179話 つながる約束
カミラの様子を確認することができたので、今度はミーアと話をしたい。今回の件については、一番話すことが多いだろう。
国王に報告する機会も、もちろんあるだろう。とはいえ、いま近くにいるのはミーアだからな。一応、リーナもいるとはいえ。とりあえずは、中心っぽいミーアと話をするのが、普通の流れなんじゃないだろうか。
ということで、ミーアの部屋に向かう。女子の部屋に自分から通うのはどうかとも思うのだが、必要なことだよな。
「ミーア、会いに来たぞ」
「よく来てくれたわね、レックス君! 歓迎するわよ!」
相変わらずの、花開くような笑顔だ。こっちまで明るい気分にさせられる。やはり、太陽のような印象のある人だよな。こちらを明るく照らしてくれそうというか。元気をもらえるというか。
原作を遊んでいた時から思っていたが、フレンドリーで接しやすい。自然と会話が弾む感じの人だと思えるよな。まあ、今までの俺と普通に会話ができるだけでも、かなりコミュニケーション能力が高い方ではあるのだろうが。それは、友達の多くにあてはまる。
ただ、ミュスカと並んで、親しみやすさはトップクラスだと思う。とにかく、こちらに話しやすい空気を作ってくれる人なんだ。
「ああ。昨日は悪かったな。あまり、良い対応をできなくて」
「レックス君が謝るなんて、珍しいわね。でも、良いことよ!」
ニコニコとしながら言われる。まあ、正しい。ありがとうとごめんなさいは、できるだけ言いたい言葉だ。貴族ともなると、立場があって難しい瞬間もあるのだろう。それでも、大事にしていきたいよな。
「そうだな。良いことだ。これからは、ちゃんと言うよ」
「ふふっ、いつものレックス君とは、ずいぶん違うわね。でも、悪い変化とは思えないの」
ここまで露骨だと、流石に気づかれるか。まあ、俺としても良い変化だと思いたい。少なくとも、言うべきことをちゃんと言う人でありたいものだ。
今までの俺は、皮肉屋というか、口が悪いというか、とにかく失礼な態度を取っていたからな。これからは、できるだけ真っ当な姿勢でいたい。
「俺も、良い変化にしたいものだ。まずはミーア。今までずっと、ありがとう。俺と友達になってくれて」
「そんなの、こっちがお礼を言うことよ! レックス君のおかげで、今が楽しいんだもの!」
「なら、良かった。お前が幸せで居てくれるなら、嬉しいよ」
「本当に、レックス君は変わったわね。もしかして、私のせいかしら?」
眉を下げて、悲しそうに言う。ここでミーアのせいじゃないと言って、素直に受け取る人ではないと思う。自分の責任から逃げない人だと感じているんだよな。
なら、どういう言い回しが正解だろうか。できるだけ、気に病まずに済むようにしたいが。
「否定はできないな。父さんが死んだことが、きっかけではあるから」
「ごめんなさい。レックス君が苦しむのなんて、分かっていたのにね」
深く深く、頭を下げられる。そんな事をしてほしい訳では無いが、必要な過程だとも思う。少なくとも、ミーアの心を整理する上では。俺は、彼女のせいだとは考えていないのだが。だって、父のせいなのだから。
そもそも、俺に依頼したのは国王だ。だからといって恨む気などないが。
「確かに、苦しみはした。だが、お前達との未来をつかめるのなら、十分だ」
俺の言葉を聞いて、ミーアの顔は途端に華やぐ。見ていて、とても癒やされる笑顔だ。今の顔が見られただけでも、本音を話した価値はあるよな。父を死なせたことには、見合わないと思うが。
まあ、仕方ない。終わったことを悔やむより、これからミーアの笑顔がもっと見られるように。そういう方向性で考えていこう。
「そう言ってくれるのなら、嬉しいわ! 私も、レックス君と一緒じゃない未来は、考えられないもの!」
「ありがとう。お前の言葉には、救われる思いだよ。父さんのせいで、ミーアは困っただろうにな」
「勘違いしないでね。レックス君との結婚が、嫌ってことじゃないのよ。むしろ、幸せだと思うわ」
それは、喜んで良いのだろうか。ただ、父の計画はミーアの想いを歪ませる形のものだった。だから、嫌だったのだろう。まあ、本気で恋愛感情を持たれているとは思わないが。
「だが、大勢を犠牲にした結果としてなんて、許せそうにない。それに、ミーアの意思を無視するのも」
「ありがとう、レックス君。それだけ、私のことを大切に思ってくれているのね」
「もちろんだ。お前は、とても大切な友達なんだから。命をかけても良いと思えるくらいには」
「私だって、同じ気持ちよ。レックス君のためなら、なんだってできるわ」
真剣な目で、こちらを見ている。だから、本音だと思う。それでも、命をかけさせたいとは思わない。できるだけ、危険からは遠ざかっていてほしい。まあ、この世界では難しいのだろうが。少なくとも今は。
だから、力を借りる場面もあるとは思う。それでも、今度こそ失わなくて済むように、力を尽くす。次は、魔法だけじゃなく、他の能力も鍛えて。
「リーナとも、同じような関係が作れれば良いな」
「ええ、そうね。リーナちゃんとも、カミラちゃんとも、メアリちゃんとも、他の人達とも」
「ああ。それが理想だよな。俺達みんなで過ごせれば、どれだけ幸福だろうか」
とはいえ、ブラック家にとって、王家は仇でもあるのだろう。カミラとメアリ、ジャンは俺の味方でいてくれるとは思うが。母は、どう思うのだろうな。
ただ、これ以上、親しい人同士が敵対する未来が来てほしくない。そのためにも、もっと踏み込む必要があるのかもしれない。いや、父が悪人だっただけか。俺がやるべきことは、みんなを疑うことじゃないはずだ。
そうだよな。みんなで幸せな未来をつかみ取れるように。それが、俺の目指すべき道で、努力すべき形だ。
「きっと、想像もできないくらいよ! 私だって、もっともっと頑張るわ!」
「なら、俺も努力を続けないとな。みんなの幸せのために」
「もちろん、レックス君も、よ。そうじゃなきゃ、何の意味もないわ」
どこか愛おしそうに見てくれている気がして、心が暖かくなる。俺も、ミーアの大切な人のひとりなのだろう。分かっていたつもりではあるが、より実感できた。
「そう言ってくれて助かる。これから先も、よろしくな」
「ええ。ずっと、仲良くしましょうね。どんな未来が、待っていたとしても」
そうだな。できるだけ、良い未来を目指したい。それでも、たとえ苦難の道であったとしても、ミーアと仲良くしていたい。それは、俺の本心でもある。
「ああ、そうだな。お前達さえ居れば、どんな未来でも平気だろうさ」
「これから先、もっとずっと仲良くなりましょうね。約束よ!」
その約束を守れるのなら、俺の人生にも価値があるのだろう。だから、何があったとしても破りたくないものだ。




