299話 守るために
とりあえず、第一の戦いは順調に進んだ。とはいえ、これで脅威が完全に去った訳ではないだろう。賞金首を狙うやつなんて、いくらでも居るだろうからな。
ただ、俺のというか、カミラの強さは知れ渡ったと思う。集団で襲ってきて全滅したのだから。いや、逆か? 全滅させてしまったから、脅威が伝わらなかったりしてな。俺の首を狙いに行くとわざわざ宣言して死んだやつなんて、そう多くないだろうし。
そう考えると、何人かは生き残らせても良かったかもな。まあ、情報を隠すメリットとデメリット、どちらもあるという話でしかない。
まあ、強いと知られるための動きはして良いかもな。その中で、できるだけ情報を隠す感じで。
そんなこんなで、今後についての対応を考えていた。休憩している時に、ミーアから連絡が届く。出ると、すぐに声が届いた。
「ごめんなさい、レックス君。調査には、まだ時間がかかりそうなの」
第一声が謝罪か。まあ、黒幕が分からないのは残念ではある。だが、そんなすぐに分かるものでもないだろう。相手は堂々と名前を出していない以上、情報を隠そうとしているのだし。
調査が順調でないのも、まあ仕方のないことだ。ある程度は妥協するしかないよな。
ただ、黒幕をどうにかしない限り、根本的には解決しないだろう。こちらでも、策を練る必要があるかもな。
「いや、謝らないでくれ。全力を尽くしてくれているのは分かる。だから、こっちもやれることをやるだけだ」
「ありがとう。絶対に、黒幕を見つけてみせるわ」
「こちらこそ、ありがとう。色々と、大変だろうに」
「レックス君のためなら、なんてことないわ! 終わったら、お茶会でもしましょうね!」
そんな時間のために、俺は戦うのだろうな。親しい人と平和に過ごす以上の望みなど、無いと言ってもいい。本音を言えば、人殺しなんてしたくないからな。わざわざ戦ってまで手に入れたいものなど、ほとんどない。
ただ、仲間に危険が迫る可能性があるから、それを排除しているだけなんだ。殺された側からすれば、たまったものではないだろうが。
とはいえ、俺は自分や仲間に攻撃を仕掛けてきた人しか殺していないからな。正直、必要経費だとは思う。なぜ、敵の命にまで配慮しなければならないのか。
普通に過ごせるのなら、わざわざ殺さなくて済むのにな。どうして、いちいち邪魔してくるのやら。
「それは楽しみだな。リーナなんかも誘ってな」
「良いわね! リーナちゃんは、きっと素直にはなれないんでしょうけど」
確かに、ひねくれた言い回しをしている姿が目に浮かぶ。あれはあれで、親しい人に心を許しているのだろうが。
リーナは、他人を信用しない人だからな。その上、嫌いな相手はなるべく無視しようとするタイプのはずだ。わざわざ応対してくれる時点で、ある程度は好意を持ってくれているよな。
というか、何度も助けられているからな。その上で疑うのならば、俺は人でなしだ。
「またな、ミーア。その機会が来るように、こっちも頑張るよ」
「そうね。私も、全力を尽くすわ。また会いましょうね」
ということで、ミルラやジャンと相談することにした。今後の方針を練るために。基本的には、ブラック家を動かしているのはふたりだからな。そこに話を通すのが筋だろう。仕事を増やすのは、悪いとは思うのだが。
「ミルラ、ジャン。今回の件は、長引きそうだ。そこで、ブラック家の防衛計画を練ろうと思う。どうだ?」
「私としては、ジュリアさん達にも助力を願うのが良いかと」
「そうですね。とはいえ、兵力を固めるだけなら、芸が無いですよね。もっと手を打ちたいですね」
どちらも必要なことだろうな。というか、できることならば先手を取りたい。専守防衛に努めるとしても、自分の家で戦う理由は少ないよな。もう少し手前に、戦場を持っていきたいところだ。
それに、ジュリア達の負担を軽くするのも大切なことだ。戦えば勝つだろうが、それは他で手を抜く理由にはならないよな。
「ジュリア達だって、ただ戦うよりは、支援があった方が良いだろうからな」
「その通りでございます。戦力を有効活用するのも、重要な役割でございますから」
「ジュリアさん達は、戦力としては優秀ですけどね。とはいえ、少人数ですから。大勢が相手だと、対応が遅れるでしょう」
まあ、そうなんだよな。4方向から攻められるだけで、大変なことになる。だから、相手の進軍路を限定するとか、うまく魔法を当てられるようにするとか、そういう立ち回りは大事だろう。
そして、それらは事前の準備が物を言う。今のうちに計画しておくのは、間違いなく必要なことだ。
「俺も経験があるが、守りながらだと、単純に強い魔法を叩きつけるだけではダメだからな」
「雑兵を用意することも、可能でございます。ただ、盾としての運用が限度でしょうね」
「ジュリアさん達の壁になってくれるだけでも、意味はありますけど。ただ、僕達には最強の駒があります」
そう言って、ジャンはこちらを見る。まあ、俺が最強なのは、普通の考えではあるよな。あのフィリスに勝ったんだから。魔法使いとしては、圧倒的な高みに居る。それは単なる事実だ。
とはいえ、原作の敵には、まだ強い存在も居るのだが。油断できないのは、良いことなのか悪いことなのか。
まあ、今回に関しては、俺が出れば大体の局面には対応できると思う。その程度には強い。とはいえ、俺ひとりが強いだけでは、防衛には限界があるだろう。
「俺か? ただ、俺が離れる場面もあるだろう。そういう時には、どうするんだ?」
「ですから、魔力の侵食ですよ。アクセサリーのように、僕達にも運用できる形であれば、どうとでもできます」
「それは名案でございますね。それならば、私も戦力として数えられます」
確かにな。かなり良い案だと思う。事前に罠を用意しておいて、相手が攻めてきたら発動させる。それだけでも、大きく戦局に影響があるだろうな。
とはいえ、どんな罠を仕掛けると良いだろうか。なんでもできるとは思うのだが、だからこそうまい案が思いつかない。
単純に、俺の魔法をジャンやミルラが撃てるだけでも、有効ではあるのだろうが。それだけでは、物足りないよな。
「あまり前線には出ないでくれよ。ジャンはまだ魔法があるから良いが」
「僕としても、戦術に集中したいですからね。僕達は後ろでどうにかしますよ」
なら、遠くから制御できる形にするべきだな。さて、どうしたものか。カミラやフェリシアの魔法を込めるという手段もある。どこに設置するのかでも、効果が変わるだろう。
そうなると、他の人の案も聞いておきたい。ちょうど良い知り合いが、俺にはいるよな。
「そうなると、どういう形で魔力を侵食させるかだな。色々と思いつくが、しっかり検証したいところだ。フィリスやエリナにも、相談したいな」
「では、会ってきてください。その間に攻められたのなら、こっちでどうにかします」
「私達から、レックス様に呼びかけることも可能でございます。ご安心いただければと」
まあ、贈ったアクセサリーの防御だけでも、最悪の事態は避けられるだろう。だから、安心して向かうことができる。いざとなったら、転移で戻れば良いだけだからな。
さて、フィリスやエリナはどんな意見を出してくれるだろうか。再び顔を見ることも、楽しみだな。不謹慎かもしれないが、ワクワクを感じている俺が居た。




