251話 助け合うために
俺とフェリシアは、ブラック家とヴァイオレット家の今後に関わる話をしていた。お互いが協力すると、大勢の前でハッキリと示す。そのために。
今までだって、お互いの家は協力し合っていた。だが、当主が変わったことで、関係はさらに進むのだと。
俺にとっても、フェリシアにとっても、とても大事な話だ。だからこそ、議論にも熱が入っていた。
「さて、どのような会場を用意しましょうか。ヴァイオレット家に人を集めるのは、現状では避けたいですわね」
「なら、あたしも混ぜてもらえるのなら、良い場所を用意しますよ?」
ひょっこりと、ラナが現れる。話の内容を理解していたあたり、聞き耳を立てていたのだろうな。というか、普通に部屋に入ってきている。まあ、知られても問題のない内容ではあるのだが。
どうせ、大勢を集めるからな。情報を広めることは必要になる。そう考えると、あまり隠していても仕方ないんだよな。
それはそれとして、困った話ではあるのだが。本気で機密の話をしていたら、大変だったんだから。
とはいえ、フェリシアは楽しそうに笑っている。今ここで、ラナとの関係に問題が起こったりはしなさそうだな。ラナには、今後気をつけてほしくはあるが。
「ふふっ、つまりは、ヴァイオレット領とブラック領の外で行うと?」
「ええ。中間の地帯であれば、お互いに示す上でちょうど良いでしょう?」
これは、親戚同士でもある話だな。どっちを優先していると言い切らないように、みたいな。結婚でも、似たようなことが言えるだろう。結ばれる夫婦が、お互いの実家に配慮するのは大事だからな。
まあ、前世では気にしない人の方が多い話ではあった。だが、時々聞く程度の話でもあった。だから、納得できるものではある。
「確かにな。どちらが上であるという話じゃないのだから」
「だからこそ、あたしの存在を利用するのがちょうど良いと思うんですよ。第三者ですからね」
確かに、第三者の前で宣言するという意味でも、どちらの領でも行わないという意味でも、ラナの存在は役に立つのだろう。
それに、立会人をつとめるというだけで、ブラック家とヴァイオレット家両家と、インディゴ家の関係は分かるだろうからな。そういう意味でも、良いのだろう。
俺達の関係という意味では、とても大事な役割になるだろう。盗み聞きは褒められないにしろ、結果的には良かったのだと思う。円滑に進むだろう要素が、大きく増えるからな。
「ねえ、ラナさん。あなたの望みは、それだけではないのでしょう?」
「もちろんです。あたしとレックス様の関係だって、示したいですから」
微妙に視線を交わし合っている。何らかの意図はあるのだろうが、正確には読み切れない。言葉だけで考えると、出遅れは避けたいみたいな感じだろうか。
ブラック家とヴァイオレット家は、蜜月だと言って良い。その関係に対して、うまく入り込むのも重要なのだろう。ラナは、インディゴ家のことだって考えているはずだからな。
「ただ、今回はわたくし達が中心。それは譲れませんわよ」
「仕方ないですね。でも、あたしの番には、あなたが手伝ってくださいよ」
「ふふっ、必要なら、ですわね。インディゴ家の状況次第ですわよ。ね?」
「ちゃんと配下を従えられないのなら、何の意味もないですからね」
声が若干低いし、言外の意図を感じる。少なくとも、牽制しあっている状況ではあるのだろう。まあ、ふたりが言っていることは正しい。当主同士が仲良くすると宣言したところで、下にいる人間が従わないのなら、本当に意味がない。
というか、下手をしたら家が割れることだって考えられるからな。慎重に行うべきことであるのは、間違いないだろう。
「ええ。ヴァイオレット家とブラック家は、もともと繋がっていますから。楽なものですわよ」
「そういう意味では、インディゴ家は面倒な立場ですからね。でも、大丈夫ですよ」
胸に手を置いて宣言していた。堂々とした態度だし、家の統制が取れているのだろう。優秀なことだ。嫉妬してしまいそうなくらいには。まあ、ラナが俺と同じ苦労をせずに済んでいるのなら、嬉しくもあるのだが。
俺の置かれた環境は、あまり良くないからな。そんな状況ではないのなら、良いことだよな。ラナは優しい人だから、慕われているのだろう。俺は、あまり評判が良くないからな。最初を考えれば、大きく進歩しているとはいえ。
「もう、自領の人間を従えることに成功したのか? 凄まじいな」
「はい。あたしに逆らえる人なんて、いませんよ」
「あらあら、楽しそうなことをしていますわね。わたくしも、同じですわよ」
「俺は、正直に言ってうまく行っているとは言い難いんだよな。情けないことだ」
いろんな事件が起きて、大変だったからな。だからこそ、羨ましくもある。まあ、無い物ねだりをしても仕方ないし、ふたりにはふたりなりの苦労があるはずだ。そこはわきまえておかないとな。
俺だって、闇魔法という圧倒的な力を持っているから、その部分では楽をしている。それだって、他の人から見れば恵まれているのだろうから。隣の芝生は青いという事実を、しっかりと受け止めないと。
「ふふっ、そういう時こそ、わたくし達に頼りなさいな。今回の件は、良い機会になりますわよ」
「そうですね。あたしがレックス様のお役に立てるのなら、とても嬉しいです」
ふたりとも穏やかに微笑んで言ってくれるから、心が暖かくなる。俺の結んだ絆は確かなものだと、改めて実感できるからな。こうして支えようとしてくれているのだから。
そんな相手だからこそ、大切にしないとな。少なくとも、ただの他人より優先することは確実だ。抱えるものが多い今の俺は、ウェスとの出会いみたいなものは見逃すのかもしれない。あの時は、単なる他人が傷ついただけだったから。
それでも、今ある関係を大事にしたいんだ。もちろん、手が伸ばせる範囲には伸ばしたいという思いもあるが。優先順位は、ハッキリしている。それは事実だ。
「ありがとう、ふたりとも。俺だって、お前達に返せる分は返したいところだ」
「これまでの経緯を考えれば、あたしはもらい過ぎなくらいですよ」
「わたくしだって、今回も手伝っていただきましたものね」
「お互いに助け合えるのなら、良い関係だよな。これからも、続けていきたいものだ」
「だからこそ、大勢の前で宣言するのです。わたくし達の繋がりは、確かなものだと」
「そうですね。あたしもフェリシアさんも、レックス様の味方ですから」
強い意志を感じる瞳で、こちらを見ている。そうだな。俺だって、ふたりの味方であるつもりだ。だからこそ、助け合うことを邪魔されたくない。そのためにも、ハッキリとした意志を示すのは大事だろう。
俺とふたりだけの問題のままでは、領民を納得させられない。なら、民意を誘導するのも必要なことだ。
「ああ。俺達の関係を、俺達の中だけで終わらせない。そういうことだよな」
「ええ。わたくし達は、誰がなんと言おうとパートナー。そう示すのです」
「そうですね。レックス様は、あたしの大切な人だとね」
「なら、ちゃんとやらないとな。俺達の転機になるんだから」
ふたりは、花開くような笑顔を見せてくれた。その顔を曇らせなくて済むように、しっかりと成功させないとな。




