260話 まず狙うのは
ラナの抱えるというか、インディゴ家の抱える問題は複数ある。そうなると、今の人数では対処に限界があるよな。無論、インディゴ家だって私兵は抱えているだろう。ただ、どこまで使えるのかという問題もある。人数の面でも、実力の面でも。
何も困っていないのなら、ラナが手助けを求めるはずがない。つまり、もともと手が足りていないということになる。
人身売買、商隊の襲撃、麻薬。どれも大問題だが、きっちりと優先順位をつけないとな。そうじゃなきゃ、何も解決できないだろう。
ということで、話し合いを進めていく。もちろん、参加メンバーでだ。
「さて、どの問題も解決したいところだが、一度に全部こなすのは、難しいだろう」
「そうですね。別の場所で、別の事件ですからね」
そうなんだよな。どこか1か所に集まっていれば、まだどうにかなったかもしれない。ただ、連携される可能性が低いのも離れているおかげ。どっちの方が、助かるだろうか。
まあ、もしもの可能性を想定しても仕方がない。今の俺にできることは、目の前にある現実に対処することなのだから。
「どれが、優先的に解決すべきだろうな。ジュリアは、どう思う?」
「誰が相手だとしても、関係ないよ。さっさと倒すだけだからね」
「そうですね。レックス様のお手を煩わせる罪は、しっかり贖わせないと」
「私は撫で撫でしてもらえるのなら、何でも良い」
特にシュテルが過激だ。にもかかわらず、目が澄んでいるのが怖いんだよな。いくら俺が恩人だからといって、傾倒しすぎじゃないか?
いや、感謝される事実自体は嬉しい。それに、尊敬されていて、大切に思われていることも。だが、そのあまりに無茶をしてほしくないだけで。基本的には、本人の幸せが一番大事なのだから。
「なら、相手はあたしとレックス様で決めましょうか」
「そうだな。基準としては、被害の程度というか、犠牲者の数というか」
それが最も重要だよな。軽い問題は後回しで良い。いや、あくまで相対的な話であって、どれも重い問題ではあるが。ただ、優先順位を決める以上、重い軽いの話は必要なことだからな。
きっと、後回しにした方では、犠牲者が出るのだろう。だが、全てを救えない以上は仕方ないことだ。必要経費とまでは思いたくないが、どうしようもない。なら全員を救えるのかと聞かれれば、いいえとしか返せないからな。
「レックス様は、人に死んでほしくないんですよね。なら、商人の襲撃が良いんじゃないですか?」
ああ、人身売買や麻薬では、死人は出るにしろ少ないか。それで、商人への襲撃では、対象が殺されることもある。確かに、優先順位の面では妥当かもしれない。
とにかく、いつまでも議論していられない。どれが良いかと考えている間にも、被害は増え続けるのだから。そうなると、さっさと決めるのも大事だよな。なら、これでいくか。
「戦うのは、僕達に任せてよ! レックス様は、後ろで構えていれば良いからね!」
「そうですね。レックス様を阻む不届き者を、誅殺いたしましょう」
「ご褒美のために、活躍する。見ていてくれれば、それでいい」
皆の目に、炎が見えるかのようだ。頑張るのは良いことなのだが、少し心配だ。一応、盗賊のような相手と戦うことになる。そして、おそらくは殺し合いになるだろう。それでも応援するのは、ちょっとだけ苦しいな。
というか、殺す必要のない相手まで殺してほしくはない。まあ、押し付けることもできないが。命のやり取りをするのは本人なのだから、俺の意見はそこまで重要じゃないよな。
ただ、少し釘を刺すくらいなら大丈夫か?
「一応言っておくが、あまり過激なことはしないでくれよ? お前達の身が危険になりそうなら、忘れてくれていいが」
「効率よく殺すから、安心してくれて良いからね!」
「そうですね。無意味に痛めつけるよりも、素早く消す方が大事ですから」
「同感。撫で撫でのために寄り道は不要」
確かに、過激なことはしなさそうだ。いや、殺す時点で過激なのか? もう、普通の感覚が分からなくなってきた。
前世の価値観で言うと、殺すのは良くないことだ。だが、人の命を奪おうとする相手に容赦しろと言って、何人が納得するのだろうか。自分が犠牲になりそうな状況だぞ。
そう考えると、ある程度は妥協が必要なんだよな。というか、俺がやった方が良い気もする。いや、ジュリア達にも実戦経験は必要だ。できるだけ安全な状況で経験を積ませるという意味では、俺が見ている中で実行するのは適している。
「それなら、良いのか? まあ、殺すなとまでは言えないからな」
「ふふっ、レックス様が大切に思われている証ですよ」
「その通りだよ! 僕達だって、活躍したいんだ! 毎回、助けられてばかりだからね!」
「はい。頂いた力に恥じぬように、粉骨砕身します」
「抱っこも着いてくるのなら、私は無敵」
そこまでやる気なら、水を差すのもな。どうせやらなきゃいけないことなら、熱意を込められる方が良いだろう。相手は盗賊のようなもの。そう考えると、配慮しろとも言えないからな。
いずれは、俺の居ない場所でも、みんなが戦う場面が来るかもしれない。そうなる前に、慣れてもらうのも悪くないかもな。
「なら、今回は任せてみるか。前も、フェリシアに任せていたからな」
「そうですね。フェリシアさんは、四属性も倒されたんですよね」
「僕も、負けてられないよね! 無属性なんて持っていて、甘えてられないよ!」
「私だって、レックス様のために力を尽くすまでです。どんな敵が相手だろうとも」
「ご褒美は、誰にも奪わせない」
それぞれに、気炎を発している。安全には気をつけたいが、今回は見守ることを中心にするか。とはいえ、調査の面では俺の出る幕もあるだろうが。
闇魔法は、とにかく汎用性の高さが強みだ。それを活かせるのなら、最大限に活用するまでだよな。
「商人を襲う敵は、商隊を皆殺しにして全部を奪っている様子です。だから、遠慮は不要ですよ」
なるほどな。本格的に、悪党が相手ということか。なら、遠慮しなくてもいいのだろう。もしジュリア達が危険なら、俺の全力を叩きつけてやろう。スムーズに解決するのが、一番ではあるが。
「なら、みんなには自分を優先してもらいたいところだな」
「もちろんだよ。敵に遠慮する理由なんて、どこにもないからね」
「そうですね。レックス様のお心、無駄にはしません」
「怪我したら、撫で撫でを楽しめない」
とりあえず、俺の心配は理解してくれている。なら、そこまで不安になる必要はないだろう。幸いにして、俺も見守っていられるんだ。ジュリア達の成長の機会になってくれるのなら、それが一番だよな。
「まあ、理由は何でもいいか。ちゃんと無事に帰ってきてくれるのなら、それだけで」
「もちろん、あたしだって頑張りますよ。応援していてくださいね」
拳を握るラナに、俺も頷いた。自分で動けないのは歯がゆくはあるが、必要なことだ。しっかりと我慢して、みんなの活躍を見ていよう。




