275話 果たすべき役割
麻薬の流行を止めるために、俺達は動き出すことになった。実際、今のうちに止めておかないと、もっと広がりかねないからな。
中毒になってしまえば、生活を崩すレベルの金を吐き出してしまう。そんな相手は、良い金づるだろう。儲けることだけを考えるなら、いくらでも拡大したいはずだ。
ただ、麻薬が広まってしまえば、色々な意味で困る。治安は悪くなるし、経済も鈍化する可能性が高い。まともな働き手が減るだけでも、大きな影響があるからな。
ということで、なるべく早く終わらせたい問題だ。ラナ達と協力して、さっさと解決しないとな。まずは、ブリーフィングからだ。
「さて、まずは麻薬を見つけないといけませんね。どうしますか?」
ラナは首を傾げながら聞いてくるが、何も知らないはずはない。そもそも、麻薬が流行していると言ってきたのはラナなのだから。
とりあえずは、引き出せるだけ情報を引き出そう。なんて言うと、容疑者相手みたいだが。当たり前だと思っているから語らないとか、そういう理由だろう。だから、警戒なんかはしていない。
「ラナは何か知っていたりしないのか? それがあるかないかで、まるで違うと思うのだが」
「ふふっ、そうですね。どこで流行しているのかは、当然把握していますよ」
まあ、そうじゃなきゃ流行しているだなんて判断できないものな。なら、それを取っ掛かりにするか。闇魔法の存在を考えれば、俺が動いた方が早いだろうし。
いずれは、俺の力がなくても解決できる状況に持っていくべきなのだろう。ただ、それは今じゃない。少なくとも、ラナは自力で解決できないと判断したから、俺に頼ったのだろうし。
だったら、俺が手を動かすのは当然の話だよな。もちろん、みんなにも手伝ってもらうべきだろうが。俺が全部解決するとしても、流れを見るだけでも違うはずだからな。
「なら、そこから調査していくか。あまり、見て気分の良いものではないだろうが」
ということで、現地に向かう。そこでは、妙な匂いが漂っていた。なんとも表現しがたいが、すえたというのが一番近いかもな。
うつむいている人やら、ずっと座っている人やら、ブツブツとなにかを話している人やらが居て、異様な雰囲気が漂っていた。
みんなも、困ったような表情で周囲を見ている。
「……なんか、どこを見ているのか分からない人が多いね」
「妙に痩せている人も。これは、飢えとは違うのでしょうか?」
「引っかき傷も多い。喧嘩したのか、自分でやったのか」
なんというか、恐ろしい話だ。麻薬中毒になってしまえば、いま見ているような状態になってしまう。みんなも、強く実感できただろう。麻薬が危険なものだというのは、もはや説明する必要もないはずだ。
「とりあえずは、話を聞いてみましょうか。あたしがやりましょうか?」
「いや、俺に任せてくれ。なあ、あんたはどこで薬を買ったんだ?」
そう聞くと、どこか虚ろだった人が、すぐにこちらを向いた。妙に機敏で、驚いてしまったくらいだ。そのまま、ものすごい声で話してくる。
「薬……? 持っているのか? なら、よこせ!」
つかみかかってきそうな勢いだったので、ジュリアが引き剥がす。少し乱暴だったが、まあ仕方ない。急なことだったからな。余裕もなかったのだろう。
明らかに異常な光景だからな。冷静に対応するのは難しいはずだ。かく言う俺だって、反応が遅れたくらいだからな。
「もう、レックス様に変なことしないで!」
「あまり過激なことは、しないでくれよ。一応、被害者なんだろうし」
「はい。ただ、これでは私達だけで情報収集するのは難しそうですね」
「同感。話が通じる人を探すだけでも、かなり大変」
みんな、何か考え事をしている様子だ。いま目の前に広がっている光景は、見たことがなかったのだろうな。実際、俺も初めて見た。ある種のホラーのように感じて、できれば離れたい気持ちがある。
だが、ちゃんと解決しないと、もっと広がってしまうだけだろう。なら、気合いを入れて解決しないとな。
「なら、魔力を侵食させておいて、人の動きを探っておくか」
「そうですね。あたし達みたいなよそ者が長居しても、あまり良いことはないでしょうから」
ということで、住民や地形に魔力を侵食させて、様子を探ることにした。いったん離れて、こっそりと状況を確かめていく。その中で、人の動きに違和感を覚えた。
「ふむ、特定の人間に、周囲の人達が集まっているな。そいつを追いかけてみるか」
「良いですね。まずは、何をしているのか確認しましょう。あたしも手伝います」
ラナに合わせて、周囲の人間に見つからないように監視していく。そこでは、何かの取引が行われているようだった。
「なにか売っているね。袋かな?」
「それなら、麻薬の可能性は高そうですね」
「じゃあ、追跡して拠点を探る」
「そうだな。どんな組織が糸を引いているのか、しっかりと確かめないとな」
袋を売っていた、売人らしき存在。それを追跡していく。魔力を侵食させているので、離れたまま状況を確認できる。やはり、闇魔法は便利なものだ。俺が次代に託す時が来る前に、闇魔法に依存しない体制を作らないとマズいだろうな。そう思うくらいには、何でもできる。
考え事をしながらも、後を追っていく。すると、大きな家に入っていく姿を確認できた。そこで、情報を整理していく。
「ここ、貴族の屋敷みたいな感じじゃないか?」
「そうですね。おそらくは、領主の家かと。地図を確認する限りでは、情報は一致しています」
なら、間違っては居ないのだろう。領主の家ほどの大きさの屋敷が、近くに複数あるとは思えないからな。実際、周囲にそれらしきものは見えないし。
「さて、どうしたものか。貴族が相手なら、安易な行動はできないよな」
「とはいえ、レックス様は麻薬を排除したいんですよね。私が攻撃しましょうか?」
「いや、どうせやるのなら、徹底的に潰さないと。中途半端な攻撃が、一番ダメだと思う」
「同感。反撃の隙を残すと、きっと面倒」
俺が何も言わなくても、方針がまとまっていく。こういう事ができるあたり、みんな成長しているよな。むしろ、知性の面では俺より優秀だったりしてな。だからといって、簡単に負けて喜んではいられないが。
「とりあえず、王家に告発しますか? 対策を練る時間のついでに、王家の対処を待ちましょう」
「まあ、悪くないか。なら、その方針で行こう」
ラナの提案以上のものは、今の俺には思いつかなかった。あるいは、もっといい案もあるのかもしれない。だが、こういうのは巧遅よりも拙速を尊ぶべきものだろう。
ということで、受けることに決めた。代案がないのなら、反対意見なんて言うべきではないし。
「でしたら、調査しやすいように、更に情報を集めておきましょう。麻薬がどこにあるのかなんて、いいネタじゃないですか?」
「分かった。なら、俺に任せてくれ。売人を追跡しておくよ」
そこは俺の役割だな。闇魔法を使って動きを探れば、簡単に秘密を明かせる。他の人だと、こっそり侵入する必要があるだろうし。まあ危険だからな。
「なるほどな。地下に保管しているみたいだ。隠し部屋がある様子だな」
「それでしたら、隠し部屋の情報も伝えておきましょうか。そこは、あたしに任せてください」
ということで、王家に告発して、動きを待ちつつ今後について考えることにした。さて、どんな行動が有効だろうな。しっかりと案を練らないと。




