318話 それぞれの対応
ミーアが情報を送ってくれた敵は、そろそろやってくるようだ。こちらは様子をうかがいつつ、最後の確認をしているところだな。
とりあえずは、ある程度は誘い込むと決めている。そうすれば、敵の情報の程度が分かりやすいからな。
「さて、敵が来たようだな。一応、こちらも準備をしておくよ。メアリ、今回は抑えてくれよ」
「うん、分かったの。お兄様の言う事は、しっかり聞くね」
そんな事を言いながら、メアリは笑って頷く。以前は暴走されたから、今回はおとなしいと信じたいところだ。穏やかな顔をしているから、きっと前回で鬱憤晴らしはできたのだろうな。
なら、前に暴れられたのにも意味があると言っていいだろう。反省していないようなら、対応を考える必要があったが。
「ほんとかしらね。まあ良いわ。怪しいやつが居たら、こっちで報告すればいいのよね」
カミラは落ち着いた様子だ。こうしていると、年長者としての風格を感じるな。剣を構える姿は、もう一流の戦士にすら見える。
とはいえ、少し寂しくはある。それほど研ぎ澄まされる程度には、戦いが傍にあったという証なのだから。まあ、今は目の前の敵に集中すべきか。余計なことを考えても、仕方がない。
「そういうことだ。手間を掛けて悪いが、敵の正体を探るためだ。我慢してくれると助かる。だが、無理はしないでくれよ」
「大丈夫! メアリ、ちゃんと敵をやっつけるから!」
少し心配になるが、まあ良い。一番はメアリの安全なんだからな。あまり厳しく注意しても、直後の戦闘に精神的な影響が出るだけだろう。
注意するにしても、もうちょっと落ち着いた状況で、反発なりなんなりしても取り返しがつくようにするべきなんだろうな。
「だ、そうよ。あたしも、面倒になったら皆殺しにしてやろうかしらね」
カミラは、まあこちらの意図も理解しているのだろう。だから、安心して任せられる。やはり、修羅場を潜った経験がある人は違うよな。
まあ、その修羅場の原因になったのは俺なのだから、あまり嬉しくもないのだが。というか、カミラに命の危機があった時点で、嫌なことだったからな。
「まあ、自分の安全を優先してくれれば良い。それより大事なことは、特にないからな」
ということで、実際に敵が向かってくるまで様子を見ていた。ジャンとミルラが、罠を用意しながら待機することで、敵に対処する。そんな流れだな。
「ふむ、地下道から侵入する敵がいるようでございますね。その情報を伝えていたのは……」
「ですけど、そこに入ったら終わりなんですよね。さあ、思い知ってもらいましょう」
そして、ミルラとジャンが罠を起動させていく。多くの敵が引っかかって犠牲になっていった。
「なんで、地面からトゲが出てくるんだよ!」
「こっちなんて燃えてるぞ! 安全じゃなかったのかよ!」
一部はトゲに突き刺さり、一部は燃やされ、一部は感電させられる。そんな動きになって、敵は混乱している様子だ。逃げるものが別の罠に引っかかったり、罠に攻撃しようとして無駄に終わったり。
完全に敵の士気は崩壊していて、誰もが視線を向ける相手が居た。そいつに注目すると、妙なことを話していた。
「おかしい……。情報では、確かにここが弱点だと……」
情報について語るということは、偽情報を渡されたという可能性が高い。なら、そいつを捕まえれば、敵の正体に迫れるかもしれないよな。
「あいつが怪しいな。ちょっと、捕らえてくる」
ということで、敵のもとに転移していく。すると、相手は驚いた姿を見せていた。
「ぐっ、お前は、レックス!? やはり、罠だというのか……!?」
相手に闇の魔力を侵食させて、俺達の拠点に転移させていく。そこで、ジャンやミルラに聞かせるつもりで尋問の準備をした。かなり怯えている様子だが、まあ助からないだろうな。俺が殺さないという選択をしても、他の誰かが殺すだろう。
それなら、できるだけ楽に死なせてやるのが慈悲というものだ。ということで、まずは質問を始める。
「さて、詳しいことを聞かせてもらおうか。お前は、どんな情報を伝えられた?」
「お兄様、残りはメアリがやっつけちゃっていいよね?」
「好きにすれば良いわ。一応、安全には気を付けておきなさいよ。さて、バカ弟、代わりなさい」
メアリは飛び出していき、カミラは相手の髪を掴む。そうして、敵を厳しい目でにらんでいた。
「あ、ああ……。姉さん、どうするんだ?」
「こうするのよ。ほら、全部言いなさいな」
そう言って、頭に電気を流していくカミラ。敵はビクビクと震えていた。その後ろで、ドッカンドッカンという音が聞こえてくる。おそらくは、メアリが暴れているのだろう。
「アスラ様の指示で……傭兵を……」
人形のように、たどたどしい口調で話していく敵。その様子を見て、カミラが何をしているのかは理解できた。
要は、電気信号を流して敵の体を、あるいは脳を操っているのだろう。俺にはできないことだな。
それにしても、アスラ様か。聞き覚えのない名前だな。やはり、知らないところで恨まれていた可能性が高いな。ため息を吐きそうになる。まったくもって、厄介なことだ。
「まさか、電気で強制的に体を動かすとはな。流石だ、姉さん」
「当たり前でしょ。それで、アスラとか言ったっけ? どこの家の人間なの?」
「ベージュ家の……当主……」
ベージュ家というのも、俺は知らない。本来なら知っているべきなのかもしれないが。どうにも、原作知識で補完できない部分に関しては弱くなってしまうな。
そのあたりは、ジャンやミルラ、ミーアなんかとも協力しつつ対応していく必要があるだろう。俺自身で覚えるのも必要だろうが、一朝一夕で解決する問題ではないからな。
まずは、身近な人を頼りにする。無理に自分で抱え込んでも、当然のように失敗するだけだろうからな。
「ありがとうございます、カミラ姉さん。おかげで、だいぶ楽ができましたよ」
「そうでございますね。早速、ミーア様に情報を共有いたしましょう」
早速、ジャンとミルラが動いている。この調子なら、任せてしまって問題ないだろうな。やはり、頼りになる仲間だ。
俺も、闇魔法を使ってみんなの役に立たないとな。そうできないのなら、俺の価値はないと言って良い。それに何より、友達の力になるのは嬉しいことだからな。
そんな風に考えていると、メアリが駆け寄ってくるのが見えた。とても満足そうな顔をしている。
「お兄様、終わったの! みんな、やっつけちゃった!」
「そっちも片付いたか。なら、後始末をしないとな」
「じゃ、さようなら。少しは役に立ってくれたわよ」
「あっ、が……」
カミラが、あっさりと敵を殺してしまった。まあ、これ以上拷問したところで、相手を苦しめるだけだろう。そう考えていると、少しジャンが不満そうな顔を見せた。
「もう少し、他の話も聞いてみたかったんですけどね」
「無理よ。もう、脳がほとんど壊れていたもの」
ふむ。電気信号で脳を無理やり動かすのには、そんな弊害があるのか。なら、重要な情報を多く持っていそうな相手には、別の手段を使った方が良いのかもな。
とりあえず、要検討な手段ということだろう。
「なるほど、今の段階だと、手に入れられる情報にも限界があるのですね。参考にさせていただきます」
「お兄様、褒めてほしいなー」
「分かった、分かった。……敵の気配は、感じないな。よし、遊びに行こうか」
そう言うと、メアリは笑顔で頷いていた。さて、黒幕が確定してくれたら良いのだが。そうしたら、後の動きは簡単なのだから。




