321話 あっけない終わり
ベージュ家の当主を討つために、相手の本拠地までやってきた。とりあえずは、守護の任についていた兵たちを蹂躙して、残るは屋敷だけだ。
今回の事件が終われば、ブラック家を狙うやつは減るだろう。少なくとも、手痛い反撃が返ってくると認識されることになる。まずは勝ってからの話ではあるが。
いくらなんでも、俺の命を狙うと宣言して、実際に敵を差し向けるなんて真似、そう何度も起こっては困る。
ということで、できるだけ派手に被害を出したいところではある。人的損害に関しては、少ない方が良いとも思うが。
今回の事件に関わっていないのなら、できれば殺したくはないな。まあ、すでに兵たちを殺している身で言うことではないかもしれないが。直接的には、関係ないのだし。
とはいえ、当主だけは何があっても殺す必要がある。そこだけは、絶対に妥協できない。
メアリが敵兵を吹き飛ばしてしまったので、後は侵入して当主を狙うだけ。屋敷の方を見ていると、カミラが声をかけてきた。
「さて、後は当主を討ち取るだけよね。逃げられる前に、さっさと殺しちゃいましょ」
軽い口調で言っているのは恐ろしいが、大切なことではある。逃げられたら、兵たちを殺した意味まで無くなるからな。無駄な犠牲を少なくするためにも、今回で終わらせたいところだ。
それに、ミーアに対して敵対するというのなら、余計にだ。ブラック家の知り合いが巻き込まれそうなだけでも、腹に据えかねていたというのに。
「そうだな。反乱を狙っているとなると、絶対に逃がす訳にはいかない」
「お兄様を狙っただけでも、逃さない理由には十分なの!」
「ま、そうね。舐めた真似をされて黙ったままだと思われるのは、シャクよね」
ふたりとも、それなりに腹を立てている様子だ。まあ、当然だよな。俺の命を狙うだけでも、親しい人が危険にさらされているということになる。
そして、カミラとメアリは実際に戦うことになった訳だからな。とてもではないが、良いこととは言えないだろう。むしろ、冷静さを保っている方だよな。
「続くやつが出てきても困るからな。今回で、根ごと断ち切ってしまいたいところだ」
「じゃ、行きましょうか。話に時間をかけても、しょうがないでしょ」
ということで、家の中へと駆けていく。何の魔力も持たない使用人なんかも居て、その辺は無視していた。仮に攻撃されたところで、何も無いだろうからな。それなら、殺さずに済む方が良い。
まあ、実際に攻撃されていたのなら、反撃していたし、相手は死んでいただろうが。命を狙ってくるのなら、相応の対応をするだけだ。
そんな感じで突き進んでいると、探知に引っかかるものがあった。
「ふむ、強い魔力を感じるな。位置関係からしても、怪しいのはそこだな」
「逃げ出そうとしているやつは、居ないのよね?」
強い魔力というのが、当主の配下から出ている可能性もあるからな。それを餌にして俺達を釣って、自分だけ逃げ出そうとするのも、まああり得る。
ただ、逃げ出すものを逃さないように、魔力を使って状況を確認している。その感じだと、待ち受けているのが当主で間違いなさそうだ。
「そうだな。影武者である可能性は、低いと思う。まあ、首を確認してもらう予定ではあるが」
「みんな殺しちゃえば、早いと思うの」
メアリはなかなかに物騒だな。まあ、気持ちは分かる。誰を狙うか考えながら戦うのは、面倒なんだよな。一気に全部吹き飛ばせれば、どれだけ楽なことか。
とはいえ、あまり取りたくない手段だ。やるにしても、最後の方だろうな。
「確実に全員殺すのも、なかなか難しいんだよな。それに、この土地をどうするのかの問題もある」
「ま、当主一家だけは皆殺しにしましょう。それは、必要なことよ」
「なら、行こうか。決着をつける時間だ」
ということで、扉を開く。そこには、同じ髪の色をした複数の男女が居た。初老くらいの男と、妻らしき女と、子供らしい青年くらいの男女が居た。
当主らしき初老の男は、うつむきながら語りだす。
「もう来てしまったのか……。せめて家族を逃がす時間さえあれば、な」
もうと言っているあたり、ミーアの計画がバレていたとか? いや、普通に表で騒ぎになっていて気づいただけか。
どちらにせよ、この男が当主だというのなら、逃がす理由はない。
「俺が誰だか分かっているのなら、未来も分かっているよな。せいぜい、抵抗してくれれば良い」
「話なんて無駄でしょ。行くわよ。……迅雷剣」
俺が手を出す前に、カミラが動き出す。目にも止まらぬ剣技で、一斉に敵たちを斬り伏せていった。
「ぐはっ、何が……」
「イヤよ、死にたくない……」
「どうして、こんな目に……」
当主らしき男を残して、残りが果てていく。もしかしたら、直接計画には関わっていなかったのかもしれない。それでも、ここで手を抜いていい理由がないからな。まあ、カミラに斬られたのなら、比較的ラクに死ねただろう。
最後に残された男は、倒れた人たちを見回して、膝をついていた。
「ああ、モルト、ミリア、ステラ! こんな、あっけなく……」
こちらの方を、見ようともしていない。完全に、抵抗する気が失せたのかもな。まあ、本命である俺の前に、カミラにあっけなく殺されるんだ。反撃したところで無駄なのは、理解できるか。
「後は、あんただけね。同じところに送ってあげるわ。紫電撃」
カミラから放たれた雷が、敵にぶつかる。そして、敵の体の半分くらいが焼け焦げていた。そのまま、敵は倒れていく。
「おのれ、ミーア姫……。口車にさえ、乗らなければ……」
そんな事を言い残して、死んでいった。口車とは、ミーアのことなのだろうか。いや、まさかな。ミーアが俺を攻撃する計画を練るなんて、あり得ないのだから。
「終わったか。それにしても、なぜミーアを恨んでいたのだろうな」
「さあ? 敵の言葉なんて、真面目に受け取る意味もないでしょうに」
「そうなの! どうせ、適当なウソだもん!」
ふたりの言葉に、確かに納得した。こちらを混乱させるために、適当なことを言った。その可能性が高いよな。死ぬと分かっていても、こちらの邪魔をしたい。そんな考えを持っていても、何もおかしくはない。
「まあ、そうか。ミーアが俺を裏切るなんて、あるはずないのだし」
「さて、どうかしらね。バカ弟に執着しているのは、間違いないけれど」
「ミーアちゃん、お兄様を奪おうとしているの!」
まあ、かなり仲良くしているとは思う。普通なら、王女がただの友人にかまっているのは難しいだろうからな。そういう意味では、執着というのは不思議な話ではない。
それに、俺の目の前で俺の取り合いになっていたのは、経験があることだからな。特にメアリは。カミラだって、フェリシアと鞘当てをしていたくらいだ。
「まあ、良いか。それよりも、帰った後に何をしようか。ミーアとリーナとお茶会をするつもりなんだが、お前達も来るか?」
「さて、あたしが歓迎されるのかしらね。ま、いいわ。話を通しておきなさいよ」
「ミーアちゃんもリーナちゃんも、メアリが見張らないとダメなの! お兄様は、奪わせないんだから!」
ミーアなら、歓迎してくれるとは思う。だが、確認するのは大事だよな。結果報告のついでに、話をしておくか。
「やれやれ、ケンカだけはしないでくれよ? まあ良い。帰ったら、まずは報告だな」
さて、これで大きな問題が解決したことになる。まだ原作での事件は待っているが、少しくらいは平穏を楽しみたいものだ。




