26話 次期当主として
家族との関係も良くなってきていて、未来に希望を持つことができていた。父が居るうちはゆっくりになるだろうが、少しでもブラック家を良くしていけそうだ。そう思える。
ただ、まだ父と兄には手を伸ばせていないんだよな。まあ、父はすでに悪に堕ちているから、手遅れではあるが。
そんな事を考えていると、兄の方から部屋にやってきた。黒髪を肩まで伸ばしている、いわゆるロン毛って感じだな。顔を改めて見て思うが、『デスティニーブラッド』で見た記憶がない。オリバー・クロム・ブラックなんてキャラ、居たか?
まあ、設定では存在していたモブ的な存在の可能性もあるか。特筆すべき才能は見当たらないから、隠れていたのかもしれない。一応、三属性ではあるらしいのだが。属性の限界を超えたカミラやメアリほどの凄まじさは無いからな。
まあ、何でも良い。できるだけ仲良くして、ブラック家を良い方向へ向かわせるための一手になってくれたら嬉しい。
ということで、ちょうど良いきっかけだ。今からの話で、少しでも関係をよくできたら良いな。
「やあ、レックス。お前の闇魔法は、どんな事ができるのか教えてもらっても良いかな?」
「兄さん。別に構わないけど、いったい何で?」
闇魔法は珍しいから、その辺だろうか。まあ、見たいというのを断ったら、仲良くするという目的には反する。素直に見せるのが無難だろうな。
「闇魔法は、あらゆる貴族の悲願と言うじゃないか。せっかくだから、どんなものか知りたくてね」
「それなら、広いところに移動しようか。その方が、分かりやすいだろう」
そのまま、魔法の影響が出ても大丈夫なところへと向かう。この家のというか、この世界の訓練場は頑丈だよな。隕石が降っても大丈夫だったり、大爆発を起こしても大丈夫だったり。まあ、そうでもなければ訓練すらできないか。
「さて、まずはどんな魔法を見せてもらえるんだい?」
「闇の衣! ほら、好きに魔法を撃ってみてくれ」
「なら、遠慮なく。雷炎刃!」
雷と炎をまとった、風の刃が飛んでくる。まあ、フィリスの五曜剣の足元にも及ばないからな。何も考えなくても防ぎ切ることができる。やはり、闇魔法というのは強いな。あるいは、レックスの体の才能が凄まじいのかもしれないが。
いずれにせよ、ただの魔法なんて俺には通じない。それこそ、フィリスが本気で俺を殺しに来たくらいじゃないと。いくらなんでも、原作でも最強格の人間の切り札が、ただの魔法初心者に防げる訳がないからな。手加減はされていたはずではあるんだよな。
「こんな風に、大抵の魔法は無力化できるな」
「……なるほど。確かに、特別扱いされるだけのことはあるね」
まあ、実際に原作でも特別な属性として扱われていたからな。闇魔法使いが、ほとんどの大ボスだった。悪のカリスマ的な属性なんだよな。原作のレックスも、大ボスのひとりだった。
実際に使ってみて分かるが、理不尽なんてものじゃない。敵になったなら、迷わず逃げた方がいいレベルだ。ちょっと、対抗策が思いつかない。とはいえ、無属性なら対処法はあるのだが。
何にせよ、闇魔法は特別なんだ。レックスに生まれた幸運は、闇魔法を使えることだと言い切れるほどに。まあ、親しい人たちとの出会いの方が大事ではあったか。でも、関係を築くためにも闇魔法は重要だったからな。選べるものじゃないか。
「まあ、あのフィリスが注目する属性だからね」
「フィリス・アクエリアスか。五曜超魔と呼ばれるほどの存在だからね」
実際、フィリスの知識には驚かされる。すぐに俺の提案に回答を出してくれるあたり、相当魔法に詳しいのは間違いない。闇魔法を実際に見たことが少ないのに、とても助けてもらったからな。
「ああ、尊敬する師匠だ」
「それで、他にどんな魔法があるんだい?」
「他には、こんなものだな。闇の刃!」
フィリスの五曜剣を参考にした、刃としても爆発魔法としても使える便利な技だ。実際、的を切り刻んだ上で消し飛ばすことに成功した。
この技も、フィリスと出会えたから使えたんだよな。やはり、尊敬すべき師匠であることは間違いないな。剣技の面では、エリナも尊敬しているが。
「……ははっ、大した威力だ。俺では、とても発揮できないね」
「フィリスの魔法を参考にしたからな。強いのは当然だよ」
「なるほどね。立派な師匠みたいだ。良い出会いができたんだね」
間違いなく、最高の出会いだった。フィリスが師匠であることは、転生してからの俺の出会いの中でも、トップクラスだろうさ。フィリスのおかげで、他の人達との関係を作れたことが多いからな。
「ああ。魔法使いとして頂点と呼ばれるのも、納得できる話ではあるよ」
「そういえば、カミラやメアリに武器を贈ったんだって? どんなものだい?」
今は手に持っていないが、簡単に呼び出すことができる。魔力を操作するくらいの感覚で、剣を操ることもできるんだ。今思ったが、もしかしたら剣を浮かせて戦うなんてこともできるかもな。まあ、実践するにしても遠い未来だろうが。
「来い、誓いの剣。俺の剣は、こんな感じだな」
「……ふむ。他の剣と、見た目は変わらないんだね」
「だから、少し飾りをつけているんだよ」
「……なるほど。ダリアの花を」
レックス・ダリア・ブラックが俺の名前だからな。ちょうど良かった。カミラの剣にも、メアリの杖にも彫っている。俺が作ったという証のようなものだ。
「そうだね。俺の名前に似合っているだろ、兄さん?」
「ああ、そうだね。レックスにぴったりだよ」
オリバーは楽しそうだ。うまく仲良くなれていると思いたいものだな。いまいち、手応えを感じていないところがある。
「闇魔法を覚えて良かったよ。色々、楽しい遊びができるからね」
「それは良かった。当主になる重圧を感じていないか、心配だったんだよ」
心配をかけていたのだろうか。だからといって、弱音を吐くつもりはないが。俺はいつでも強い人間の演技をするし、ブラック家っぽい人間のふりをする。生きるために、決めたことだ。
「あまり気にしてないよ。手伝ってくれる人もいっぱい居るだろうからね」
「俺も、レックスの力になるよ。期待してくれて構わないよ」
「ありがとう、兄さん。兄さんが協力してくれるのなら、心強いよ」
「期待していてくれ。俺としても、ブラック家をもっと発展させたいからな」
俺としても、ブラック家に滅んでほしくない。俺だって、兄弟だって、メイドたちだって巻き込まれるだろうからな。だからこそ、良い方向へ発展させていきたいんだ。そのあたりで、協力できると良いな。まあ、本音を話すことは難しいだろうが。ブラック家が悪だと思うなんて、言えない。
「そうだね、兄さん。ブラック家が大きくなるのなら、ありがたいことだよ」
「頑張ってくれよ、次期当主として。応援しているからな」
オリバーとも協力できれば良いのだが。俺としては、できれば不和は避けたいし、誰かを殺したくもない。だからこそ、オリバーが敵に回らないように祈るだけだ。
これから先も、親しい人達と生き続ける。そう、何度でも誓う。心に刻みつけるために、必ず実現するために。
さあ、これから先も努力を続けるぞ。理想的な未来にたどり着くまで、俺は立ち止まったりしない。
そう考えていたのだが、しばらく後に、とある光景を見てしまう。
「父上! どうして俺が次期当主ではなくなるのですか!」
「くどい。もはや決まったことだ。お前が口を出すことじゃない」
俺の存在で、何かが歪んでしまったのだろうか。そんな罪悪感が浮かんできた。だが、もう立ち止まる訳にはいかないんだ。もしオリバーが敵になるとしても。




