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物語の途中で殺される悪役貴族に転生したけど、善行に走ったら裏切り者として処刑されそう  作者: maricaみかん
10章 一歩のその先

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339話 過去と未来と

 俺以外の人間は、それなりに色々と活動しているようだ。そんな中で暇を享受していて、どこか罪悪感もある。とはいえ、指示されていない行動を勝手にやるのは論外だからな。ルースの意図が読めているのならまだしも。


 今の段階では、ルースが狙っていることがちゃんと分かっていない。その状態で余計なことをすれば、邪魔になるだけなのが現実だ。


 とはいえ、完全に何もしないのも調子が狂う。ということで、訓練に精を出していた。魔法と剣の融合を目指すのは、相変わらずの目標だ。それをしていると、スミアを連れたルースがやってきた。


 スミアはどこか目を輝かせて俺のことを見ており、なんとなくむず痒かった。ルースは俺を静止して、お茶会の場を用意してくれた。三人で座って、話をすることになる。まず切り出したのは、スミアだった。


「そういえば、レックス様とルース様の馴れ初めって、どんなものだったんですか? 気になっちゃいます!」


 本当に興味津々という感じだ。まあ、当時はスミアは居なかったからな。知りようはないだろう。ルースが自分から話す姿は、あまりイメージできない。なら、軽く話しておくか。相互理解に役立つかもしれないし。


 ルースの方を見ると、堂々とした顔をしていた。止めるような雰囲気ではないし、問題はないのだろう。


「初対面の時には、認めないだか信頼しないだか言われたんだよな。ツンケンしてる人だと思ったものだ」

「事実ではあるけれど、もう少し言いようというものがあるんじゃなくって? あたくしは、確かに悪かったけれど」

「なるほどなるほど。初めは反発しあうふたり! 定番ですね!」


 ルースは釘を差してきて、スミアは両手を合わせて興奮している。まあ、恥ずかしい過去を言われたくないのは当然のことか。今は信頼し合う友人なのだから、ツンケンしていた頃なんてあまり良い思い出ではないか。


 それにしても、スミアはかなり変わっているよな。なんというか、恋の物語を読むのが好きそうに見える。


「定番なのか……? まあ、ルースは出会った頃からずっと努力家だったよ。そこは、今でも変わらないな」

「レックスさんこそ、大概ではなくって? 圧倒的な才能には見合わない努力でしてよ」


 ルースには努力で勝てないだろう。というか、俺は才能があってすぐに成果が出るからな。苦しい試行錯誤なんて、経験したことすらない。挫折らしい挫折も、魔法や剣に限っては無い。


 とにかく、ルースの言う逆なんだよな。圧倒的な才能だからこそ、魔法や剣を継続できていた。才能がなければ、もっと早くに諦めていただろう。


「俺は魔法や剣が楽しいから続けられているだけだからな。あんまり努力って感じはしない」

「反発しあいながらも、どこかで認めあう。なんて素敵なんでしょう! もっと聞きたいです!」


 認め合っていたのだろうか。まあ、俺はルースに好意的だったとは思うが。原作知識ありきではあるから、ちょっとずるい気もする。とはいえ、今は良い関係になれているから、それで良いだろう。


 原作知識のないまま、ルースと接する。そうしたら、どうなっていただろうな。おそらくは、ミーアに紹介されることすら無かったと思うから、あり得ない仮定ではあるのだが。まあ、今よりいい関係になれたとは思わない。だから、原作知識には感謝したいところだな。


「関係が変わったきっかけは、俺とルースが戦うことになってからか?」

「そうね。あたくしは、レックスさんに勝ちたかった。それは今でも変わらないけれど」


 俺に勝とうとして、何度か勝負を挑まれた記憶がある。全部俺が勝っているから、余計に悔しかったのだろうな。実際、圧倒的な差があったのは事実だ。今でも、よほどのことがない限り俺が勝つだろう。


 ただ、ルースのすごいところは、俺ですら認めるくらいの圧倒的な差を感じながら、それでも諦めないところだ。俺なら、きっと一度目で折れていたと思う。俺の周囲は、心が強い人が多い。俺はあくまで、魔法と剣の才能を持っているだけの凡人だからな。


 だからこそ、みんなを尊敬できるんだ。そう思うと、持っていないのも悪いことばかりではないよな。


「レックス様に認められたいルース様ってことですね! 最高です!」

「あの頃のルースは、ものすごい勢いで壁を超えていたな。今でも成長しているのは確かだが」

「いくつかの壁を超えたのは、確かよね。新しい魔法も、開発できたもの」


 得意魔法を更に発展させていたのは覚えている。結界を何重にも重ねるという発想は、俺も参考にしたものだ。防御魔法を複数重ねるのは、ルースが居てこその技だよな。


 というか、今の俺の魔法は、大抵が知り合いに影響を受けている。みんながあってこその俺というのは、間違いないな。


「とはいえ、かなり無茶もしていたからな。体を壊すところまでいって、俺が治療しようとしたら拒否して」

「くだらない反発心だったものだわ。レックスさんには、本気ならレックスさんだって利用しろと言われたんだったかしら」


 ああ、言ったな。つい最近にも、そのセリフを思い出したばかりだ。ルースは俺を利用することにためらわなくなった。だが、正しい選択だよな。プライドにこだわって自分だけで問題を解決しようとすれば、どこかで行き詰まる。俺も覚えておくべきことだ。


「すっごい関係ですね! 勝負を挑んでくる相手にも、確かに信頼がある。素晴らしいです!」

「実際、今も俺を利用しているんだからな。かなり刺さったみたいだ」

「言ったのは、レックスさんでしてよ。責任を取るのが、男というものでしょう?」


 そんな事を言いながら、にやりと笑っている。まあ、ルースの役に立つのは大事なことだ。知らないところで苦しまれるより、よほどいい。それに、ルースだって、俺が困っている時には助けてくれる。そう信じているからな。


「ルースが頼ってくれるのは、嬉しいからな。別に構わないぞ」

「信頼に応えるレックス様、とっても良いです! もっと早く会いたかったですね!」

「……スミア。分かっているわよね?」


 ルースは急に冷たい声を出した。何が引っかかったのかは、分からない。ただ、少しだけ不穏な空気が流れた気がした。スミアは笑顔で、ルースの言葉に返す。


「もちろんです! 私が見たい未来には、私は居ないですから!」


 明るい顔で言っているのに、どこかつらくなりそうだった。俺としては、否定したい言葉だ。スミアはもう、俺にとっては大切な存在なんだから。これからも、ずっとルースを支えてほしい。そして、幸せになってほしい。それが本音だよな。


「スミア。お前だって、俺達の大切な仲間なんだ。一緒に同じ未来を迎えようじゃないか」

「レックス様……! そんな事を言われたら、私は……!」


 瞳をうるませながら、こっちを見ている。察するに、誰からも必要とされなかったのかもしれない。あるいは、自分の居場所はないと思い込んでいたのかもしれない。


 なら、スミアはここに居て良いんだと伝えていきたいところだよな。それだけは、絶対に間違いじゃない。


「やっぱり、レックスさんはレックスさんね。本当に、ひどい男よ」

「でも、ルース様はレックス様を認めているんですよね! 分かりますよ!」


 ルースとスミアは目を合わせて笑い合う。その姿に、なんとなく連帯のようなものが見えた気がした。少し疎外感もあるが、ふたりが仲良くできるのならそれでいい。


 やはり、スミアともっと仲良くしていきたいものだ。心を開いてもらって、お互いにとって良い未来に進めれば。それが、今の俺の本心だった。

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