292話 今後の対策
ミーアによると、俺の首に賞金をかけた相手がいるのだとか。なら、できるだけ早く対処したいところだ。俺が狙われるだけならともかく、家族や仲間に被害が出たらマズいからな。
とはいえ、俺の闇魔法があれば、危険があった時には探知してすぐに転移できるし、防御魔法の効果もある。よほどのことがない限りは、何も無いのが普通だろうな。
それでも、気を抜くのはあり得ない。打てる手は全部打つくらいで、ちょうど良いだろう。それに、ミーアだって動いてくれるんだからな。こちらが適当な動きをすれば、ミーアの気持ちを裏切るだけだ。
現状では、まだ黒幕は分からないとのこと。それなら、まずは防衛しながらミーアの調査を待つことになるだろうな。
そんなミーアは、こちらに話があるらしい。なにか言いたげにしているのを感じるからな。とりあえず、聞いていくことにする。
「ねえ、レックス君。いつでも連絡できる手段が、何か無いかしら? それがあれば、動きやすいと思うのよね。今回だって、手紙を送らなくても良かったもの」
そうだよな。差出人も書かれていない手紙だったし、最悪捨てられていてもおかしくなかった。おそらくは、工作の一環なのだろうが。なら、そもそも手紙が必要ない状況になれば、大きく動きやすくなるだろうな。
なら、実現する価値はあるよな。とはいえ、どうしたものか。手紙を送るとなると、転移か? ただ、座標指定とかの問題もあるからな。どうやって俺の居場所を特定させるのかという課題もある。
そういう状況なら、頼れる相手はすぐ傍に居る。会いに行けば、きっと答えてくれるだろう。
「どうだろうな。実際、できれば便利だよな。少し、フィリスに相談してみてもいいか?」
「もちろんよ! フィリス先生も、きっと喜んでくれると思うわ!」
ということで、フィリスに会いに行く。顔を合わせると、ほんの少しだけ笑みを浮かべていた。いつもは無表情だから、ちょっと新鮮な気分だ。
こうして会うのも久しぶりだが、普通に話せそうな感じがするな。接しやすさは、エルフとしての経験の賜物だろうか。
「なあ、フィリス。遠くで連絡を取り合う手段は、何があると思う? 何かを送れば良いとは思うんだが、その手段が分からなくてな」
「……質問。誰が相手でも連絡したいのか、あるいは特定の相手だけなのか」
すぐに出てくるあたり、なにか思いついているのかもしれない。そのあたり、やはり頼りになるな。魔法の知識に関しては、誰よりもある。それは間違いないだろう。
戦って勝ちこそしたが、今でも俺より優れている部分はいくらでもある。だから、ずっと尊敬し続けるのだろうな。素晴らしい師匠だよな。本当に、出会えて良かった。
「基本的には、ミーアが相手だな。他の相手にも使えると、嬉しくはあるが」
「……理解。なら、贈ったアクセサリーを使えば良い。そこを起点にして、音を送るのが楽なはず」
なるほどな。贈ったアクセサリーとは、常に接続している。なら、それを利用すれば良いと。素晴らしい案だ。それなら、実現できそうだ。
「確かに、それなら今までのやり方の応用で行けそうだな。ありがとう、フィリス」
「……当然。私はレックスの師匠。頼られたのなら、答えるだけ」
わずかにだが、口元を緩めている。俺は、間違いなく大切にされている。世界最高峰の魔法使いに。ありがたいことだよな。
フィリスには、これまで何度も頼ってきた。きっと、これからも同じなのだろうな。だからこそ、もっと成長しなければ。フィリスの望みは、俺が最高の魔法を見せることなのだから。それは分かる。
とにかく、魔法に興味津々って感じだからな。新しい世界を見せることで、恩返しにしたい。
「俺の師匠がフィリスだったことは、特に大きな幸運だったよ。そうじゃなきゃ、今よりは弱かっただろうからな」
「……相子。私も、レックスのおかげで満たされている。気にしなくて良い」
穏やかな顔をしているから、本当に満足しているのだろう。嬉しいよな。俺がフィリスを満たせているのは。大切な恩人なのだから、まだ足りない気もするが。
「じゃあ、作りに動くよ。フィリスにも、後で渡すつもりだ」
「……感謝。レックスと連絡できるのなら、ありがたいこと」
相談を抜きにしても、声を聞きたいものだ。フィリスとの時間は、とても大事なものなのだから。
そうして、アクセサリーを作りに動いた。まずはミーアの分を作って、その次にフィリスの分を作った。約束の分は、これで終わりだな。
ということで、渡しに向かう。ミーアは俺の顔を見て、一気に表情が華やいだ。
「できたぞ。これを受け取ってくれ。魔力を込めれば話ができるようにする」
「ええ、もちろんよ。これで、いつでも話ができるわね!」
アクセサリーを手渡すと、すぐに身に着けていく。今回は、首飾りを贈った。目立たないものの方がいいかと悩んだが、これで正解らしい。大切そうに手にとって、嬉しそうに身に着けていたからな。
話ができるようになれば、連絡は楽になるだろう。それなら、すぐに動けるだろうな。それに、気軽に話ができるようにもなる。良いことづくめだな。
「そうだな。また話ができるのなら、嬉しいよ」
「リーナちゃんにも渡したいわね! 他の知り合いにも! 渡してほしい相手がいるのなら、私が渡しておくわよ」
それは確かに助かる提案だ。困ったことがあったら相談してくれればいいし、防御魔法を込めておけば、いざという時にみんなを守ってくれるだろう。
後は、単純に話ができるだけでもありがたい。物理的に遠い場所に居るから、会いに行くだけでも一苦労なんだよな。転移があるとはいえ、むやみやたらと使えば警戒されるだろうし。
「なら、頼む。まあ、お前が知っているような相手くらいだが」
「ふふっ、そうね。レックス君と仲が良い子は、みんな知っているんじゃないかしら」
「なら、ちょっと待ってくれ。アクセサリーを用意しておく。宛名も書いておくから、確認してくれ」
ということで、知り合いの分のアクセサリーを準備して、ミーアに渡した。明るい笑顔で受け取っていたな。
「確かに、受け取ったわ! 必ず渡しておくから、安心してね!」
「ああ。みんなで話もできると、楽しそうだな」
ふたりだけで話をせず、例えば王女姉妹の両方と話をするとか。そういう事ができれば、とても良い時間になるだろう。
まあ、何時間も話をすることは難しいだろうが。それでも、ハードルが下がったのはありがたい。
「それも良いわね! 今回の事件を抜きにしても、連絡は取り合いましょうね!」
「ああ、そうだな。お前達と話せるのなら、良い時間になるだろう」
「そうね! 私達なら、きっと素敵な話ができるはずよ! だから、こんな事件はすぐに終わらせないとね!」
ミーアは、決意を込めたような真剣な目をしている。本当に、さっさと解決しないとな。つまらない事件に時間を取られていては、楽しい時間は遠ざかるだけなのだから。
それに何より、家族や仲間に危険が及ぶ可能性がある。すぐにでも排除したいところだよな。
「ああ。どんな相手だろうとも、打ち破るだけだ。そうしないと、前に進めない」
「私も、全力で調査するからね! その後には、いっぱいお喋りしましょうね!」
こちらの手を握って言うミーアを見て、明るい未来を思い描くことができた。それを現実にできるように、頑張らないとな。気合いが入るのを実感できた。




