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物語の途中で殺される悪役貴族に転生したけど、善行に走ったら裏切り者として処刑されそう  作者: maricaみかん
10章 一歩のその先

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329話 新しい出会い

 ルースが信頼できる配下を持てるようにという話になり、その面談に付き合うことになった。まあ、間違いなく必要なことだ。


 見た感じだと、ルースはホワイト家で少し浮いているようだからな。当主にも関わらず。つまり、あまり状況は良くない。足場を固める意味でも、信頼できる相手がひとりでも増えるのは、大事なことだろうな。


 その準備も進んで、俺とルースは隣に座っている。イメージとしては、受験や就職活動の面談だろうか。まあ、相手は元々ホワイト家の人間ではあるのだが。とはいえ、合格不合格を分けるという意味では間違っていないはずだ。


 ルースは少し悪い笑みを浮かべながら、こちらを見てきた。


「さて、レックスさん。準備は良くって?」

「ああ、任せてくれ。しっかりと査定させてもらう」

「良くってよ。なら、始めましょうか。さあ、来なさい」


 ルースがうながし、緊張した様子の男が入ってきた。そして、ルースにひざまずく。ルースはその様子を冷たい目で見ていた。


 まあ、ホワイト家の中にはルースが信頼できる相手なんていない。だから探しているのだから。それは、期待できないのも仕方のないところである。


「失礼いたします、ルース様。私は、あなた様に忠誠を……」

「なら、ここで血判を押してみなさい。それくらい、できるわよね?」


 そう言って、ナイフを手に持つルース。相手は、明らかに腰が引けていた。まあ、体に刃物を通すのは怖いよな。というか、ルースも初手からかなり攻めるものだ。俺なら、もう少し段階を踏むだろう。あるいは、もう見切りをつけていて、その口実だったりするのだろうか。


 いずれにせよ、ここで血判を押せないのなら終わりだろうな。


「血判など、そのようなことをせずとも……」

「もう良いわ。あなたの忠誠がその程度だと、よく分かったもの」


 とても低い声で、ルースは告げる。まあ、分かる判断だ。忠誠を誓うと言っていて、血判も押さない。なら、忠誠を信じるのは難しいよな。俺なら、血液を媒介する感染症を恐れてしまいそうではあるが。


 ただ、水魔法や光魔法があれば、多少の病は癒せるんだよな。というか、高位の魔法使いなら、よほどの難病でもない限り治せる。ただ、ルースが本当に治せるのかは知らないが。とはいえ、ルースは水魔法も使える。なら、病気を恐れるのも能力への疑いだよな。


 総合的には、今の相手が不合格なのは仕方のないことだ。今から信頼関係を築くのは、どのみち難しいだろう。


「お待ち下さい……!」

「消えないのなら、あたくしが消してあげてもいいわ」


 睨みながらルースが言うと、相手は足をもつれさせながら逃げていった。いや、よく忠誠を誓うと言えたものだな。びっくりしてしまう。


 そのままルースは面談を続けるが、誰に対しても冷たい反応を続けていた。


「次。あなたは不適格よ」

「論外ね。少しは欲を隠してみたらどう?」


 そんな流れがずっと続き、少しだけ嫌な空気が漂っていた。そんな様子も気になったので、軽く声をかけてみる。


「これという相手は、見つからないな」

「誰も信頼できないのなら、それもひとつの回答でしてよ。見極められた事自体に、価値があるわ」


 まあ、確かに。信頼できる相手がいないのなら、仕方のないことではある。とはいえ、そうなってしまっては今後が厳しいだろうが。ただ、あまり信用できない相手に重要な仕事を任せたいとは思えないからな。そこは同意するところだ。


「それもそうだな。とはいえ、まずは終わらせてからにしよう」


 ということで、面談を続けていく。ルースは少し退屈そうにしていた。


「次、入ってきなさい」

「ルース様、よろしくお願いします! レックス様も、お願いします!」


 少し幼い印象の女が、元気いっぱいに挨拶してくる。勢いよく頭を下げていて、とても印象に残る相手だった。ルースの様子を見ると、ほんの少しだけ唇を釣り上げていた。


「ふむ、ちゃんと見るべきところが分かっているようね。なら、いくつか質問をさせてもらいましょうか」

「なんでも聞いて下さい! 頑張って答えちゃいますよー!」


 胸の前で両手の拳を握り、そんな答えを返す。なんというか、ミーアと違う方向性でとても明るい人に見えるな。ルースはあごを拳に乗せながら会話を続けていく。


「そうね。あなたは敵から情報を引き出したい。そういう時に、どうするの?」

「まずは、好物を調べて食べさせたり、愚痴を聞いたりしますね。それでダメなら、拷問ですかね?」


 初手では懐柔から入って、結果を見てから冷徹な手段に移る。王道といえば、王道だよな。残酷でもあるが。ただ、一切悪いことができない人や、逆に悪辣な手段しか使えない人よりも優秀だと思える。


 なんというか、俺もこの世界に染まってきたよな。拷問という言葉を聞いても、そこまで悪印象を持たないのだから。


「ふむ。分かったわ。では、次。怪しい人間が居る時、どうやって調べて?」

「まずは、親しい人をあたりますね。そこで情報が引き出せない時は、家族や友人に刃物でも送りつけましょうか」


 どの程度の怪しさかにもよるが、妥当な手段に思える。親しい相手に違和感を持たれているかどうか、情報を漏らしていないかどうか。そのあたりを探るのは基本だよな。


 そして、家族や友人に手が回っていると思えば、相手は焦るだろう。うかつな行動を引き出せるかもしれない。よく考えられた手段じゃないだろうか。


「なるほどね。なら、あなたの名前を聞きましょうか」


 そんな反応は初めてだった。ルースは彼女を気に入ったのだろうか。まあ、俺から見ても、今までで一番だとは思う。ここまで真っ当に回答した人は、全然いなかったんだよな。


「スミアです! ルース様とレックス様のお役に立てるように、頑張っちゃいますよー!」

「結果は追って報告するわ。退出しなさい」

「分かりました! 期待して待っていますね!」


 去る時も元気いっぱいだった。スミアという人は、どうも裏表がありそうだ。だが、そこを俺達の前で表に出すのだから、自分の出し方を分かっていると思う。俺としては、良い相手に見えていたな。


 ルースの方を見ると、薄く笑っていた。その様子を見て、声をかけていく。


「気に入ったのか、ルース。俺としては、清濁併せ呑めるのは悪くないと思うが」

「そうね。あたくしとしても、今までで一番だとは思っていてよ」

「なら、第一候補ということにするのか? どんなところが気に入ったんだ?」

「相手の感情をしっかり見極める。それができているところね」


 ふむ。あの元気いっぱいな姿は、間違いなく演技だと思う。ルースの質問に答える時は、少しトーンが違ったからな。なら、どういうキャラクターを演じれば人から好かれるのかを意識しているということだ。確かに、大事なことだよな。


「なるほどな。好意を稼げば動きやすいことを、しっかり分かっていそうだものな」

「そうね。それに、あたくしに対しても。レックスさんにちゃんと挨拶したのは、あの子だけよ」


 そう言われてみれば、合っているかもしれない。ルースの友達で貴族なんだから、普通はちゃんと挨拶するものだろうに。そんな事で真っ当だと判断するのは、少し寂しいな。


「ああ、そのために俺を同席させたのか。確かに、珍しかったな」

「まったく、女にここまで言わせておいて……」


 口をモゴモゴと動かしながら、聞こえないくらいの小声で何かを言っていた。その様子が気になって、軽く質問をする。


「どうかしたか?」

「いえ、こちらの話よ。スミアと言ったわね。しっかりと、覚えておいてよ」


 スミアは、これからルースが信用できる相手になるだろうか。そんな未来が訪れるのなら、ありがたいことだ。俺は素直にルースとスミアの関係を応援する気持ちになっていた。

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