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物語の途中で殺される悪役貴族に転生したけど、善行に走ったら裏切り者として処刑されそう  作者: maricaみかん
7章 戦いの道

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230話 ハンナ・ウルリカ・グリーンの嘆き

 わたくしめは、レックス殿達がアストラ学園から離れてからの期間で、近衛騎士の試験に合格したのです。結果を聞いた時は、舞い上がりそうになりました。


 そして、近衛騎士として、先達たちに混ざって訓練を繰り返すこととなったのです。そこからでした。わたくしめの世界から、色が失われたのは。


 わたくしめより弱い人達に、強くなるコツを自慢気に語られるところから始まりました。わたくしめの力を見せると、精神がなっていないと言うのです。半笑いで、こちらの武器を隠したりしながら。


 それで、城内10週を命じられたりもしました。余裕でこなせば、不正をしたなどとなじられる。


 もはや、わたくしめの中から、尊敬という言葉も、憧れという言葉も、消え去っていたのです。所詮、くだらない人間の集団でしかない。そう、思い知らされたのですから。


 叙勲の日、記章を受け取りました。ですが、わたくしめには、ただの鉄くずとしか思えなかったのです。


「わたくしめは、近衛騎士となったのですね。ですが、嬉しくはありません」


 ひとりでため息をついても、何も変わりはしない。もういっそ、投げ出してしまいましょうか。そんな誘惑すらも、ありました。わたくしめにとっては、もはや何の価値もない立場でしたから。


 ミーア様やリーナ様を守りたいという思いは、確かにあります。ですが、それを達成するだけならば、近衛騎士でなくてもよいのではと。あるいは、秘書として。あるいは、荷物持ちとして。それらの形でも、実現できるのではないかと。


 そもそも、わたくしめ以外の騎士の実力では、とても守れるとは思えなかったのです。むしろ、ミーア様やリーナ様の足を引っ張るだけなのでは。そうとすら思いました。


 日々の任務を、真面目にこなしているかどうかすら怪しい。そんな人達に、何ができるというのでしょう。


 仮にわたくしめが反逆者となったとして、近衛騎士程度は打ち破れる。そう確信していました。


「憧れていた近衛騎士など、どこにもいなかった」


 拳を握るだけの力も、抜けてしまいます。体力としては、有り余っているのですが。なんというか、気力が無くなっているという表現が正しいでしょうか。


 目標を失って、その先には苦痛ばかりが待っていた。そんな今に、未来に、何を期待すれば良いのでしょう。


「なぜ、実力も人格も、褒められる人の方が少ないのですか……」


 わたくしめから見て、何も良いところがない。そんな人の方が、多いくらいなのです。もう、泣いてしまえれば楽ですね。ですが、泣きわめくのは、わたくしめの理想とする騎士ではありません。


 愚かですよね。現実を知ってなお、理想を捨て去れないのですから。かつてのあこがれを、今でも抱えているのですから。


 近衛騎士なんて、何の価値もない。そう思っているわたくしめが居るのに、立派な騎士でありたいと思っているわたくしめも居るのです。


「ミーア様やリーナ様を守るための人員が、これで良いのでしょうか」


 本当に、悩ましいです。頭を抱えたいくらいには。わたくしめは、ミーア様もリーナ様も大切に思っています。直接言葉にはできませんが、友達だとも。


 そんな人の周りに、とても愚かな人達がいる。嫌で嫌で仕方ありませんが、喚いても現実は変わらないのです。


 別の人だったらな。心から、そう思います。わたくしめには、尊敬できる人が多くいるのですから。


「ルースさんはもっと努力していた。フェリシアさんは誇り高かった。ミュスカさんは優しかった。他の皆さんだって」


 実力も、人格も、きっと近衛騎士の誰よりも優れている。そんな友達に、恵まれたのです。ですから、わたくしめだって、皆さんにふさわしい存在でいたい。そう思うのです。


 皆さん、努力を重ねています。才能を抱えています。人に優しくする心を、持ち合わせています。ですから、共に近衛騎士として戦えれば、どれほど素晴らしいでしょうか。転じて、今の近衛騎士はどれほど愚かなのでしょうか。


「あまつさえ、そんな方々を悪く言う。特に、レックス殿のことを。なんて、醜いのでしょう」


 自分が嗤っている相手が、どれほど王家の役に立っているか、考えたことはあるのでしょうか。特にレックス殿は。確かに、大きな失敗はしています。ですが、それ以上に功績の方が大きいではありませんか。


 何よりも、ミーア様とリーナ様が現在の関係になれたのは、レックス殿のおかげなのですから。それ以上に王家に貢献できた方は、どこに居るのでしょうね。鼻で笑ってしまいますよ。


「ミーア様は、今のままで良いのでしょうか。頼れる存在など、居ないではありませんか」


 少なくとも、近衛騎士の中には。あるいは、わたくしめは頼っていただけるのかもしれませんが。ですが、期待薄ですよね。


 わたくしめが同じ立場なら、王になどなりたくないと思うでしょう。それでも、前向きに頑張るミーア様もリーナ様も、素晴らしい方々です。


 ただ、わたくしめは苦しいのです。悲しいのです。苦さを感じるくらいに。寒さを感じるくらいに。


「わたくしめは、何のために努力を重ねてきたのでしょう。少なくとも、つまらない馴れ合いのためではないはずです」


 くだらない遊びを繰り返して、面白みもないことで笑う。そんな品のない行為をしたかったのではありません。わたくしめは、誰かを助けられる人になりたかったんです。輝ける人になりたかったんです。


 つい、うつむいてしまいます。何も変わらないと知っていても。わたくしめは、弱いですね。


「私の友達の方が、ずっとずっと尊敬できます。近衛騎士が、そんなことで……」


 皆さん、大切な誰かのために頑張れる人でした。それだけで、あの人達とは違う。つい、みんなで一緒に居た頃を、思い描いてしまいます。懐かしんでいるだけの行為に、意味などないと理解していても。


「称号だけにおぼれて、ただうぬぼれるだけの人達。わたくしめも、そのひとりでしかない」


 結局のところ、わたくしめだって同じ穴のムジナ。外から見れば、近衛騎士の一員でしかないのです。あの、くだらない人達の。思わず、下ばかり見てしまいます。それじゃダメなのに。


「内側から変えるのに、何年かかることでしょうか。そもそも、今の人員は必要なのでしょうか」


 わたくしめの力だけでは、きっと何も変えられません。誰かの手を借りても、遠いでしょう。それで、愚かな人達が横暴に振る舞うのを見ているだけ。そんな人生に、何の意味が。


「もういっそ、切り捨ててしまえれば楽なのですけれど」


 近衛騎士達を殺す自分を想像したら、つい笑顔になってしまいました。相当恨んでいると、自覚できたのです。ですが、まだです。ミーア様やリーナ様に、迷惑をかけたくないですから。


「わたくしめ達の理想は、ここにはない。なら、作り出すしかないのです。どんな手を使っても」


 守るべき人の力を借りてでも。この手を汚したとしても。わたくしめは、立ち止まりません。それでも、見ていてください。友達で居てください。


 お願いですよ、レックス殿。

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