319話 次への約束
敵に攻められるまでして情報を集める動きをしたおかげで、怪しい相手にあたりをつけることができた。ということで、その情報をミーアに渡して、調査を進めてもらっている。
結果が出たら、後は戦うための準備になるな。根っこを絶たなければ、また同じことが繰り返されるだけだろう。いや、もっと過激になる可能性の方が高い。
それなら、できるだけ早く対処したいところだよな。いい加減、面倒になってきた。このままでは、民衆にも明確な被害が出てくるだろう。今でも、不安が広がるくらいはしている様子だし。それに、経済状況にも影響が出ているように見える。
だから、こんな問題は終わらせないといけない。ブラック家の平穏のために、さっさと死んでもらわないとな。平気で人を殺そうとしている自分がいるが、まあ殺しにかかってくる相手に容赦するのは、いくらなんでも甘すぎるからな。
殺そうとしてきているのに許したら、舐められてしまうだけだ。さらなる被害を増やすだけの考えだと言えるだろう。暴力で自分の利益を確保しようとする人間は、許しておいてはいけない。
そんなこんなで、今はミーアの回答を待っているところだ。そうしたら、通話が飛んできた。
「レックス君、ありがとう! おかげで、黒幕がベージュ家だとハッキリしたわ!」
なるほどな。相手が偽情報を流してきた訳ではなかったか。それなら、もう後は単純だな。相手を攻撃して、叩き潰す。
とはいえ、大義名分はほしいところだ。明確な証拠を突きつけるくらいはしないと、ブラック家が暴走しただけだと思われかねない。嫌われ者だからこそ、安易な行動は避けるべきだ。
少なくとも、王家の許可を取っているという体くらいは持っておきたいところだな。
「なら良かった。とはいえ、どうやって攻める口実を手に入れたものか」
「安心して! 私に任せてくれればいいわ! レックス君は、戦いの準備だけしておいてね!」
これまでも、ミーアはうまく情報をつかんでいたからな。そのあたりは、任せてもいいだろう。俺の苦手な分野でもあるし、変に手出ししない方が良いよな。
そうなると、すぐに攻められるようにしておくのが良いだろう。転移して、さっさと仕留めるのが理想だな。
「分かった。そうさせてもらうよ。とりあえず、転移の準備をしておいた方が良いよな」
「ええ、そうね。ルースちゃんの家からなら近いから、そこを起点にしてもらおうかしら」
確かに、ブラック家から直接飛んでいくと、目立つだろうからな。それに、近いだけで必要な時間は減る。いろいろな意味で、ミーアの案は効率がいいと言えるだろう。
それなら、言うことを聞いておいた方が良いな。とはいえ、ルースの家か。どんなところだろうな。まあ、相手の当主なんかと会うことはないか。あまり、ブラック家とホワイト家の関係は良いとは言えないし。
あくまで、俺とルースの個人間の関係でしかない。それなら、転移の拠点として使って、気づかれないように動くくらいでちょうど良いのではないだろうか。
「ああ。ルースにも、手伝ってもらうんだな」
「快諾してくれたわよ! レックス君は慕われているわね!」
本当に、ありがたいことだ。ルースにも、リスクやら何やらがあるだろうに。俺に表立って味方すれば、色々と大変だろうからな。
そういう意味でも、とても感謝したいところだ。何かお礼を考えておかないとな。
「良い友達を持ったものだよ。ルースに何かあったら、俺が助けてやらないとな。もちろん、ミーアも」
「その時には、お願いするかもね。まずは、ベージュ家をどうやって倒すかだけど」
「口実は、ミーアが用意してくれるんだよな。どんな形にするんだ?」
「簡単よ。ベージュ家の悪事を告発するから、それに合わせてレックス君に攻撃してもらうわ!」
ふむ。何かしら、悪事なら実行しているだろう。それが貴族というものだ。だが、それで大丈夫だろうか。暗黙の了解に踏み込んだりしないか?
いや、ミーアが考えていないはずがないよな。そうなると、十分な罪を犯しているのだろう。ミーアに限って、冤罪ということもあるまい。
「なるほどな。それで、逃げる準備なんかには警戒しなくて良いのか?」
「大丈夫よ! 王家で告発した段階で、相手に情報が伝わる前に攻めてもらうもの!」
ミーアが告発したタイミングで俺が動くことは、まあ可能だ。通話と転移があれば、そういうところの問題は全部なくなる。
やはり、便利な魔法を生み出したものだ。元となるアイデアを出してくれたミーアには、感謝しておかないとな。
まあ、ミーアも有効活用しているのだろうし、お互いにとって利益がある話ではあるのだが。
「それなら、まあ倒すことだけ考えていれば良いのか。助かるよ、ミーア」
「レックス君のためだもの。当たり前だわ! リーナちゃんだって、手伝ってくれたのよ!」
リーナまで。なら、確実に勝たないとな。油断なんてして逃がしてしまえば、おしまいだ。さて、気を抜かずにいかないとな。
それにしても、王女がふたりも手伝ってくれるのは、かなりの大ごとというかなんというか。気軽に頼み事なんて、本来できない相手だからな。
「それなら、感謝していたと伝えておいてくれ。そのうち、顔を見せに行くとも」
「分かったわ。任せておいてね! きっと、リーナちゃんも喜んでくれるわ!」
「ああ、そうだと嬉しいところだ。お茶会でもしたいところだな」
「約束、覚えてくれていたのね! やっぱり、レックス君は素敵だわ!」
この事件が始まったあたりで、ミーアが言っていたはずだからな。覚えていたのは、自分を褒めてやりたいところだ。
まあ、俺だって楽しみにしていたからな。だから、覚えていられたのだろう。
「俺としても、やりたいことだったからな。あまり、記憶力には自信がないんだ」
「女の子の言葉は、いっぱい覚えておいて損はないわよ。なんて、レックス君には必要ないかもね」
まあ、自分の話を忘れられて嬉しい人なんて、そうは居ないだろうからな。話を聞いていたアピールにもなるし、確かに損はないのだろう。
とはいえ、そんな打算で覚えていたい訳では無いが。大切な友達のことをちゃんと知っておきたいのは、普通のことだよな。
「それはどういう意味だ? まあ、親しい相手のことは、できるだけ覚えておきたいものだ」
「ふふっ、良い子ね! 私も、レックス君のことはいっぱい覚えているわよ!」
あまり、恥ずかしいことは覚えてほしくないのだが。ミーアの前で大泣きしていたこととか。まあ、大事な思い出といえばそうなのだが。
なんだかんだで、色々なことがあったからな。印象深いことも、いっぱいある。とはいえ、忘れてほしいこともあるにはある。
「何を覚えているのかは、聞かないでおこうか」
「出会ってすぐに口説かれたことは、忘れていないわよ! リーナちゃんも口説いていたわよね!」
またそんなことを。あの頃は、ミーアとリーナの関係を改善したかったんだよな。今では、当たり前のように仲良くしている。俺が行動してきた中でも、確かな成果だと言えるだろう。まあ、口説いたつもりはないのだが。
「完全に記憶違いだな。俺はそこまで軽薄なつもりはないぞ」
「なら、新しい記憶で上書きしてもらおうかしら。そのためにも、早くお茶会をしましょうよ」
ミーアなりに、お茶会を楽しみにしてくれているのだろう。そして、俺を応援してくれているのだろう。その気持ちに答えるためにも、さっさと終わらせてしまわないとな。
「まずは、ベージュ家を打ち破らないとな。楽しい時間は、それからだ」
ミーアやリーナとのお茶会は、きっととても素晴らしい思い出になるだろう。そうするためにも、必ず勝たないとな。




