333話 親しさと打算と
ルースやスミアと、今後の方針について話した。ホワイト家は、内外に敵を抱えている。まあ、当たり前といえば当たり前の話だ。だが、今は当主が代わったばかりで不安定だろうからな。今のうちに足場を固めたいのだろう。
ということで、俺も手伝うことになるのだろう。主にスミアが活躍しそうではあるが。ルースの策で、色々と動いているみたいだからな。
まあ、今は準備段階でもある。本格的な動きは、もう少し後だろうな。とはいえ、備えは必要だ。いつでも動けるように心構えをしているところだ。
そんなこんなで、今日もルースと会議をしていた。
「レックスさんは、転移で相手を呼び寄せることもできたわよね? 呼んでほしい人がいてよ」
ルースには、どの程度転移のことを教えたかな。完全に万能の技ではないのだが。ルースの家に転移したことはあるから、ある程度は知っていると思うが。
とりあえず、俺の力を前提に策を組むのだろうからな。今のうちに、しっかりと認識のすり合わせをしたいところだ。
「一応、俺の魔力を侵食させている相手しか呼べないんだが」
「それで結構よ。ハンナさんとミュスカさんを呼んでほしいのよ」
それなら、問題ない。俺の魔力を、贈ったアクセサリーを通して侵食させれば良い。それで呼べる。ハンナとミュスカは、おそらく断らないだろうな。
「なら、可能だな。とりあえず、ふたりに確認して良いか?」
「ええ。話は通してあるから、後はレックスさん次第よ」
俺の知らないところでも、かなり話が進んでいるみたいだな。まあ、当然か。俺の関わらない部分の計画については、俺が知らない方が良いだろう。とはいえ、俺の魔法を使うのなら、事前に相談してほしい気もするが。
まあ、ルースだってミーアやリーナとも話している様子だ。俺が何をできるのかは、それなりに理解しているのだろう。
ということで、ふたりに通話して確認していく。
「ミュスカ、ハンナ、いま良いか? ……ああ、ルースの話だ。分かった。じゃあ、呼ぶよ」
すぐに肯定の返事がきて、俺はふたりを転移で呼び寄せた。ミュスカは相変わらずの清楚で優しげな笑顔で、ハンナは凛とした顔で堂々としているな。
アストラ学園で新しく友人になった三人がそろうと思うと、少し気分が上がる。まあ、不謹慎でもあるか。ルースにとっては、あまり良くない状況なのだろうから。ただ、ルースの口元も緩んでいるな。やはり、友人と会えるのは嬉しいものだよな。
「来ちゃった。久しぶりだね、レックス君。また、楽しい時間を過ごせそうだね」
「わたくしめも、ルース殿に協力いたします。ミーア殿下の命でもありますので」
ミュスカやハンナも、相当な強者だ。戦力としては、並大抵の軍隊なら俺抜きでも皆殺しにできそうなレベルだよな。
なにせ、四属性がふたりと闇魔法使いが居るのだから。明らかにステージが変わる四属性以降と、誰からも特別視される闇魔法がある。
普通の貴族だと、三属性でも圧倒的な才能なんだよな。それをゴミ扱いできるメンバーが揃っているんだ。真正面からぶつかったところで、大抵の相手には勝てる。
とはいえ、単純な戦力だけなら、俺だけでも事足りる。戦力として以外の理由も、当然あるのだろうな。
「ああ。それでルース。どういう理由で呼んだんだ? まあ、協力要請だろうが」
「そうね。ミュスカさんには、籠絡を。ハンナさんには、近衛騎士としての権威を使ってもらってよ」
ああ、なるほどな。ミュスカは人当たりが良いからな。信頼されやすい人間ではある。実際、アストラ学園でも評判が良かった。おそらくは、高めた好感度を利用して、情報を抜き取ったり裏切りを誘発させたりするのだろうな。
それにハンナの近衛騎士という立場は、とても価値のあるものだ。その力で、色々と押し切ることもできるのだろう。例えば、朝敵という立場にするという脅しだってできるんじゃないだろうか。
「籠絡って良い方はちょっと……。私が好きなのは、レックス君だけだからね。でも、みんなと仲良くするよ。そうすれば、レックス君も喜んでくれるでしょ?」
胸の前で握りこぶしを作りながら、あざとく小首を傾げている。言い回しなんかも、かなり意識されているのを感じるよな。なんというか、良い印象を与える言葉遣いを意識しているように。
だが、原作では寝た相手を平気で裏切る。というかむしろ、信頼を稼ぐために寝たりしていた。そのレベルで腹黒かったんだよな。だから、籠絡には向いているんだと思う。
まあ、ミュスカが俺を裏切るだなんて思わない。信じると決めたのだから、本当に裏切られるまでは信じ続けるだけだ。
「ルースの力になってくれるのは、確かにありがたいな。落ち着いて話をする時間があれば、もっと良いが」
「わたくしめとしても、望むところですな。近衛騎士としての役がルース殿の力になるのなら、素晴らしいことです」
ハンナの声には、強い力が入っている。真剣な顔を見る限り、かなりやる気みたいだ。友達の手伝いなのだから、当然ではあるのだが。
ただ、少し気になることがある。近衛騎士としての役と言い回しが、なんとなく引っかかるんだよな。以前、暗い顔をしていたことと合わさって気になっているのだろうが。気のせいなら良いのだが。
「借りを作ることになるけれど、背に腹は代えられないわ。今の段階で、ホワイト家をまとめないといけなくってよ」
まあ、そうだな。ルースの言う通りだ。借りを作ったとしても、今の段階でホワイト家が大きく傾くことは避けないといけない。そのために手段を選ばないのが、ルースの強みだよな。
俺だったら、無駄にひとりで抱え込んだりしそうだ。そうしないようにと、何度も注意されているのだがな。
「俺の行動は、借りじゃなかったのか? なんてな。俺を利用してでも勝てと言ったのは、俺だものな」
ルースがあまりの努力に体を壊しそうになった時だ。俺の回復魔法を拒絶しそうだったから、ルースの覚悟はその程度なのかみたいなことを言った記憶がある。結果よりプライドを優先するのかと。その言葉通りにしているのだから、文句はない。
「ええ。よく覚えていたわね。あたくしは、レックスさんの言葉を忘れたことはないわ。言ったことを後悔しても、遅くてよ」
「ねえ、レックス君。私のお願いも、聞いてほしいな?」
こっちの手をつかんで、ミュスカがおねだりしてくる。別に構わないのだが、あまり抱え込みすぎてもお互いに困るからな。何かしらの制限はほしいところだ。
それに、使いっ走りにされるのは避けたいんだよな。いや、そんなことにはならないと思うが。
「お前達の力になれるのなら、大抵のことは聞くぞ。そうじゃないなら、あまり聞かないかもな」
「ひどいな、レックス君。私だって、ただのワガママを言ったりしないんだからね? 好きな人相手にさ」
「ミュスカ殿は、お優しい方ですよ。そう変なことは頼まれないかと」
実際、主人公を裏切った原作ですら、決定的な瞬間まではずっと優しい人だった。だからこそ、裏切りが印象深かったのだが。内心では、ずっと悪意を抱え続けていたとはいえ。
まあ、内心がどうであれ、実際の行動が善行なら善人だ。だから、今のミュスカは間違いなく善人だよな。
「まあ、そうだな。無茶なことは言われないとは思っているよ」
「とはいえ、ミュスカさん達の話を聞くのは、もう少し先の話にしてもらいたいところね。今は、あたくしの力になってもらってよ」
「そうですな。友人のための戦いとなれば、力が入るというものです。ずっと続けばいいのにと思ってしまうほどに」
どうにも、さっきからハンナの言葉が引っかかる。なにか、悩みごとでも抱えていなければ良いのだが。相談してくれるのなら、それが良い。とはいえ、今この場で問いかけてもな。きっと、余計に苦しめるだけだろう。
「俺としては、平和に遊びでもしたいところだ。そのために、さっさと解決したいな」
「そうね。友人としての時間を、楽しむ機会を作りますわよ。そのためにも、手伝いなさいな」
ルースの言う通りだ。まずはホワイト家の問題を片付けて、それから他のことをするべきだ。ハンナのためにも、ルースの力にならないとな。
そのためには、何ができるだろうか。あらためて、考えていった。




