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物語の途中で殺される悪役貴族に転生したけど、善行に走ったら裏切り者として処刑されそう  作者: maricaみかん
7章 戦いの道

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246話 エリナの研鑽

 私は、レックスの師匠として、あいつの情報を集めていた。フィリスとも協力して、お互いのツテを利用して。レックスが負けることなど無いと信じているが、いざという時には協力できるように。


 私は傭兵時代の知り合いを利用して、フィリスは自らの立場に寄ってくる人間たちを利用して。その中には、今のレックスはヴァイオレット家にいるという情報もあった。


 私達が知る限り、フェリシアはレックスに好意的だ。だから、悪意がぶつけられる可能性は少ないと判断していた。同時に、ヴァイオレット家の状況も確かめてはいたが。


 それによると、ヴァイオレット家は3つの家を敵に回していたらしい。ネイビー家を打ち破り、ペール家を屈服させ、最後にはシアン家と戦った。


 どんな結果になろうとも、レックスが死ぬことはないだろう。私達の集めた情報からは、十分に判断できた。


 とはいえ、驚かされたこともあったのだが。


「エトランゼが、フェリシアに敗れた。これは、予想外だな」


 エトランゼ・アスク・シアン。私とて知っている、槍の名手だ。その上、四属性使いでもある。並大抵の人間では、まず勝てないだろう相手だ。そして、ほぼ全ての獣人が負けるだろう相手でもあった。


 戦場で見かけたことがあったが、とにかく広範囲に魔法をぶつけたり、魔力を利用して加速したり、時には単なる槍で敵を突き刺したり。やりたい放題という他なかった。


「私とて、戦いを避けていた相手だったというのにな」


 正直に言えば、勝てる未来が見えなかったからな。単なる武技で競ったならば、勝つ手段はあっただろう。だが、魔法を使われた時点で、こちらの対応策のほとんどを奪われる。そんな認識だった。


 そして、多くの魔法使いにとっての天敵でもあった。武技を使えるという事実は、想像以上に重い。魔法使いというのは、多くは固定砲台になる。だからこそ、接近されてしまえば、手玉に取られることも多い。私とて、そのような手段で魔法使いを殺したことは、何度もある。


 つまり、エトランゼは強い。それも圧倒的に。魔法を比べれば、四属性の力で潰される。近接戦闘を仕掛ければ、槍の技量に弄ばれる。仮に魔法で勝ったとしても、槍と魔法を組み合わせて討ち取られる。


 だから、フェリシアでは勝てないだろうと予想していたのが、本音だった。


「だが、フェリシアは勝った。属性の数も、相手の戦闘技能も乗り越えて」


 ただ戦っていれば、おそらくは負けていただろう。何らかの形で、エトランゼの対策をしていたのは間違いないだろうな。そうだとしても、素晴らしい成果だが。


 私が同じ立場だったとして、同じだけ強くなれただろうか。そんな疑問すら浮かぶほどだ。私とて、常人には一生をかけても達成できないことを、何度も達成してきたのだが。


 そもそも、ただの獣人は魔法使いに勝つことすらできない。それも、単一属性しか持っていない、ただのザコ魔法使いにすら。


 だから、私の才能や努力とて、誇って良いものではあるのだろう。だが、フェリシアはそれを上回った。


「見事。そう言うしかないな。とてつもない偉業だろう」


 そもそも、単一属性の魔法使いが三属性使いに勝った時点で、凄まじい成果なのだが。ただ、三属性使いと四属性使いでは格が違う。それこそ、百人の部隊と千人の部隊程度には。


 まともにぶつかり合えば、勝敗は明らかだ。だからこそ、フェリシアの強さが際立つのだが。


「なら、私は今のままで居て良いのか? レックスの師匠だぞ?」


 レックスほどの才能を預かる人間が、ただの凡人であって良いはずがない。いや、私がただの凡人でなど、天地がひっくり返ってもあり得ないが。


 それでも、レックスは明確に格が違う。魔法も、剣技も。同じ年の人間には、いや、大抵の大人にすら、同じことができる存在など居ない。


 なら、私はレックスの誇れる師であるか? 無論、慕われているのは分かる。だが、それだけで良いのか?


「当然、答えは決まっているよな。私だって、壁を超えねばならん」


 そうだな。私だって、強い魔法使いを打ち破れるくらいであるべきだろう。フェリシアが壁を超えたように。カミラにだって負けないように。


 フィリスは、世界最強の魔法使いという称号を持っていた。今では、レックスに敗北したのだが。ただ、間違いなく最高峰の魔法使いだ。


 私は、フィリスと比べたら、明確に落ちる存在でしかない。今までは、それに甘んじていた。だが、違うよな。


 レックスが奪う価値のある存在でなければ、意味がない。私自身を求められるために、奪われるために、さらなる高みを目指すべきなんだ。


「更に速く。更に鋭く。レックスの防御すら、切り裂けるように」


 ただ速くて鋭いだけでは、足りないのだろうが。何らかの形で、防御の奥に衝撃を叩きつける。あるいは、防御の隙間をくぐり抜ける。他には、闇の魔力の性質を利用する、あたりか?


 少なくとも、フィリスの協力は必要だろうな。あるいは、ミュスカに手伝わせるのも、悪くないかもしれない。あの女からも、レックスに対する執着は感じるからな。利用できるかもしれん。


 とにかく、レックスの防御を打ち破る剣が、私の目標だ。それを達成できれば、他の魔法使いを殺すのにも役立つだろう。


「ふふっ、レックスは、驚くかもしれんな。そして、また成長するだろう」


 私の剣を見て、剣技にのめり込むような子だからな。優れた技を見れば、もっとのめり込むだろう。用意に想像できる姿だ。


 そして、私が驚くような何かを見せてくれるのだろう。その瞬間が、楽しみだよ。


「レックスの至る頂を見たい。その感情は、変わりはしない」


 そうだな。どこまでも成長するレックスの、その限界を目に焼き付けたい。今でも、大切な思いだ。私にとっては、何よりも大事なことだと言える。


「だが、私だって、レックスに誇れる私で居たい。少なくとも、剣士として最強でなくてはな」


 剣の師として、恥じることのないように。どんな相手であったとしても、剣だけは負けない。その覚悟を、刻むべきなんだ。


 私は、生きるために戦いを避けたことは、何度だってあった。それでも、これからの私は、逃げるより先に考えるべきことがある。


 無論、生きるための行動は続けるさ。レックスの成長を見ないまま死ぬなど、悔やんでも悔やみきれないからな。それでも、私は自分を追い込むべきなんだよ。


「この体に眠る力を、すべて解放したとして。レックスには届かないさ」


 獣人の特徴なんて、ただ身体能力が高いだけだからな。体で魔力を生成できない以上、魔法を使える種族との差は大きい。厳然たる事実として、そこにあるものだ。


 だから、真っ当な努力を重ねるだけでは、限界が来てしまう。


「なら、自らの限界を超えるだけ。幸い、フィリスもそばに居るんだ。いくらでも、検証はできる」


 フィリスだって、獣人の体を調べることに意義を感じるはずだ。どうして魔法を使えないのか。その理由を深く理解できたのなら、魔法はさらなる段階へと進むかもしれないのだから。


 とにかく、言いくるめられるように。フィリスとは、お互い協力する関係だからな。今後も続けるというだけの話だ。


「フィリスならば、私の体が壊れようとも癒せる。そうだろう?」


 水の魔法だって、体を癒やす力は持っている。それを応用すれば、フィリスにならばできるだろう。これは、あいつを見てきたのなら分かることだ。


「レックスの魔法を見て成長したのは、フィリスも同じなのだから」


 レックスの発想を活かすために。闇魔法を、もっと高めるために。そのための過程として、自分の魔法を振り返る。とても、共感できる姿勢だ。


「お互い、もっと研鑽しようじゃないか。レックスのたどり着く先を見るために。尊敬できる存在で居るために」


 そして、お互いの願いを叶えようじゃないか。レックスの成長を見て、その先で。

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