表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
物語の途中で殺される悪役貴族に転生したけど、善行に走ったら裏切り者として処刑されそう  作者: maricaみかん
10章 一歩のその先

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

350/570

349話 感じるズレ

 敵の動きに対する備えは、一通り終わったと思う。スミアに関して、少しの不安要素があるとはいえ。まあ、完璧な準備をして本番を待てるのはあり得ない。逆に、完璧だと思っていたらどこかに落とし穴があるものだ。経験則だが、間違いないと思う。


 ということで、今の段階では必要なことを必要な分だけできていると思う。不安要素も、妥協できるラインだろう。まあ、ルースの命がかかっているから、心配している部分はあるが。


 だが、いま以上を求めたところで無駄。少なくとも、現段階では。俺の素直な感覚だ。


 そうして心構えを済ませると、ルースに呼び出された。集まっているのは、俺とミュスカ、ハンナだな。ルースは不敵な笑みを浮かべながら、こちらに話しかけてくる。


「さて、あたくしとレックスさんは、王宮に向かいますわよ」


 ふむ。大きな動きの始まりなのだろうな。意図までは分からないが。というか、かなり重要なことのように思える。にもかかわらず、スミアの存在がない。かなり気になるところだ。


 もしかして、ルースは本気でスミアを信用できていないのではないだろうか。そんな疑いすらある。つい気になって、口に出してしまう。


「そんな話をするのに、スミアは連れてきていないのか?」

「必要ないことだもの。レックスさんは、気にしなくていいわ」


 冷たい目で、けんもほろろに返された。本当に大丈夫だろうか。あるいは、俺の知らないところでスミアが粗相でもしたのだろうか。何か、俺の気づかない範囲での裏切りでもあったのか? そんな気すらしてくる。


 ただ、俺としては、スミアなら信じて良いと思っているんだよな。ルースから見たら、違うのだろうか。


「レックス君は心配してくれているんだよ。気を張りすぎかな、ルースさんは」

「わたくしめから見ても、余裕を感じられませんな。その様子では、足をすくわれかねませんよ」


 ミュスカやハンナがたしなめていると言えば良いのだろうか。ふたりから見ても、ルースの様子はおかしいらしい。まったくもって、心配だな。


 とりあえず、ルースは額を手で揉んでいるようだ。ため息をついて、こちらに向き直った。少しだけ険の消えた表情で。


「あなた達まで……。分かったわ。王宮へ向かうまでの時間で、頭を冷やしてくるわ」

「ほんと、ケンカだけはしないでくれよ。平和な時なら、まだいいが」

「分かっていてよ。あたくしの敵を処分してからでないと、ぶつかり合うこともできないわ。レックスさんともね」


 俺ともぶつかり合う気なのか。何かしら、不満を抱えているのだろうか。今から動くというのに。まあ、ルースだって今の状況で爆弾を爆発させたりしないだろう。そこは信じている。


 ただ、妙な判断ミスをしないかが気にかかるところだ。冷静でいてくれると良いのだが。ミュスカとハンナには、期待したいところだな。あるいは、王都に向かうまでの段階で俺がどうにかするか。


 とにかく、今のルースに必要なのは対話だろうと思う。とにかく、行動がブレているからな。心を落ち着かせてほしい。


「いつかみたいに、無理しすぎないでくれよ? 目を離せないな、ルースからは」

「気軽に女の子に言っていいセリフじゃないかな。どうせなら、私に言ってくれてもいいのに」

「矛盾しているではありませんか……。ミュスカ殿の気持ちも、分かりますが」

「まったく、意図的にくさびを打ち込むのは、やめてほしいものね」


 そう言って、ルースはミュスカをにらむ。ちょっとどころではなく困るぞ。協力し合うべき状況で、どうして牽制し合っているのか。


 とりあえず、お互いに距離を置く時間が必要なのかもしれない。王宮に向かうのは、ちょうど良かったのかもな。


「王宮に向かうということは、ミーア達に用があるんだよな? 何を話すんだ」

「あ、逃げたね。もう、レックス君ってば、分かりやすいんだから」


 ミュスカに指摘されるが、逃げでもなんでも良い。今は本当に良くない状況だ。それが改善されるのなら、どんな恥でも受け入れようじゃないか。


 いくらなんでも、俺がきっかけでみんなの関係にヒビが入るとか、冗談じゃないからな。


「問題が解決した後でなら構わないから、今は勘弁してくれ……」

「言質を取りましたわよ。3人が聞いているのですから、言い訳は許されなくてよ」

「そうでありますな。では、いってらっしゃいませ」


 肩が重くなる感覚を抱えつつも、ルースに手を引かれて出かけていった。ルースとミュスカが目を合わせている姿に、恐怖を感じながら。


 そして、ホワイト家から少し離れて、ルースと二人で会話をしていく。


「馬車で移動するんだな。転移を使うのかと思っていたが」

「あたくし達の移動時間を見誤ってくれれば、それでよくってよ」


 馬車で移動する前提なら、それなりの期間がかかると考えるのが普通だ。その間に、ホワイト家に隙ができたと判断するのは、まあおかしくない。


 今のホワイト家は、土台が傾いている感覚があるからな。ルースが離れれば、問題が表出するだろう。まとまりが無くなるのは、容易に想定できる。だから、敵としても攻め時だろう。そこを逆激するのが、ルースの狙いなんだろうな。


「なるほどな。転移が使えないことを前提にすれば、相手が動くのにちょうど良いのか」

「ええ。ただし、馬車で移動するのはフリだけでしてよ」

「ミーア達とは、本当は会わないのか?」

「いいえ。あたくし達が進めるべき話もあってよ。レックスさんも関わる、ね」


 笑顔を深めて、そんな事を言っていた。俺の知らないところで、何かが動いている。疑問もあったが、いま追求するべきことではないだろう。まずは、目の前の問題を片付けてからだ。


 兎にも角にも、俺達みんなが無事でなければ、何の意味もない。それだけは、確かなことなのだから。


「なるほどな。同時に複数の計画を進めるのか。怖いことだ」

「とはいえ、いざという時には戻る必要もありましてよ。今は、前提条件の交換だけになるでしょうね」

「何を計画しているのかは知らないが、大変そうだな」

「歩いていては、レックスさんに追いつけませんもの。そんなの、許せないわ」


 ルースは強く歯噛みしているように見えた。そして、俺の事を刻み込むかのように、じっと見てくる。ライバルとして切磋琢磨できるのならば素晴らしい。だが、それがルースを追い込んでいないか。ほんの少しの不安が、頭をよぎった。


「ほんと、無理はするなよ。焦りすぎれば、つまづくものだ」

「ええ。分かっていてよ。カールとアイボリー家を、まずは片付けないとね」

「その意気だ。俺だって、ルースが困れば力を貸す。きっとみんなも。忘れないでくれよ」


 俺の言葉に、ルースは僅かに頬を緩める。いつかルースの本物の笑顔が見られる日が来るように。俺はそう祈りながら、馬車の揺れを感じていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ