24話 若さの追求
ウェスに銃を渡して、いざという時の備えができた。ということで、他の人に危険がないか、再確認することにした。『デスティニーブラッド』での事件で、なにか危ない目に合う人が居たかどうか。
根本的な問題として、カミラとメアリは原作中に事件を起こすから、それがなければ安全度合いは大きく上がると思う。まあ、そもそもブラック家が悪の家だと認識されているから、彼女達にも恨みはあるのだろうが。
「そういえば、母親の起こす事件を忘れていたな。放置しておけば、アリアやフィリスが危ないじゃないか」
エルフから血液を抜いて殺して、自分が浴びたというエピソード。俺の頭に、モニカ・エーデル・ブラックの名を刻み込んだ事件だ。レックスの母というだけの認識だったのが、全く別の印象に変わった。血を浴びるという点においては、似たような話は現実でもあった気はする。だが、作中ではエルフというのが特別感があったのだろうな。
「エルフの血を浴びれば、若返ることができる。オカルトとしか思えないが、当人は信じていたんだよな」
だから、永遠の美のためにエルフ達を殺した。原作で聞いた時は、やべえやつくらいで済ませていた。だが、知り合いが殺される可能性があるのなら、絶対に許せない。だから、何が何でも止めないと。
とはいえ、殺すという手段は取りたくない。それに、母を殺せば父に殺されるリスクだってある。だから、他の方法が良い。
「だったら、俺の手で母親を若返らせることができれば、事件を阻止できるんじゃないか?」
見た目を改善するだけでも、状況は良くなるだろう。エルフの血を抜こうとすれば、俺は魔法を使わないと脅す。そういう手も取れるはずだ。なら、試してみる価値はあるはずだ。
「闇の魔力は人体にも侵食できるし、ある程度は操作できる。いける気がする。早速、フィリスに相談してみるか」
ということで、早速フィリスの元へと向かう。やはり、魔法のことなら彼女に相談するに限るな。闇魔法は使えないが、確かに助けてくれる相手だ。魔法に詳しいという事実は、それだけ大きいのだろうな。俺も、勉強が大事になってくるはずだ。
「……驚嘆。面白い発想。あるいは、永遠の命だって実現できる可能性がある」
そんな事を言われて、驚いた。流石に、突飛が過ぎる。まあ、神がいる世界では、不可能ではないのか? だからといって、すぐに信じる気にはならないが。
「いくらなんでも、永遠の命は与太話だろう」
「……否定。確かに、可能性はゼロに近い。ただ、まだ検証していない」
やはり、ほとんどありえないとは思っているのだな。まあ、それはそうか。実現できる技術なら、原作で言及されていてもおかしくない。俺が知らない以上、少なくとも本編では言われていないはずだ。永遠の命なんて印象的な話、忘れるはずがないのだし。
「まあ、まずは美容の話だな。そこを実現できないことには、永遠の命になんてたどり着けないだろう」
「……同意。私で試してみると良い。レックスの好みに合わせれば良い」
肌の質感なんかは、俺の専門外なんだよな。好みといったって、フィリスは元々美人だし。まあ、俺なら危険なことはしないと信頼されているのは分かる。それは嬉しいよな。実際、ウェスに魔力を侵食させるための実験があったから、危険なラインは知っているからな。
それから、いくつかの魔法を試してみた。結果としては、肌を若返らせることには成功したと言って良いだろう。感覚としては、肌のおかしい部分を取り除く感じだ。水分を調整したりもした。後は、フィリスの肌を元に若い細胞のイメージも理解できた。エルフというのは、とんでもない生き物だと実感できたな。平気で百年以上生きているのに、若々しい肌をしているのだから。
「なるほどな。効能を明確にイメージするのが大事なのか。そうなると、肌の仕組みについて知りたくなるな」
「……同感。レックス、あなたの魔法は、とにかく知識に左右される。だから、私の方でも調べてみる」
なるほどな。物体に侵食する以上、その物質に詳しいかどうかで、必要な性質が分かるかどうかが変わる。その結果として、知識が魔法の出来を左右するのだろう。
「とはいえ、とりあえず肌のハリを増す事はできたな。実験は成功だ」
魔法が完成したので、さっそく母の元へと向かう。私室に居たので、すぐに呼びかけていく。
「母さん、いま空いてる?」
「レックスちゃん、どうかしましたの?」
楽しそうな笑顔でこちらを見るモニカ。俺の家族の中で唯一の金髪碧眼だから、印象が強い。縦ロールで、外見は年を考えれば異常に若い。俺を産んでいるとは思えないくらいだ。若さに執着しているだけのことはある。
髪の色を除けば、フェリシアに似た格好と口調だな。ヴァイオレット家と関係があったりするのだろうか。原作では、そこまで言及はされていなかった。ちょっと気になりはするが、聞くほどでもないか。というか、知っていて当然の知識なら聞けない。違和感を与えかねないからな。
「フィリスと練習して、美容に役立つ魔法を開発したんだ」
「まあまあ。早速かけてくださいます?」
「行くぞ。美容魔法!」
俺の魔力で、モニカの顔を包み込んでいく。そして、肌に侵食してから、若い細胞に近づけて、おかしい部分を取り除いて、水分を調整した。それらを終えたら、魔力を離していく。
「これで、終わりですの?」
「そうだね。鏡を見るなり、自分で触ってみるなり、確かめてよ」
「ふむふむ……まあ! これは……誰にでも自慢できますわ!」
とても喜んでいる様子で、成功したと確信できた。この魔法が、アリアやフィリスを初めとしたエルフ達を守ることにつながると信じよう。
「うまく行ったみたいで、良かったよ」
「顔だけではなく、全身にもかけてもらえるかしら?」
それは困るんだよな。視覚に頼っている部分もあるから、肌を直接見ないといけないんだ。つまり、とても面倒なことになる。
「見ないとうまくいかないし……流石にちょっと……」
「可愛い息子に見られるくらいのこと、大したことではありませんわ!」
そんな事を言いながら服を脱ぎ捨てていくモニカを見て、俺は脱力感を味わっていた。だが、ここまでくれば、やらないという訳にはいかないだろう。中途半端で止めれば、余計な恨みを買いかねない。
ということで、モニカの全身に施術を行った。血の繋がった母とはいえ、最近初めて会った美人だからな。少し変な気分になりそうだった。当然、我慢したのだが。
終えた頃には、よく分からない疲れが全身に襲いかかってきた。まあ、緊張していたのだろうな。
「終わったよ、母さん」
「これは、素晴らしいですわね。レックスちゃん、あなたは私の誇りですわ!」
そのままモニカは抱きついてくる。誰かに見られたら大変なことになるという思いと、単純にとんでもない格好の女に抱きつかれているというので、とても困ってしまった。
「ちょ、ちょっと……格好を考えてよ!」
「母と息子の交流でしてよ。何か問題がありまして?」
本気で不思議そうな顔をしたモニカを見て、げんなりしてしまった。エルフ達を救えそうじゃないのなら、徒労感でいっぱいだったよ。
「問題だらけだよ……」
「まあ、レックスちゃんも反抗期かしら。なら、仕方ありませんわね」
本当に残念そうに言う。だが、やっと解放されたので、余計な事を言う気にはなれなかった。
「とりあえず、喜んでもらえたみたいで良かったよ」
「これからも、また頼みますわね」
とりあえず、母の抱える大きな問題は解消できた。ということで、今度は兄や弟にも手を伸ばしていきたいところだ。平和な未来のために、努力を続けていこう。




