310話 目指す未来のために
せっかく遠くまで来たので、できれば他の知り合いにも会っておきたい。そう考えて、まずは師であるフィリスとエリナのもとに向かう。
旧交を温めるだけでなく、相談もしたいところだな。ふたりの意見は、とても参考になる。やはり、今でも師として頼りにしているんだよな。
まあ、当然か。原作でも上から数えた方が早いくらいの実力者で、その実力はこの目で確かめたのだから。真正面から戦えば、俺が勝つだろう。それでも、尊敬できる相手だということには変わりない。
というか、俺の闇魔法は反則すぎる。あれに勝てないくらいで、評価は下がらないんだよな。自分で使っているからこそ、どれほど理不尽かはよく分かるつもりだ。
正直に言って、俺の能力を持った敵とか、何があっても敵対したくないぞ。厄介どころの騒ぎじゃない。
普通の魔法は通じないし、物理的な攻撃も潰される。搦め手だって幅広い。単純な火力も馬鹿げているのだから。
個人が持っていいレベルの戦力を、遥かに超えているんだよな。下手したら、核兵器以上の被害を出せるのが俺なのだから。
そんな俺を恐れることもなく、期待した上で、俺の成長のために力を尽くしてくれる。どれほどありがたいことか。
フィリスとエリナの姿が見えると、すぐにふたりは振り向いた。気配探知のようなものも、優れているんだよな。おそらく、フィリスは魔力によって、エリナは視線や気配のようなものを感じることによって気づいたのだろう。
俺の顔を見て、フィリスはほんの少しだけ口角を上げ、エリナは不敵な感じに笑った。それを見ながら、俺はふたりに近づいていく。
やはり、安心感が違うな。このふたりになら、何でも相談できる。そんな感覚がある。さて、まずは質問からだな。それを早く済ませれば、残りの時間を交流に使えるのだから。
「フィリス、エリナ。とりあえず、罠については検証できた。そこから更に発展させるのなら、何があると思う?」
「……疑問。まずは、成果を聞かせて。それによって、内容は変わる」
やはり、フィリスは魔法に真摯だよな。色々と考えた上で、今の俺に必要な情報を伝えてくれる。単に魔法の知識や実力があるだけじゃない。俺に寄り添って、成長を望んでくれている。それが強く伝わるんだ。
まあ、前提条件をすっ飛ばすのは良くないか。フィリスは打てば響くレベルでこちらの質問に答えてくれるが、だからといってエスパーじゃないからな。
「ああ、忘れていたよ。基本的には、ミルラやジャンに使わせたんだ。それで、遠距離からでも敵を潰せることは分かった」
「なら、想定していた成果は出ていたんだな? そこからの発展となると、基本的には細かい調整だ」
「……同意。ただ、レックスが新しい魔法を開発すれば、根本的に何かを変えられる可能性はある」
それなら、ミルラとジャンに任せておく分でも十分かもな。実際に使った人間の意見を聞いておけば、それで運用面は困らないだろう。
とはいえ、新しい魔法については気になるところだ。何かが思いつけば、それが進歩に繋がる可能性がある。いや、ちょうど良いものがあるかもな。
「そういえば、フェリシアとラナから頼まれていたんだ。あいつらの家でも、同じことができないかと」
「……提案。アクセサリーを通して、闇の魔力の侵食をできるようにすれば良い」
それなら、フェリシアやラナだけでなく、他の知り合いでも実現できるだろうな。わざわざ相手の家にいかなくて済むのだから。
しかも、闇の魔力を侵食させておけば、転移のマーカーになる。隠れて会うのが、以前より簡単になるだろうな。良い意見をもらえた。だが、課題もあるな。
「ああ、なるほど。アクセサリーに込めた魔力を、そこから家やらに侵食させるのか。でも、どうやって魔力を補充する?」
「音を送れるということは、魔力も送れたりしないか? そうすれば、レックスの魔力が続く限りは使えるだろう」
その通りかもしれない。というか、通話機能を持っていなかったフェリシアとラナに通信をするために、俺の魔力を利用していたものな。同じことをするだけで、十分に仕組みが成立する。
むしろ、思いつかなかった俺を恥じるべき場面かもしれない。ふたりに質問するとはいえ、自分の意見くらいは持っておいて良いからな。というか、ある程度は考えておくべきだろうに。
「確かに、そうだな。今回の結果も通話で渡して、それぞれに運用してもらうか」
「……改善。皆の運用も聞くことで、お互いに更なる調整ができる」
「私たち3人だけでは出ない案も出るだろう。そういう意味でも、悪くないんじゃないか?」
やはり、俺の未熟さを感じられさせるな。単純なメリットしか考えていなかったが、副次的な効果もあるのか。
俺の魔法をみんなが便利に使うだけで良いと思っていたが、みんなの意見も取り入れられる。ラナやフェリシアなんかは、俺を罠にはめたりしたからな。そういう意味でも、期待ができるところだ。俺には思いつかない何かを、考えてきそうだものな。
「確かにな。みんな、頼れる仲間だ。あるいは、お前たちほどに」
「……感謝。私達のことを尊敬しているのは、とても嬉しい」
「そうだな。レックスの師であることは、私たちの誇りだよ」
フィリスは薄く微笑んで、エリナは笑顔で頷いている。尊敬する師の誇りだと言われることが、どれほど嬉しいか。人前でなければ、踊り出したいくらいだ。
俺に対する感情を伝えてくれたのだから、俺も返さないとな。受け取るだけなのは、性に合わない。
「俺こそ、お前たちの弟子であることを、強く誇りに思っている。お前たちが師であったのは、俺の出会いの中でも特に大きいものだ」
「……理解。レックスの感情は、強く伝わる。あなたの成長は、ずっと見守るから」
「お前なら、私たちの積み重ねたものを、新しい領域に連れていけるだろうさ。それを見るのが、私たちの望みだ」
そうだな。二人の願いは、絶対に叶えたいものだ。俺に対してかけてくれた期待と手間と愛情を、無駄にはしないために。それに、俺だってふたりの喜ぶ姿を見たい。そのためなら、どれほどの努力でも重ねてみせるさ。
なら、良い言葉があるよな。傲慢なレックスを演じていた時の、そのセリフが。
「当然、叶えてやるさ。俺は天才なんだからな。お前たちなど及ばない領域に、たどり着いてみせる」
「懐かしいものだな。今のお前も、昔のお前と繋がっている。そう感じるよ」
「……同感。レックスは成長している。でも、変わらないところもある」
今なら、素直に感情を伝えられる。俺を縛る枷は、壊れたのだから。感謝や尊敬を言葉にできることが、どれほど嬉しいか。以前は言えなかったから、余計にな。
父を殺したのは、間違いなく悲しかった。だが、確かに得たものはあるんだ。
「自分では、分からないが。お前たちを尊敬し続けることは、絶対に変わらないだろうな」
「そうなれるように、私たちも研鑽を続けるさ。弟子に置いていかれるなんて、恥ずかしいものな」
「……肯定。レックスの成長のためにも、全力を尽くす」
今でもふたりの実力は最高峰だろうに、まだ成長しようとしている。なら、俺が負ける訳には行かないよな。ふたりの弟子として、それに恥じない姿勢を見せる必要がある。
常に努力を欠かさないふたりを、俺は尊敬しているのだから。弟子の俺が、怠けて良いはずがないよな。
「お互い、まだまだ道は長そうだな。だからこそ、立ち止まっている時間はないか」
どんな壁も障害も乗り越えて、ふたりの願いを叶える。その決意は、絶対に壊れないだろう。そんな意志を込めて、ふたりに笑顔を向けた。




