表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
物語の途中で殺される悪役貴族に転生したけど、善行に走ったら裏切り者として処刑されそう  作者: maricaみかん
8章 導かれる未来

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

266/573

265話 貴族の技

 スマルト家の調査のために、侵食させておいた魔力を目印に、近くに転移する。それから、目的の城全体に魔力を侵食させていく。魔力を通して、人の動きを探るために。


 そうして家の中の動きを見ていると、当主らしき人にはあたりが付いた。明らかに人に指示を出しているやつが居たからな。大きめの椅子に座っているあたりも怪しい。


 ということで、そいつに注視していく。すると、ひとりになって何かを確認している様子だった。他の人を入れないのは、気になるところだ。ということで、確認していたものの位置を確認しておく。


 そして、目的の相手が去った後に、目をつけていたものを調べていく。すると、スマルト家の当主の署名が入った書類があった。しかも、商会の襲撃依頼と解釈できる文言が入っている。


「見つけた。これは、同じ筆跡か? 一応、確認してもらうか」


 ということで、書類を回収してラナのもとへと向かう。


「ラナ、これはどうだ? 証拠になると思うか?」

「ありがとうございます、レックス様。これなら、良い材料になると思います」


 何度も頷いているので、策は浮かんでいるのだろう。まあ、俺が成功した時のことくらい考えているよな。おそらくは、失敗した時のことも。


 いずれにせよ、手を貸せる部分では貸していきたい。俺が役に立てるのなら、嬉しい限りだ。それに何より、ラナの抱える問題はさっさと解決してしまいたいからな。


「それで、どうするんだ?」

「ええ。ケンカを売ってみようかと。大勢の前で、スマルト家の悪事を白日の元にさらします」


 本気でケンカを売っている。まあ、かなりの大問題だからな。民衆の支持を奪うことは、やり方次第では可能だろう。とはいえ、支持基盤を失っただけではダメだろうな。結局、魔法を使えない平民は貴族に従って生きていくしかない。


 二の矢三の矢を撃たなければ、相手を追い詰めることはできないはずだ。まあ、それくらいのことはラナだって分かっているだろうが。


 そうでなければ、明確に敵意を示す意味がない。もう少し遠回しに追い詰めていくのが鉄則だろうからな。わざわざ破るのだから、何か理由があるはずだ。


「あまり危険なことはしてほしくないが、手をこまねいているのも問題だからな」

「レックス様にいただいたチョーカーがあれば、大丈夫ですよ」


 少なくとも、演説の最中にラナが殺されることはないか。場合によっては、インディゴ家に軍を派遣されかねないと思うのだが。まあ、俺がいれば最低限の対策にはなる。力で押し通そうとされたのなら、より強い力を叩きつけるだけでいい。そういう意味では、単純だよな。


「まあ、直接的な攻撃には対応できるか。インディゴ家は、大丈夫なのか?」

「そちらにも、手段は考えています。レックス様は、安心していてください」

「なら、任せる。俺は表に出ない方がいいよな?」

「そうですね。いざという時の切り札として、よろしくお願いします」


 ということで、数日後。スマルト領の大きな街で、ラナが人を集めていた。おそらくは、サクラなんかも居るはずだ。そういう手段は、貴族の常套手段だろうからな。逆に、用意していないのならマズいだろう。


 人々がラナを興味深そうに見ている中、ラナは大きく息を吸って話し出す。


「皆さん、聞いて下さい! スマルト家当主、アベル・ミスト・スマルトの悪事を告発します!」


 うん、良い感じだ。人の興味を引けそうなところから話し始めるのは、基本だよな。悪事を告発すると言われたら、気になる人間は居るだろう。そこから流れを作っていきたいよな。


「なんだなんだ? どういう話だ?」

「彼は、アードラ商会を含め、数多くの商人を襲い、その財産で私腹を肥やしているのです!」


 しっかり罪を上乗せしている。うまい手ではあるが、ちょっと恐ろしいな。民衆を誘導するのなら、真実よりも過激さの方が重要だというのは分かるが。俺には打てない手だ。どうしても、ウソをつきたくない。ただ、貴族としてはラナの方が正しいのだろうな。


「それなら、あの時野菜が足りなくなったのも!?」


 いい流れだ。仕込みでないのならば、凄まじい偶然だ。自分の生活に悪影響が及ぶと思えば、スマルト家に敵意を抱くよな。関係のない商人の問題では終わらない。これは、狙っているのならば相当良い手だ。


 民衆に、自分達に被害が出ている原因がスマルト家だと思わせる。そうすることで、スマルト家が悪だと思うようになるだろう。


「これがその証拠! 盗賊団に依頼をした証です!」

「書類まで残しているのなら、事実じゃないか!」

「やっぱりね。ずっと怪しいと思っていたんだよ」


 盗賊団に書面で依頼をするかと言えば、普通は怪しい。だけど、伝えたい真実を補強する道具としてはちょうど良いだろう。


 実際、明らかに流れが変わった。民衆たちはざわついていて、誰もがスマルト家の愚痴を言っている様子だ。


「あまつさえ、彼は増税して民衆から搾り取ろうとしているのです! 皆さんが必死で築いた財産を!」

「そんなこと、許せない! やっぱりスマルト家は悪だ!」


 単純に悪で敵だと思ってもらえるのなら、理想的だよな。そういう意味では、かなり的確だ。民衆の生活を邪魔する存在として、スマルト家を扱っている。やはりラナは、貴族としては俺より優秀だな。


「聞いていただき、ありがとうございます! 私達は、皆さんの幸福のために尽力する覚悟です!」


 誰かから拍手が上がり、そしてラナ様という掛け声も上がりだした。そのまま会場は熱狂に包まれていく。今回の件だけなら、大成功だな。しかし、どこまでがサクラだったのだろうか。ちょっと気になる。


 そしてしばらくして、ラナのもとにスマルト家からの使者がやってきた。隠れて様子をうかがっていると、盗賊と一緒に居た魔法使いだった。そいつは、ラナに威圧的に話していく。


「ラナ殿。困りますな。我々に対する侮辱など。あなたに覚悟があるというのなら、我々と戦いますか?」

「別に構いませんよ。その証に、あなたの首を送りましょうか?」

「できるものなら……うっ!」


 ラナは相手の顔を水で包み、溺れさせていく。もはや、流れるように魔法を発動できているな。敵が相手とはいえ、少し残酷ではあるが。


 まあ、盗賊と一緒に商人を襲っていたやつだ。しかも、護衛を含めて皆殺しにしていた。そう考えると、多少の苦しみなんて単なる罰だと考えても良いのかもな。まあ、私刑は避けた方が良いだろうが。


「さて、あなたが何回耐えられるのか、しっかり確認させてもらいましょうか」

「お、お助けを……」

「そうですね。アベルに伝えてください。大勢の前で討論して、どちらが正しいのか示そうと」

「わ、分かりました。必ず伝えてまいります!」


 怯えを隠せない顔で、使者は逃げていく。それを確認して、俺はラナのところへ向かう。


「レックス様、聞いていただけましたか?」

「ああ。どうするんだ? ラナ個人なら殺せると判断されるかもしれないぞ?」

「その時には、レックス様が助けてくださいますよね。あたしは、やれることをやるだけです」


 まあ、ラナのためにできることは、全部やるつもりだ。だから、同じ気持ちではあるのだろう。それなら、お互いに全力を尽くせば良いよな。


「なら、応援している。最悪の場合は、盤面をひっくり返してやるさ」

「お願いしますね。レックス様のために、頑張りますから」


 その信頼に応えるためにも、結果を残さないとな。相手がどう出て来ようが、必ず対処してみせる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ