻まれる名なのよ。
もちろん、レックス君の無実を信じていた人も忘れないけれど。私にとって大切な味方となりえる存在だもの。大事にしてあげないといけないわよね。
結果としては、レックス君の手によって邪神の眷属は倒されたわ。もちろん、私達も協力したけれどね。近衛騎士の力だって、そう遠くないうちに広まっていくでしょう。当然、私の手でも噂を流すけれど。
総じて、計画は順調に進んでいたわ。私は自分の部屋で、思わず笑顔になってしまったの。
「レックス君には、うまく活躍してもらえたわね!」
虹の祝福のお披露目にもなったもの。それに、みんなの力を存分に発揮できたわ。だから、計画にある大きな目的のひとつは、大成功と言って良いわ。
邪神の眷属によって、多くの人達が倒れたこと。それすらも、うまく進むきっかけになったわ。ちょうど、私の敵が死にやすいように敵を誘導したもの。
例えば、レックス君を馬鹿にしていた人が城門から出そうな時に敵を転移してもらったり、ね。他にも、いろいろとあるわ。リーナちゃんを降嫁させようとしていた人。エリナ先生を排除しようとしていた人。
ある人は通路で敵にひき潰されて、ある人は武名を上げようとして当然のように負けたわ。私にとっていらない人を処分できたのも、ありがたいことよ。邪神は私の敵ではあるけれど、感謝したいくらい。
「敵の強さを、身を持って思い知らせてあげたんだもの。そんな敵を倒せるレックス君は、強いに決まっているわよね」
あっさり倒された魔法使いは、たくさんいたもの。そんな人たちの強さを知っていれば、敵の強さは分かるものね。良い目覚ましになったでしょう。
もともと、私の足元にも及ばない人たちではあったわ。だけど、ちょっと魔法が使える程度でうぬぼれていたもの。身の程をわきまえる大切さを、しっかり知ることができたわよね。
ただの三属性程度で、私にふさわしいとうぬぼれる。そんな人は、私の国には必要ないもの。魔法が人間の価値だなんて言うつもりはないけれど、程度の低い魔法しか誇れるものがないのではね。
闇魔法使いが、光魔法使いがが、五属性使いが、どれだけ高い実力を持っているか、ようやく分かったんじゃないかしら。今になっても分からないというのなら、そんな愚か者だって不要よ。
「レックス君を認めた人は、少なくとも表向きには増えたでしょう。いい傾向だわ」
命を救われておいて、まさか悪しざまに言ったりしないわよね? 私がレックス君に謝罪の場を作る意味を、理解できないとは言わないわよね?
権力争いに力を入れるというのならば、自分の能力を示すことよ。そうでないのなら、ふさわしい立場にしてあげるだけ。まだ反発するというのなら、レプラコーン王国の敵よ。
本当に、醜い人ばっかりで嫌になっちゃうわ。だからリーナちゃんは、ずっと心を閉ざしていたのよね。今になって、気持ちが分かるような気がするの。
才能もなく、努力もしない。その上自分の立場に文句を言うばかり。人を見下すばかり。そんな人たちに囲まれるのが、どれほど苦痛か。何一つとして私に勝てないような人が、私に文句を言う。見下そうとする。いっそ、消えて無くなってしまえばいいのよ。そう思う瞬間もあるわ。
ただ、無能にも無能なりの使いようがある。みんなの敵になってもらうという、大事な役割があるわ。あるいは、みんなの下になってもらうでも良いわね。
だから、完全には排除しない。使い潰して、私達の幸福を紡いでもらうわ。礎として、しっかり役に立ってね。それすらできないのなら、王国どころかこの世に居場所なんてないのよ。
「とはいえ、まだまだレックス君の敵もいるもの。しっかりと、処理しないとね」
私達の未来にとっては、絶対に邪魔になる人。最低でも、邪魔できない立場に叩き落とす必要があるわ。そのためなら、レックス君の敵である私を演じましょう。
レックス君に謝罪することが屈辱だったと、私の狙いを無に帰したことが許せないと、そんな私をね。
だから私は、レックス君を悪く言うことだってためらわないわ。それが、私達の未来を紡ぐためなんだもの。
「さて、まずはレックス君が邪神の眷属を解放した体で話しかけてみましょう」
地下でレックス君は邪神の眷属を見つけ、自作自演で王城を襲わせた。私はそう疑っている。私の演技力が試されるわね。でも、やり遂げてみせるわ。レックス君と結婚するためだもの。
きっと、レックス君を傷つける瞬間だってあるのでしょう。だとしても、立ち止まらないわ。その分、未来の幸せをあげるから。私が妻として、いっぱい尽くしてあげるから。
だから、私の敵だと宣言されても、私を嫌わないでほしいの。それだけで、どれだけでも頑張れるから。
「ふふっ、レックス君を疑うのなら、乗ってくるわよね。楽しみよ」
地獄までの道を、私が歩ませてあげる。私は絶対に、レックス君との結婚を邪魔させたりしない。
だから、色々と声をかけていかなくちゃね。私のもとに、反レックス連合を作り上げる。そこから、すべては始まるのよ。
「私は、レックス君と結ばれるのにね。だから、レックス君の敵は私の敵なのに」
でも、レックス君に対抗するだけの手段なんて、誰も持ち合わせていないもの。光魔法を持つ私に頼りたくなるのは、必然よね。
だって、ただの闇魔法使い相手ですら、近衛騎士が全滅する程度なのよ。空前絶後の闇魔法使いであるレックス君に、どうやって勝つのかしらね。だからこそ、隙ができる。私が誘導するためのね。
「とにかく、ブラック家とも協力しましょう。暗殺でもなんでも、やってみせるだけよ」
こちらから、敵の情報を流していきましょう。弱みを握って、急所を知って、徹底的に潰していきましょう。
妻子が弱みだというのなら、捕らえさせるだけ。他の貴族が急所だというのなら、援助させてもいいわ。私は、手段なんて選ぶ気はないもの。
「レックス君の味方を増やすのも、大事なことよね。ミルラさんとも協力して……」
レックス君の秘書であるミルラさんは、魔法の才能がないから実家に見捨てられた。そんな人は、ミルラさんの出た学校にはいっぱいいるわ。スヴェルアカデミーにはね。
だからこそ、レックス君の存在は劇薬になるのよ。自分の才能を認められるって、どんな感覚なのかしらね。聞いてみたいものだわ。
「魔法に関係なく人を認められる。それもレックス君の才能だもの。使っていきましょう」
スヴェルアカデミーは、魔法に関わらない部分では知の最高峰と言えるでしょう。だからこそ、レックス君は当たり前のようにアカデミーの人間を尊敬するはずよ。
誰からも軽んじられていた存在が、純粋な尊敬の目を向けられる。きっと、喜んでしまうのでしょうね。
「ミルラさんみたいな忠誠心は、期待できないでしょうけど。それでも、多くの人にとって恩人になるはずよ」
そうなってしまえば、レックス君はアカデミーを手中に収めちゃったりして。なんて、そこまでは行かないでしょうけれど。でも、アカデミーの技術を手に入れるくらいはするんじゃないかしら。
結果として、レックス君の勢力は拡大する。私達の未来にもつながる。素敵なことよね。
「私達が目指す未来を一番体現しているのは、レックス君よね」
魔法の有無も、種族も、才能も、身分も、何も気にしない。ただ好きになった人を、好きで居続ける。どれだけ難しいことか。だからこそ、レックス君の特別な力なのよ。
「みんなを好きになる才能なら、レックス君が一番よ。だから、好きになってほしいの」
私を、リーナちゃんを、みんなをね。でも、私が一番であってほしいわ。そのためなら、何だってするの。レックス君が想像もしないようなことでもね。
きっと、私の手は汚れ尽くすのでしょうね。でも、しっかり洗って、あなたと手を繋いでみせるわ。一番キレイな姿を、目に焼き付けてもらうわ。
「私達の未来のために、レックス君にはもっと好かれてもらわないとね! 頑張らなくちゃ!」
その先に、私達の結婚式が待っている。本当に、楽しみよね。




