351話 ミーア・ブランドル・レプラコーンの本心
以前からの予定通り、レックス君とルースちゃんが王宮にやってきたわ。私達はこれからの予定を再確認しつつ、ルースちゃんの敵が動き出すのを待っていたの。
今は、用意した部屋で休んでもらっているわ。美味しい食事を用意したから、舌鼓を打っているんじゃないかしら。あまり大勢でもてなせないのは、難点よね。
レックス君と私の関係は、完全には表に出せないわ。勘の良い人なら、気づいているのでしょうけれど。だからといって、触れ回れないわよね。レックス君の敵は、残酷に死ぬ。そう私が誘導しているのだもの。
だから、私とレックス君が本当に仲が良いと知らない人も多いのよ。私がレックス君への不満を言うと、前のめりになるような人たちがね。
とっても甘くて、面白いわよね。まさに、見たいものだけを見る人って感じよ。私がレックス君をどれだけ大事にしているか。そんな簡単なことにも気づかないんだもの。
でも、ちょうど良いわ。私とレックス君の結婚を阻むものは、レプラコーン王国には必要ないの。だから、さようならよね。
「レックス君に協力してもらって、アイボリー家を排除する。やっぱり、決まりね」
アイボリー家だって、レックス君を敵視しているわ。だから、ホワイト家の動きなんて関係なく、潰すつもりではあったのよ。ちょうど良いところに、ルースちゃんが動いてくれたものよ。
ホワイト家は、やっぱり乱れているみたい。でも、今のままでは困るもの。ちゃんと、安定してもらわないとね。そのためには、私だって手を貸すわ。ついでに、私の手の者だって送り込むけれど。
私達は友達だけれど、利益では相反する部分はあるもの。完全に味方でなんて、ありえないわ。でも、ルースちゃんだって同じだもの。お互い様よね。
とはいえ、アイボリー家を排除することは、間違いなく共通の目標よ。ホワイト家には、もっと大きくなってほしいもの。
「私の派閥は拡大して、敵は減少する。いい話よね」
そして、私に逆らえるものは居なくなるのよ。なんて、反対意見を持つ人だからといって排除する気はないけれど。でも、許せない一線もあるわ。私達が手を取り合う未来を邪魔すること。それだけは、認めない。存在すらも、必要ないの。
光と闇が混ざり合うためには、それを妨害する人は邪魔なのよ。だから、消えてもらうわね。私は手を汚さずに、ね。
私が輝ける王女だからこそ、レックス君との結婚が近づくのよ。闇すらも虜にする存在だって、ね。
だから、レックス君には頑張ってもらわないとね。私達の敵を、叩き潰してもらうわ。戦いは嫌でしょうけれど、未来のためだもの。必ず、私が癒やしてあげるから、ね?
「レックス君の活躍も伝わるんだから、これ以上はないわ」
やっぱり、レックス君が強いことは、とても大事よ。その事実こそが、私の必要性を高めてくれる。レックス君を照らす存在として。
私の王としての立場を盤石にしつつ、想いも叶える。そんな素敵な計画は、今のところは順調なのよね。そのために、ハンナちゃんにも手伝ってもらったんだから。
「ハンナちゃんの力が広まれば、近衛騎士に圧力もかけられるもの」
そして、近衛騎士だって私の味方で固まるの。ハンナちゃんが騎士団長になることが、理想よね。私の意思を叶える存在として、レックス君の味方としても。
だから、アイボリー家には地獄に落ちてもらうわ。王家の敵として、極悪人としてね。事実がどうであったとしても、変わらないことよ。そうすることで、私の未来は輝くんだから。
王の幸せのために死ぬのが、貴族の役割というものでしょう? 建前だなんて、言わせないわよ。なんて、死人に口はないのだけれど。
「うん、いい感じね! アイボリー家を潰すだけで、多くのものを手に入れられるわ」
だから、死んでね。私達の未来には必要ない存在として。アイボリー家が仮に善政を敷いていたとしても、もはや関係ないわ。ルースちゃんやレックスちゃん、そして私やリーナちゃんが正義になるために、倒れてもらう。
とはいえ、アイボリー家が何を企んでいるのかは、察せるところではあるけれど。ホワイト家の転覆を狙っているのは、事実よね。
ルースちゃんの敵を排除するだけで、とっても良いことが複数ある。素敵なことよ。
「ただ、まだ足りないのよね。私の願いを叶えるためには、もっと必要よ」
レックス君と私が結婚するためには、私たちの結婚に賛成する人で周囲を固める必要があるわ。敵の排除でも、力による支配でも、あるいは利益の誘導でもね。
それに、恋敵との関係だってあるもの。分かりきっているフェリシアちゃんやラナちゃん以外にもね。もちろん、殺す気はないわ。レックス君が悲しむし、私だって友達だって思っているもの。
だけど、絶対に譲らない。そのためには、どんな力だって使うわ。王族としての権力も、光魔法もね。光と闇と、残りの五属性が混ざった魔法、虹の祝福。それを使えるのは、私だけ。
つまり、虹の祝福が必要になる状況があれば、そして虹の祝福の価値を示せれば、私たちの結婚は近づくのよ。
そのためには、まだまだ計画を練っていかないとね。
「リーナちゃんは、別の何かを考えているみたいよね」
どうにも、外国のことを色々と調べているみたいよ。つまり、王国の外をどうにか利用するつもりなのよね。外国を味方にするのか、あるいは敵にするのか。どちらにせよ、大きな計画よ。
ただ、あまり妨害もしたくないわ。リーナちゃんと仲違いは、したくないもの。レックス君が、いくつもの壁を壊してくれた。それで、ようやく仲良くなれたんだもの。ずっと、姉妹で笑い合う日を望んでいたんだもの。
どうせなら、私たちで協力したいわ。レックス君を二人で囲うのだって、戦術だもの。
「せっかくだから、色々と利用したいわよね。どんな手段が良いかしら?」
大好きなリーナちゃんだって利用しようとするあたり、私も王族よね。どうしても、利益を追求してしまうんだもの。
ただ、私は今の私が好きよ。だって、今までずっと良い子で居ても、何も手に入れられなかったんだもの。リーナちゃんとの関係ですら。だから、突き進むだけなの。
「ルースちゃんだって、レックス君には強い執着があるもの。負けていられないわよね」
強い感情は、いつか恋心に変化してしまうかもしれないわ。すでに、レックス君がいないと生きていけなさそうに見えるんだもの。
だから、私としても警戒しちゃうわ。ルースちゃんが素直になれば、危険だものね。
「ミュスカちゃんなんて、本心に気づけば一番怖いもの。気を付けないと」
あの子の優しさに裏があることは、つい最近分かったの。きっと、心がブレていたからなのよね。レックス君に対してだけは、目が違う。どこか悪意に執着しているけれど、ミュスカちゃんの本当の気持ちは、レックス君が好きってこと。
どうか、レックス君への本心に気づかないで。そんな事を考えてしまっていたわ。私は、悪い子よね。ミュスカちゃんよりも、きっと。
でも、良いの。悪い子にならなきゃ、レックス君との未来は掴めないんだもの。なら、私の選択は決まっているわ。
「私たちが結婚できるのなら、側室が居るのは構わないけれど。正妻の座だけは、奪わせないわ!」
私たちが幸せな結婚をする。それが、一番大事なことなんだから。誰からも祝福される夫婦になるわ。そうすることで、私は初めて満たされるんだと思うの。
「だからこそ、協力しつつも出し抜く必要があるわよね」
友達との関係は、大事だわ。私の権力を拡大するためにもね。そして、私だって友達との時間は好きだもの。だからといって、譲れないものがあるだけで。
ただ、きっとみんな同じよね。私たちは友情を抱えているけれど、それでも敵でもあるの。
「いっそのこと、フェリシアちゃんやラナちゃんとも手を取り合おうかしら」
特にフェリシアちゃんは、危険だわ。明らかに、正妻の座を狙っているもの。でも、だからといって排除はできない。それなら、レックス君を横から奪われないために協力することはできるはずだもの。
それに、ブラック家が認められれば、お互いに得をするのだもの。最後には、決裂するのでしょうけれど。
ただ、甘い計画ではこちらが出し抜かれるだけよ。油断なんて、許されないわ。
「私たちの結婚には、確かに近づいているわ。だから、焦りすぎないように」
失敗したら、すべてが無に帰す。私たちは、幸せな結婚をすることができない。そんな未来は、避けないといけないもの。
「レックス君、あなたの力、借りさせてもらうわ。その代わり、絶対に幸せにするから」
あなたの闇魔法で、私たちの未来を切り開いてもらうわ。だから、妻としてレックス君を支えるのよ。私の夫ということは、そういうことよね。
「あなたが王になるのは、冗談じゃないのよ。ね?」
騙すのは、ごめんなさい。でも、私を選んでもらうから。選んで良かったって、思ってもらうから。
それが私の誓いよ、レックス君。




