253話 フェリシア・ルヴィン・ヴァイオレットの流儀
わたくしは、ヴァイオレット家の当主となりましたわ。ですが、それは始まりでしかありません。わたくしとレックスさんが、対等となるための道のね。
ですから、その先に何をするべきなのか、形にしないといけません。だって、わたくしの目標は、まだずっと先にあるのですから。
「ヴァイオレット家をわたくしの支配下に置いた。それだけでは、まだ何も始まりませんわよね」
結局のところ、当主という立場など、単なる道具でしかないのです。わたくしの望みを叶えるための。ですから、すぐに次に進みたいところでしたわ。
わたくしに必要なのは、まずは力。わたくしの支配を万全とするための。レックスさんの力になるための。
「わたくしは、レックスさんのパートナー。それにふさわしい自分でいる必要があるのです」
レックスさんに助けられるだけの人間でなど、いるつもりはありませんもの。わたくしは、お互いに支え合うために、前に進むのです。
単に助けられておいて、レックスさんをからかうのは問題ですもの。わたくしに感謝されているからこそ、意味があるのですから。わたくしを大事にするレックスさんの感情こそが、からかいに色を付けるのです。
ですから、立ち止まるなど、あり得ません。わたくしは、レックスさんを超える何かを持っている必要があるのです。そうでなくては、パートナー足りえませんもの。
レックスさんの感謝を受けることだって、心地いいのです。わたくしは、レックスさんを大切に想っているのですから。彼の幸福を望む者なのですから。
もちろん、レックスさんだって、わたくしの幸福を願ってくれています。だからこそ、信じているし、助けたいと思うのです。愛しているのです。
だからこそ、わたくしには必要なものがある。レックスさんを支えるためのなにか。そうですわよね。
「単純に力で追いつくのは、現実的ではありませんわ」
レックスさんの才能は、わたくしが成長するほどに、より強く感じます。ハッキリ言って、異常と言っていいでしょう。
誰が、学生のうちにフィリス・アクエリアスを倒せることになる自分を想像するでしょうか。きっと、魔法というものを知らぬ幼子くらいのものでしょう。そんな空想を、レックスさんは達成してみせた。驚くべきこと。そんな軽い言葉では言い表せない偉業なのです。
だからこそ、魔法で競うことには限界があるのです。わたくしは、あくまで一属性。その限界は、きっと闇魔法の限界よりも、遥か手前にあるのでしょう。
言い訳だと言う方も居るでしょう。ですが、これは単なる現実。わたくしが、必ず向き合うべきもの。それを理解せずに突き進んだところで、当然のように無様をさらすだけなのです。
「もちろん、研鑽を止めるつもりはありませんけれど」
わたくしは、一歩一歩確かに歩んできた。それを止めるつもりは、ありません。いくら才能で劣っているからといって、その限界に達しないのならば怠慢でしかない。わたくしの誇りは、堕落を許すものではありませんわ。
それでも、足りないものもある。どうにかして補わないことには、何もつかめないのでしょう。
「レックスさんと対等になるには、別の力を身につける必要があるのです」
魔法だけなら、他の人の方が優れている。特に、フィリスは。その現実を認めないことには、始まりません。ですが、フィリスは持っていないものを、わたくしは持っている。それを利用するのは、当然の道ですわよね。
つまり、貴族の血と、自らが収める領。それをどう扱うかに、わたくしの真価が問われるのです。
「なら、話は単純ですわよね。ヴァイオレット家の勢力を広げる。それが近道でしょう」
そのためには、他の家から領地を奪い取る。あるいは、他の家を支配下に置く。その道を進むことになるでしょう。幸い、わたくしは強い。単なる魔法使い程度なら、軽く殺せる程度には。
だからこそ、力を利用するのが、手っ取り早い手段でしょう。わたくしの流儀にも、合っていますわよね。
「とはいえ、理由もなく攻め込んでしまえば、レックスさんは悲しみますわよね」
レックスさんは、争いを嫌う方ですもの。わたくしが戦火を広めたと聞けば、苦しむのでしょう。嘆くのでしょう。それでも、わたくしから離れられないのでしょう。
その道を選ぶことも、きっと楽しいのだと思います。レックスさんを苦しめながら、わたくしの手で慰めるのは。
ですが、わたくしは誓ったのです。レックスさんのパートナーとなると。それなら、彼の意志を尊重することだって、大切ですわよね。
「それなら、相手の方から手出しをさせればよいのです」
わたくしが自ら望んで戦いに挑むのならば、レックスさんは悲しむ。ですが、自衛でまで悲哀を抱く方ではありませんから。その言い訳を用意してしまえば、彼だって乗り気になる可能性はありますわ。
やはり、わたくしこそがふさわしいのです。レックスさんの一番にはね。だって、こんなに理解できているんですもの。彼の心の奥底まで。何を望むのか、何を嫌がるのか。そのすべてを。
そのわたくしの感覚は、レックスさんはわたくしが襲われている事実を重視すると告げているのです。
「ええ、良い案ですわね。これなら、レックスさんと会うための口実にもなりますもの」
困ったことがあるから、手伝ってほしい。そういえば、まず断らないでしょう。その程度には、大切にされていますもの。
だから、レックスさんの手を借りる必要があると思わせる程度の強敵を用意するのが、理想ではありますわね。
「そうと決まれば、どの家を狙うべきか……。やはり、挑発に乗ってくる相手、ですわよね」
適切な理性を持った相手を選んでしまえば、時間がかかりますもの。適度に愚かで、自らの実力を過信している。そんな人を選ぶのは、当然の判断ですわよ。
「ネイビー家は、わたくしを軽んじている。ペール家は、自領の拡大を狙っている」
わたくしを軽く見るのなら、別に構いません。ただ、攻撃に移るのなら、反撃されても仕方のないことですわよね?
そうと決めたからには、あらゆる手段を用いて挑発していきましょう。流言飛語、兵士の演習、賊徒の誘導。それこそ、何でも。
きっと、我慢できないですわよね。そして、弱い相手を葬ろうとしますわよね。なんて、都合のいい相手なのでしょうか。
「そしてシアン家は、あのエトランゼが居る。方針は、明らかですわね」
自らの力を示すために、強者を打ち破ろうとする。なら、わたくしが力を示せば、それだけでいい。単純なこと。そして、とても簡単なことですわ。
「よし、目標は決まりましたわ。早速、行動に移りましょうか」
実現のために、人員を選ぶところから。そして、相手の動きを調査することも。レックスさんに、真実味を感じさせるようにね。
きっと、誰もがわたくしを敵だと思うでしょう。ですが、突き進むだけですわ。
「わたくしは、全てをねじ伏せるまで。それが、わたくしの流儀ですもの」
そう。力なきものには、選択する自由なんてない。わたくしは、わたくしの力の許す範囲で、最高の道を選ぶまで。わたくしより弱いのなら、その儚さを恨めばよいのです。だって、私は単なる一属性。それに負けるなんて、研鑽が足りないだけですもの。
「レックスさん、待っていてくださいね」
わたくし達の未来は、すぐそばにありますからね。




