231話 とあるひらめき
とりあえず、1つ目の壁である、ネイビー家との問題は一通り解決した。フェリシアの支配下におかれることになり、権勢を拡大したと言える。
俺も、親戚であるチャコール家相手に同じことができれば良かったのかもしれない。誰も殺さずに済ませようとしても、難しいだけなのだから。少なくとも、相手が敵対するつもりの時は。
狙われているのが俺だからと、軽く見すぎていたよな。失敗すれば周囲に被害が出る。その事実を重んじるべきだった。
まあ、後悔しても仕方がない。今後に活かすことだけが、俺にできることだ。ということで、まずは目の前の問題を解決しないとな。
フェリシアに呼び出されて、いつもの部屋に向かう。いつも通りに、メアリとカミラもいる。つまり、また新しい敵がやってくるのだろう。
「さきほど、ペール家から書状が届きましたわ。ヴァイオレット家を所有する正当な権利は、ペール家にあると」
フェリシアは、凄絶な笑みを浮かべながら言う。もう、戦うことは決めているのだろう。というか、文面が戦う気満々だからな。変に戦いを回避しようとしても、余計な被害が増えるだけな気がする。
つまり、戦うしかないということだ。もっと前から備えられれば、話は違ったのかもしれないが。その頃は、俺もいっぱいいっぱいだったからな。協力するのは、難しかっただろう。
いずれにせよ、結果は変えられなかったのだろう。それなら、できるだけ前向きに考えるべきだな。被害を少なくする方法とか。
「つまり、舐められてるってわけね。なら、やるべきことは簡単じゃないの?」
カミラは、何度も床を踏み鳴らしている。これは、相当腹を立てているな。まあ、前回と同じようなことだろうからな。フェリシアを軽く見ているのは、間違いない。
つまり、属性が少ない人にできることなど限られていると思っているのだろう。そうでないとしても、フェリシアが舐められているのは間違いない。なら、会話で解決できるとは思えないな。相手は、無茶な要求をしてくるだろう。
「そうですわよね。わたくし達の流儀は、単純なものですわ。力を示す。それでいいでしょう」
たおやかに微笑んでいるが、その瞳の奥には炎が見える。フェリシアだって、舐められることは許せないのだろう。まあ、当然か。貴族が舐められていては、話にならない。単に個人をバカにする以上の問題が、そこにはあるんだ。
「メアリも、頑張るね! いっぱいやっつけて、お兄様に褒めてもらうの!」
メアリは、相変わらず天真爛漫といった様子だ。人を殺す話でなければ、もっと可愛かったのだが。
まあ、殺伐とした環境で過ごしていただろうからな。人格に歪みが出るのは、仕方ない部分もあるだろう。俺がやるべきことは、歪みが間違った方向に向かわないようにすることだ。きっと、歪みを正そうとするのは良くない。メアリを尊重するのなら。
「それはいいが、どんな敵なんだ? 情報があった方が、戦いやすいよな」
「少しばかり、厄介ですわね。集団で魔法を発動して、威力を高める部隊がいるのです」
魔法の相乗効果を狙うことなら、かつて俺も実行したな。王女姉妹と、7つの属性を組み合わせることで。だから、理論上は不可能ではないだろう。とはいえ、かなりの連携が必要なんじゃないか?
察するに、その部隊でしか実現できないのだろう。少数精鋭が普通だよな。
「それは、どの程度なんだ? フェリシアの火力で、対抗できそうか?」
「正面からでは、厳しそうですわね。レックスさんなら、問題ないでしょうが」
困ったように言う。なら、本当に難しいのだろう。つまり、正面から戦うのはリスクがあるよな。防御魔法だけに頼りすぎるのは、怖い。
おそらくは、十中八九は大丈夫だと思う。だが、残りの一か二を軽んじるわけにはいかない。これは殺し合いなんだから、慎重に動くべきだ。
「そこでリスクを取るのは、避けたいな。正面から戦う理由はないだろう」
「同感ね。バカ弟の言うように、別の戦術を考えましょ。例えば、首刈り戦術とか」
「だが、どうやって敵の頭を取る? 前回のように一騎打ちにはならないだろう」
「あたしが突っ込めば良くない? どうせ、見ることもできないでしょ」
「囲まれたら、面倒じゃないか? できることなら、もっと安全な策の方がありがたいな」
「はいはい。過保護なことで。他に案がなかったら、あたしが行くわよ」
カミラも、しっかり戦術を考えてくれている。やはり、ただ力だけで押し切るのが正しいとは思っていないようだ。そこらがしっかりしていると、話しやすいな。
過保護だ何だと言いつつも、俺が安全を重視する理由は理解してくれているからな。他に案がなかったらというセリフが、その証だ。つまり、代案を出せと言っているのだろう。
まあ、俺ひとりで考える必要はないよな。みんなにも、手伝ってもらおう。
「ああ。そこは仕方ない。どうだ? 何かあるか?」
「メアリは、みんなを吹き飛ばしちゃえばいいって思うな!」
正直、ただの力押しだと思う。でも、せっかく案を出してくれたんだからな。否定から入るのは、避けたい。メアリに、これからも意見を出してもらいたいからな。
カミラなら、俺が否定しても、理屈で正しいかどうかを判断してくれるだろう。メアリは、どうだろうな。今のところは、褒めを基本にしたい。
「そうだな。困った時には、それで頼むよ」
「わたくしは、レックスさんに頼ってもいいと思いますが。少なくとも、フィリスさんを超えるほどの魔法は、飛んでこないでしょうから」
フェリシアからは、確かな信頼を感じられる。だからこそ、うぬぼれたりできない。フェリシアの信頼にふさわしい俺で居るために。これから先も、みんなで生き延びるために。
「まあ、最悪の状況なら、俺がどうにかしたいところだ。だが、それと無策で挑むこととは違うだろう」
「そうね。ちゃんと準備をするのは、必要なことよ。実力が上の人間が、常に勝つんじゃないんだから」
カミラは、普通にやれば勝てる相手に殺されかけた経験があるからな。あの時は、徹底的に対策されていた。そのせいで、純粋な実力では下回る相手に負けそうになった。結局、俺が助けた。
だから、かつての経験も無駄じゃなかった。カミラが死ぬかもと思った瞬間は、苦しかったものだが。
「メアリも、四属性の人に負けたりするのかなあ?」
「その可能性は否定できない。だから、油断するなよ。お前がケガでもしたら、悲しいんだから」
「分かったの! できるだけ遠くから、攻撃するね!」
その言葉を聞いて、遠距離から魔法で狙い撃つイメージが浮かんだ。そこから、発想が広がっていく。
「遠くから……。メアリ、お手柄かもしれないぞ! これなら、うまくいくかもしれない!」
「よく分からないけど、ありがとう、お兄様!」
「それで、何が思いついたのよ? もったいぶるんじゃないわよ」
「いや、相手のいることだからな。確認してから、話をしようと思う」
「それでは、楽しみにしておきますわね。ダメでしたら、慰めてあげますわ」
さあ、まずは話をしてみないとな。うまくいきそうなら、手伝ってもらおう。そうすれば、きっと安全に勝てるはずだ。




