表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
物語の途中で殺される悪役貴族に転生したけど、善行に走ったら裏切り者として処刑されそう  作者: maricaみかん
10章 一歩のその先

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

356/573

355話 本当に欲しいもの

 ホワイト家とアイボリー家の領地の境あたりに転移すると、武装した集団が集まっているのが見えた。アイボリー家の証を掲げているので、偽装でなければ敵の仕業だろう。


 まあ、アイボリー家の中の動きを魔力で確認する分には、偽装とは思えないのだが。どうにも、軍隊を手配しているっぽい形跡が見える。


 しかも、ホワイト家の方に向けて、部隊がまっすぐに進軍しているからな。どう考えても、侵攻狙いとしか思えない。となると、俺のやるべきことは決まったようなものだな。


「ふむ、なるほどな。こうして見ると、明らかにホワイト家を狙っているな」

「演習って言い訳ができる感じじゃないよね。もう、敵対する気満々だよ」


 ミュスカも同じ考えとなると、俺の思い込みである可能性は低くなった。さて、どう動いたものかな。正々堂々と真正面から名乗りを上げてぶつかるというのも、ひとつの手ではあるが。


 ただ、ミュスカにとっては負担だろうとも感じる。俺は防御魔法があるから安心だが、ミュスカは違うからな。俺の自己満足には付き合わせられない。


 まあ、俺が勝手に決めるのも違うよな。まずは相談。そこからだ。とりあえず、敵はこちらに気づいていない様子なのだし。


「さて、最低でも撤退させたいところだが。どうする、ミュスカ?」

「やっぱり、王道じゃない? 力で押し通すだけだよ」


 にこやかに笑いながら、案を出される。顔と発言が一致していないが、まあ気楽なぐらいで居る方が安心だ。油断まで行くとマズいとはいえ、震えているよりマシだからな。


「良い人みたいな提案はやめたのか? 俺達のやり方に染まってきたな」

「私が本当に欲しいものは、もう見つかったからね。誰からも好かれる必要はないんだ」


 穏やかな笑顔で語っている。雰囲気が柔らかいし、事実なのだろうな。とても嬉しいことだ。ミュスカが幸せになれるのなら、それが一番だからな。


 いくらなんでも、メチャクチャな望みを持っているとは思えないし。いや、原作では主人公を破滅させようとしていたのだが。まあいい。ミュスカの願いを教えてくれるのなら、手伝いたいところだな。やっぱり、大切な友達なのだから。


 ミュスカが本当の笑顔を見せてくれるのなら、きっと素敵なんだと思う。だから、いつか見たいものだ。


 まあ、今までのミュスカの態度でも、得たものはあるのだろうが。それを全部捨てるのは、もったいない気もする。全ては本人次第ではあるにしろ。


「だからといって、人から好かれるのは便利だとは思うが。無理をしろとは言わないが」

「そうだね。レックス君の役に立つためにも、頑張るよ。じゃあ、まずは私に任せて」


 そしてミュスカが魔力を動かすと、敵軍が喉を押さえたり、うずくまったり、膝をついたり、とにかく弱っていると言うか、苦しんでいる様子だった。


 バタリバタリと人が倒れていき、どこか非現実的な光景にも思える。


「なんだ、これ。急に魔力が……」

「苦しい、誰か、助けて……」

「おい、目を覚ましてくれ……。俺も、死んでしまうのか……?」


 そんな風にどんどんと死んでいき、最後には鎧や剣などの装備だけが残っていた。人の居た痕跡すら感じないくらいの異常な光景で、ここに来た人は奇妙な様子に首を傾げるのだろうな。


 生きていた証すら残らない、とても残酷な技だ。おそらくは、全身の魔力を奪った後、敵の体すらも魔力へと変えて奪ってしまったのだろう。まともな手段では、対策なんてできないんじゃないだろうか。


「恐ろしい技だことだ。相手、なんで死んだのか分かっていないんじゃないか?」

「レックス君も慣れてきたんだね。私が殺したのに、怖がったりしないんだもん」


 もと言うあたり、ミュスカも殺しを経験してきたのだろうな。まあ、この世界では当たり前のことではある。そのかしこに火種があって、どうしても逃れられない。


 俺としては、悲しくもあるが。俺だって、何度も何度も殺してきたからな。ついこの前だって、俺に懸賞金をかけた敵を大勢殺したのだし。


 今となっては、人が目の前で死んだくらいでは心が動いたりしない。冷たい人間になってしまったものだ。とはいえ、仲間が死ぬことだけは避けたい。そのためならば、俺は今後も殺し続けるのだろうな。俺も堕ちたものだ。


「まあ、何度も戦ってきたからな。殺すのも人が死ぬのも、慣れてきたのは事実だ」

「レックス君が殺したくないのなら、私が代わってあげてもいいよ。別に、特に何も思わないし」


 笑顔で語っているが、本当に何も思わない訳がないんだ。俺だって、確かに傷ついていたのだから。そんな思いを、大切な相手にさせたくない。だから、俺が逃げ出すことはできない。


 ミュスカにすべてを任せても、きっとアイボリー家に勝てるのだろう。さっきの魔法を見れば、簡単に分かる。おそらくは、ただの魔法使いでは抵抗すらできないだろうな。それでも、罪をともに背負うくらいのことはする。それが、仲間というもののはずだ。


「いや、ダメだ。表面では何も感じていなくても、心の奥で傷がつくものなんだ。俺には分かる」

「そっか。レックス君は優しいね。でも、私だって戦力になるんだからね。レックス君は一人じゃないよ」


 優しく微笑みかけてくれる。今の笑顔は本物だと、心から信じられた。ミュスカはもう、俺にとって大切な仲間なんだ。きっと、これから先も揺らがないと信じたい。


「ありがとう。それにしても、ミュスカはだいぶ強くなったな。見違えたよ」

「レックス君の力になりたかったからね。ただの闇魔法使いじゃ、足りないでしょ?」


 そう言いながら、胸元で拳を握っていた。あまりにも強くて、フィリスが相手ですら勝つんじゃないかと思える。だから、普通の努力ではないのだろう。とはいえ、心強いのは確かだ。


「今の俺なら、もしかして負けたりしてな」

「ふふっ、レックス君相手でも勝てる切り札を、用意していたりしてね」


 冗談めかして言うが、目には確信のようなものが見えた。きっと、切り札は本当にあるのだろうな。そうなると、本当に負ける未来もあるだろう。


 ただ、ミュスカは俺を敵だと考えていないはずだ。だって、切り札の存在そのものを隠しておいた方が、敵対する時には都合が良いのだから。


 やっぱり、ミュスカは以前より心を開いてくれている気がする。本当に、嬉しい。


「それは怖いな。でも、お前が敵になることなんてないだろう」

「信じてくれてありがとう。これからも、レックス君のために頑張るね」

「まあ、俺以外にも友達のためにも頑張ってくれよ。なんて、疑い過ぎか」

「ふふっ、私はレックス君が一番大事だからね。だから、そのためにルースさんを手伝っているんだよ」


 そう言われて、ルースのことが気になった。状況を探ってみると、順調そうだ。とりあえず、一安心ではあるな。


「今のところは、ルース達も無事みたいだな。さっさとアイボリー家の当主を打ち破るとするか」

「そうだね。私たちが手伝えば、もっと早く終わるはずだからね。急ごう、レックス君」

「ああ。俺達の手で、ルースの未来を紡ぐんだ。そうして、また平和な時間を過ごそう」

「お茶会とかだよね。ふふっ、楽しみ。レックス君には、手作りのお菓子を用意してあげるね」


 ミュスカと穏やかな時間を過ごす未来は、とても良い時間になると思えた。だからこそ、アイボリー家の当主、ユミルには倒れてもらう。


 俺の日常を取り戻すために、死んでもらうとしよう。恨んでくれても良いが、結果は変わらないだろうな。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ