表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
物語の途中で殺される悪役貴族に転生したけど、善行に走ったら裏切り者として処刑されそう  作者: maricaみかん
8章 導かれる未来

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

269/571

268話 シュテルの執着

 私は、レックス様のしもべとして、お役に立てるように努力を重ねていたわ。だって、私の心の中心にいるのは、レックス様なんだもの。


 もちろん、ジュリアだってサラだってラナ様だって、他の友達だって大切よ。でも、明らかに違うのよ。確かに、友達と過ごす時間は心を癒やしてくれる。希望になってくれるわ。


 ただ、レックス様がそばに居るだけで、私は多幸感で満たされるの。どんな麻薬だって勝てないって言ったのは、本心なのよ。


「今はレックス様と一緒に居られる。とても素晴らしいことだわ」


 その幸せを、噛み締めていたわ。目を閉じて、胸に手を当てながら。私を心から信じてくれて、大切にしてくれて、ずっと肯定し続けてくれる人。そんな相手を手に入れられた幸運は、一生忘れないわ。


 どんな未来が待っていようと、いま感じている幸福は失われたりしない。例えレックス様に騙されていたのだとしても。なんて、あり得ない仮定よね。


 でも、裏切られたって良いという気持ちは、間違いなく本物よ。レックス様が与えてくれるのなら、死すらも宝となるでしょう。


 今の私は、レックス様が何よりも大切なのよ。もう、過去になんて戻れないわ。例え飢えに苦しむ生活に戻るとしても、レックス様だけは手放さない。それは、絶対なのよ。離れ離れになる苦しみは、もう知っているのだもの。


「フェリシア様のところに行った時には、ずっと会えなかったもの」


 その時の苦しみは、寒さは、耐え難いものだったわ。ずっと震えていたくらいには。思い出すだけで震えそうになるくらいには。


 だから、今という時間の大切さは、より強く感じることになったわ。手放したくないという思いも、さらに高まったのよ。


「レックス様のそばに居られることは、当たり前じゃないのよね」


 レックス様と出会えたことは、とてつもない幸運なのよ。学校もどきに誘われたことですら。そこから関わることができたことなんて、とても言葉では言い表せないくらい。


 もし生まれ変わるとしても、レックス様と出会えない世界だけはごめんよ。と言っても、同じくらいの幸運なんて、きっと手に入れられないのでしょうけれど。


「それはそうよね。レックス様は、本来は天上の人。忘れかけていたけれど」


 私みたいなただの平民は、顔を見ることすらできないのが当然。直接会話をするなんて、それこそ強い魔法を持って生まれるよりも珍しいはずよ。1万人にひとりですら軽い。比べることすらおこがましいくらいに。


 だからこそ、いつ捨てられてもおかしくないのが、正しい現実。きっとレックス様は、ずっと大切にしてくれるでしょうけれど。


 でも、レックス様にも自分の人生がある。私だけを見ているなんてこと、不可能なのよ。私ですら、レックス様とだけ関わることはできないのに。


 レックス様には、多くの知り合いがいるわ。だからこそ、その人たちが困っていたら、助けようとしてしまうのでしょう。本当は、私だけを大切にしてほしい。そんな気持ちも、否定はできないけれど。


 でも、あり得ないことだから。それなら、妾でも何でも良いから、離れたくないわ。私を抱いてくれるのなら、とても嬉しいことよ。だって、レックス様の愛をいただけるのだもの。


 ただ、今はまだ、単なる夢でしかないのよね。ずっと傍に居るなんてことは。


「また、会えなくなるのかもしれないのよね……」


 かもしれないというより、もはや確実な未来なのでしょう。私にだって、ブラック家での仕事がある。それを投げ出すことはできないのだから、レックス様が外で仕事をするだけで、離れる可能性は常にあるわ。


 でも、本当は嫌。泣き出したいくらい。逃げ出したくなるくらい。レックス様の姿を、つい探してしまうくらい。


「寂しいです、レックス様……。私は、ずっとあなた様のそばに居たい……」


 それだけで、他の何もいらない。少なくとも、金銭も、贅沢な食事も、豪華な暮らしも、名誉だって。普通の人が求めるようなものより、レックス様の方がよほど大事なのだから。


 強欲と言われれば、そうなのでしょう。本来は仰ぎ見ることすらできない相手と、一緒にいようとしているのだから。でも、これが私よ。どれほどの罪だろうと、どんな罰が待っていようと、構うものですか。


「私の人生は、レックス様あってのもの。もう、そうなってしまったのよ」


 穏やかな声も、暖かい手のひらも、優しい顔も。レックス様のすべてが、とても輝いているわ。私が満たされている時間には、必ずレックス様が関わっているくらいに。


 でも、レックス様だって悪いのよ。ただの平民だった私を、どこまでも大事にしてしまうのだから。執着されるなんて、当たり前の話じゃない。


「だからこそ、しっかりお役に立たないとね。いつも必要としてもらえるように」


 どんな敵が現れたとしても、必ず倒す。どんな壁が待っていようと、突き破るだけ。何を求められようと、必ず叶えるべきなのよ。それが、私の望み。私の幸せ。そして、大切な恩返し。


 私の力のすべてを尽くして、全身全霊をかけて、どんな障害も踏み越えてみせるわ。


「でも、必ず成功するとは限らない。いえ、どうしても無理な状況だって、あるかもしれない」


 私の能力は、レックス様の足元にも及ばない。いえ、レックス様の知り合いの中でも底辺と言って良い。だからこそ、足りないものばかり。


 そんな私が、レックス様が挑むべき問題を解決できるなんて、うぬぼれなのかもしれないわ。


「レックス様と離れ離れになったとしても、私は耐えるべきなのよ。ラナ様だって、耐えていたのだから」


 レックス様を、私だけに縛り付けられないのだから。そんなワガママ、許されないのだから。でも、レックス様を求めることくらいは、許してくださいね。


 私だって、レックス様のために生きる。その覚悟は、あるつもりですから。


「でも、触れ合えないのは苦しいわ。話せないのは悲しいわ」


 どうしても、抑えきれない感情よ。レックス様が大切だからこそ、その存在を感じられない時間は空虚になってしまう。レックス様と一緒にいる時間が幸せだからこそ、それ以外の瞬間は色あせてしまう。


 でも、私は耐えなければならない。そのために、どうすれば良いのか。とても難しい問題だったわ。


「いえ、ひとつだけ手段がある。そうよね」


 頭の中に、ふと思い浮かんだものがあったわ。レックス様が大事なら、もっとその心を深めてしまえばいいだけ。そうですよね、レックス様。


「レックス様の顔も声も、体温も匂いも、ずっと思い描けるようになる。それでいいの」


 私の頭の中に、レックス様が存在するように。心の奥底に、ずっと刻み込めるように。そうすれば、幸せな時間に浸り続けられるのよ。


「多くの人を扱うのなら、少し離れる機会だってあるはずだもの」


 私の目標は、まだ忘れていないわ。レックス様の手駒を増やすことよ。それこそが、力の足りない私の道。今でも変わっていないわ。きっと、いえ、必ず達成してみせるわ。


「現実になんて、負けてられないわ。私は、レックス様のしもべなのよ」


 誰よりも偉大なレックス様の。その名を汚さないように、私にだって相応の格式が求められるのよ。少なくとも、単なる弱者で居て良いはずがないわ。


「私は、あなた様のために、どんなことでもします。だから、もっと求めてください」


 それだけで、私は笑って死ねるでしょうから。


 お願いですよ、レックス様。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ