352話 リーナ・ノイエ・レプラコーンの覚悟
私はレプラコーン王国の妹王女として、様々な計画を練っていました。大きな方針としては、他国を利用してレックスさんと結ばれる道筋を作ることです。ただの妹王女のままでは、姉さんに奪われるだけでしょうから。
どうにかして、私とレックスさんが結ばれるだけの理由を作る必要があるんです。いっそのこと、レックスさんが王女の姉妹を両方手に入れてもいいくらいの存在になってくれたら、理想なんですけどね。
そのためには、私の権力を拡大する必要がある。皮肉なものですよね。権力よりも大事なものを見つけたがゆえに、権力を求めるだなんて。でも、悪くないです。
これまでの私は、ただくすぶっているだけでした。だから、目標に向かって突き進む楽しさを知ったのも今なんです。それもこれも、レックスさんのおかげですね。
だからこそ、レックスさんと結ばれる未来だけは譲れない。側室でも良い。妾でも。ただ一緒にいられるならば、それで良いんです。まあ、王女が妾なんてあり得ないですから、結局は結婚を目指すんですけど。
そのためにも、レプラコーン王国以外を利用する。その方針は変わっていません。少しずつ、輪郭が見えてきたところです。
「他国に干渉するといっても、まずはレプラコーン王国で足場を固めないといけませんね」
どうあがいても、私は王女としての立場から逃れられない。そして、私の持っている最大の手札が、王家の血筋。ならば、最大限に利用するのが当然ですよね。
私にだって、王女としての力を振るうだけの覚悟があるんです。どんな敵が居ても、踏み潰すだけの決意が。
そのためには、全力で周囲を利用する必要がありますよね。大好きなレックスさんや姉さんですら。出遅れた分は、絶対に取り戻さないといけません。
「国内で何の立場も持っていないのならば、有力な手札になりませんから」
王女としての生まれは、権力とともに価値を持つ。だからこそ、私は自分の立場を盤石にしないといけません。無論、姉さんから玉座を奪おうとは思いませんが。そんな未来は、レックスさんは望みません。それに、私も。
ですから、骨肉の争いにはならないでしょうね。それでも、私は他者を踏みにじるのですが。私が本物の王女になるために、邪魔者を潰す。そう決めたんです。
「さてと、どうやって地盤を固めましょうか。やはり、飴と鞭ですよね」
同じ人に甘い面と厳しい面をぶつけるという意味でも。それに、敵には厳しく、味方には優しくするという意味でも。
ただ、具体案は必要ですよね。とはいえ、今の私が持っているものは、魔法の才だけ。味方には、恵まれませんでしたから。もちろん、レックスさんや姉さん、そして他の友達は大事に思っていますけれどね。
それでも、私の権力には結びつきません。ですから、魔法を活用するのが私の道筋でしょう。
「鞭には、私の力があれば良い。光魔法でないと侮る者たちに、思い知らせるだけで」
私は、五属性。光魔法使いでないとしても、圧倒的な才能なんです。ようやく、私は自分の正しい価値を認識できました。
結局のところ、私を侮る者たちには、何も理解できていない。影姫と呼んで軽んじるだけの人には。だから、本当の恐怖を教えてあげます。ただの凡百の魔法使いでは、万軍を揃えようとも無意味だという事実をね。
たかが五属性だと思っているのならば、甘いんですよ。三属性ですら、魔法使いの上澄み。そして、重ねる属性の数字の意味は加算ではなく、乗算ですらない。ただ二つ数字が違うだけではないんですよ。
三属性ですら、人生で見かけることすらない人は多いですからね。私の本当の才能は、ただの凡人には誰一人として理解できない。
だから、しっかりと刻み込んであげます。私にとって、敵が束になったとしても無駄だという事実をね。
「もっと早く、力をぶつける選択肢を取っておくべきでしたね」
そうすれば、甘く見られることなんて無かったでしょうに。痛みをもってして、私が何なのかを知らせてあげればよかったんですよ。これまでの私は、甘すぎました。
抱える領地ごと、邪魔な貴族を消すことだってできる。今の私には、造作もないことです。だから、見せしめになってもらいましょう。私を侮ることが、どんな結果を招くのか。それを教えてあげますよ。
「好かれるために必要なのは、顔色をうかがうことではない。気づくのが遅くなってしまいました」
恐怖を刻みつけることは、とても大切なこと。王女に逆らって、ただで済むなんて思わせておくのがダメだったんです。バカにするのならば、当然死ぬ。そうであってこそ、権力者というものですから。
父さんは、弱すぎましたね。他者の顔色をうかがうしかない程度の才能でした。政治的才覚としては、悪くなかったのかもしれませんが。あくまで弱い王としての生き方でした。
ただ、私は違う。圧倒的な力をもってして、支配することができるんです。だから、父さんとは違う道を歩みますよ。
「飴としても、私の力は使えそうですね。天変地異を効率的に引き起こせば、あらゆる面で有効です」
乾燥地帯に雨を降らせて、飢えや乾きを抑えても良い。荒れ地を開拓するために、地形を変えてしまっても良い。軍事的手段として、砦を地面ごと吹き飛ばしても良い。
あるいは、鉱山を潰して、中の金属を引っこ抜いても良いんです。それとも、水源を増やして、人類の勢力圏を拡大しましょうか。
いずれにせよ、私についてくるものには、相応に良い思いをさせてあげられますよ。
「私に従うものには利益を。敵対するものには破滅を。単純な話で良かったんですよ」
それこそが、私の権力を拡大するでしょう。利益を見た人も、破滅を見た人も、選択は同じ。私におもねるしかないんですから。そうでなければ、終わるんですからね。
私は、もう迷わない。王女として、生かすも殺すも私が決めます。私の望む人が生き、いらない人が死ぬんです。
「誰からも好かれるなんて、幻想です。必要な人にだけ好かれていれば、それで良いんです」
だから、私の役に立ってください。それだけが、生きる道。遠くない未来に、誰もが知ることになるでしょうね。少なくとも、レプラコーン王国では。
きっと、姉さんは止めませんよね。汚れ役が必要だということも、理解するのでしょうから。私は構わない。誰に嫌われようとも、大切な人がそばに居るのなら。
だから、レプラコーン王国を変えてみせます。私の手の上で転がりなさい。
「そして、帝国にも聖国にも、できれば連邦や教国にも土台を作りたいところです」
帝国なら、歓迎されるんじゃないでしょうか。力だけで成り上がれる国なんですから。聖国だって、魔法を崇める国ですからね。私の価値は、理解できるでしょう。
問題は、連邦と教国ですけど。まあ、急がなくてもいいですね。まずは、足場を固めましょう。
「ようやく、方向性が固まりましたね。後は、実行するだけ」
そこから、ようやく私の人生が始まるんです。ただうつむくだけだった日々は終わって、まっすぐに前に進めるんです。
「レックスさんにも、いずれ動いてもらいましょう。私たちの未来のために」
そうですね。私にふさわしい旦那様に、なってもらいましょう。だから、もっともっと活躍してくださいね。その舞台は、用意しますから。
「私はフィリス・アクエリアスを超える。その先にこそ、求める未来があるんです」
最強のエルフ。最高の魔法使い。レックスさんの師匠。だからこそ、負けられない。同じ五属性として。いえ、同じ魔法使いとして。格の違いを教えてあげるんです。
だから、今日も私は魔力を絞り尽くします。全身を引き絞られるような痛みを味わうけれど、確かに魔力は増えるんですから。この痛みこそが、私の愛です。
「魔力が尽きる苦しみが、私たちの願いを紡いでくれる。そうですよね」
レックスさんのためになら、なんだってします。どんな苦しみにだって耐えてみせます。
だから、私の隣で笑ってください。手を繋いでください。それだけで、良いんです。




