177話 ラナ・ペスカ・インディゴの責任
あたしは、レックス様のサポートをするために、インディゴ家の様子を見ることにしました。とはいえ、やることは決まっているんですが。レックス様の邪魔をする人間は、すべて排除します。
例えば、レックス様の評判を下げようとしたり。あるいは、計画を妨害しようとしたり。そんな事をするのなら、生きている価値なんて、ありません。
ですから、あたしがインディゴ家をどうするかは、ほとんど確定していると言ってよかったんです。
やってきたあたしを見て、兵はお父様を呼びに行きました。すぐに伝わったようで、駆け足でやってきます。
「久しぶりですね、お父様」
「ラナ……。ブラック家からは、解放されたのか?」
「自分で売っておいて、よく言えましたね。面の皮の厚さだけは、褒めて良いかもしれません」
そうですよね。あたしを売った。その事実をなかったことにしようとしても、無駄ですよ。いえ、恨みで行動するつもりはないのですが。あたしにとって大事なのは、レックス様のお役に立てるかどうかなんですから。
「何を言うのだ。インディゴ家に、他に道など無かった……」
「そうですか。まあ、興味ありません。それよりも、クロノの件について、話を聞きましょうか。どうして、レックス様の邪魔をさせたのか」
どうも、クロノが魔物を引き寄せる匂い袋や毒を入手したことには、インディゴ家の支えがあった様子なんですよね。そんな事をレックス様に知られてしまえば、あたしは嫌われるかもしれません。だから、どうあっても、レックス様に伝わる前に問題を解決する必要があるんです。
さて、どういう意図で実行されたんでしょうね。そして、誰が黒幕なんでしょうね。
「決まっているだろう。お前を取り戻すために……」
「なるほど。売りに出したものを、金も出さずに取り戻そうとする。貧乏貴族らしいやり口です」
「お前も、その家の娘だろう。どうして悪しざまに言うんだ。それよりも、どうしてクロノの件を知った?」
やはり、お父様が黒幕でしたか。そうなると、どう対処するのが正解でしょうね。いくらなんでも、殺してしまえばレックス様が損をするでしょう。どうにかして、レックス様が得をする形でまとめたいんです。
あたしにとっては、レックス様がすべて。もはや、インディゴ家なんてどうでもいい。それが真実なんですから。
「簡単ですよ。クロノとつながっていた人間を痛めつけたら、すぐに話してくれました」
水属性って、面白いですね。水を通して圧力をかけることが得意なんです。例えば、水で腕を包み込んで、一部は右側に、一部は左側に力をかけます。すると、簡単に骨が折れるんですよね。
そうするだけで、何でも言ってくれました。クロノとどこで知り合ったのか、誰から依頼されたのか、どうやってクロノを操ったのか、全部。
まあ、詳細はどうでもいいんです。大事なのは、インディゴ家がレックス様の妨害をしていた事実。だから、もう邪魔なんですよ。
「どうやって……? あいつは、三属性なんだぞ」
「ちょっと鍛えただけですよ。それよりも、レックス様の邪魔をしたことは、許せないんですよね」
レックス様に心配されたくて、毎日魔力を絞り尽くしていたことが功を奏しました。あたしは、とても強くなった。今なら、きっとレックス様の敵を殺せます。それって、とっても素晴らしいことですよね。
「なぜレックスをかばう。お前を人質にした家の息子なんだぞ!」
「どうでもいいじゃないですか。お父様には、関係のないことです」
「薄汚れたブラック家の息子に、ほだされでもしたというのか?」
レックス様に、薄汚れたと言う。そんな相手、本来なら生かしてはおけません。ただ、お父様のおかげでレックス様と出会えたことも事実ですから。その分の手心くらいは、加えてあげましょう。
それに、いくらなんでも、あたしが親殺しをしたとしたら、レックス様は悲しむでしょう。下手をしたら、嫌われてしまうかもしれません。だから、死なせない。それだけのことです。
「ふふっ、薄汚れた、ね。その家に頼り切りなインディゴ家は、何なのでしょうね。それよりも、レックス様を悪く言いましたね。これは、その罰ですよ」
お父様の顔を、水で包みこんであげます。息ができなくて、苦しそうですね。でも、レックス様はもっと苦しかったと思いますよ。クロノに、親しい人を傷つけられそうになって。だから、ちょうどいい罰ですよね。
「う……ぐっ……ああっ……」
「当主様! よくも……! かはっ……!」
傍に居た兵士も、ついでに巻き込んであげます。しっかりと、あたしのレックス様をバカにした罪を償ってもらわないと。
「ねえ、レックス様を侮辱したこと、謝ってくださいよ。じゃなきゃ、殺しますよ?」
とりあえず、口元だけは水から解放してあげます。今度は、首に水を巻き付けながら。逆らったらどうなるか、分かると思うんですよね。まあ、首を絞められるか、折られるか。どちらかを想像するでしょう。
「分かった……! 済まなかった。レックスを悪く言って……」
「レックス? 自分の立場が、分かっているんですか?」
「申し訳ありません……。レックス様に対する言葉、謝罪いたします……」
土下座までされたので、今回だけは許してあげます。次があったら、許さないかもしれないですけど。
「それで良いんですよ。さて、次をどうするかですね」
「当主様……! インディゴ家は、こんな形で終わるのか?」
「なるほど、良いことを聞いたかもしれません。そうですね。インディゴ家を捧げたら、レックス様は喜んでくれるでしょうか」
レックス様が喜んでくれるなら、それはとても素敵なこと。あたしの体も能力も、全部を捧げたい人なんですから。インディゴ家だって、きっと利用できるはずなんです。
「魔女め……! お前が娘であることは、私の恥だ!」
「なるほど、さっきのは軽かったんですね。なら、もう少し激しくしましょう」
今度は、水を押し固めたまま、お父様と兵士にぶつけていきます。実験したところ、木くらいなら折れたんです。だから、きっと痛いですよね。でも、必要なことですから。
インディゴ家は、レックス様に逆らってはいけないんです。そんなこと、絶対に許せない。だから、念入りに心を折っておかないと。二度と、レックス様を敵に回そうだなんて思えないように。
「ぐはっ、どうして私まで……。当主様の言葉ではないですか……」
「連帯責任、ですよ。私を売って得た平穏に、見合った対価でしょう?」
「ラナ……。なんて化け物が、生まれてしまったんだ……」
「レックス様。待っていてくださいね。ブラック家に、いえ、あなたに尽くせる人間を、確保しますから」
レックス様の笑顔を想像するだけで、あたしは震えてしまいました。体が火照って、息も荒くなります。そんな風にしたのは、レックス様なんですからね。
だから、責任を取って、あたしとずっと一緒に居てください。そうじゃなきゃ、あたしは何をするか分かりませんからね?




