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物語の途中で殺される悪役貴族に転生したけど、善行に走ったら裏切り者として処刑されそう  作者: maricaみかん
5章 選ぶべき道

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165話 やるべきこと

 父を殺す計画を実行する日が、確実に近づいているのを感じる。フェリシアやラナは、どこか忙しそうにしている。やはり、準備があるのだろう。


 そう考えると、もはや俺だけの問題ではない。いまさらではあるが。何度も考えていることではあるが、もう引き返せる段階は過ぎ去っている。


 父を殺すことに失敗すれば、多くの人に影響が出るだろう。それもおそらく、悪い方に。だから、やるしかない。


 ある種、外堀を埋められているような感覚もある。だが、周囲の動きは、少なくとも友達の動きは、当然の備えでしかないだろう。


 貴族の当主が急に死ぬ。その影響は、多岐にわたるだろうからな。俺には、想像するだけしかできないが。


 ということで、父を殺すための準備も、最終段階へと進んでいる。俺の方でも、必要なことがある。ジュリアに、闇の魔力を侵食させることだ。


 俺の転移は、闇の魔力を侵食させた物体でしか実行できない。ウェスや俺が転移できているから、人間も可能ではあるのだが。


 今回の計画では、ジュリアも見届けるからな。そのためには、ふたりで転移する必要があるんだ。


 ということで、ジュリアの部屋へと向かう。ドアを叩くと、すぐに反応があった。


「ジュリア、居るか? 今回の計画について、話がある」

「もちろんだよ、レックス様。どんな用事かな?」

「転移を利用して、ブラック家に移動する予定だろう。そのためには、俺の魔力をお前に侵食させる必要がある」

「もちろん、良いよ。レックス様なら、変なことはしないだろうからね。でも、良いの?」


 当たり前のように提案を受け入れられるあたり、信頼されていると思える。いくらなんでも、魔力を侵食するとなれば、悪用の手段なんて、いくらでもあるからな。それくらい、ジュリアにも想像はできるだろう。だが、気にしている様子はない。だから、変なことはできないよな。


 そして、ジュリアの問いかけは、おそらくは計画を進めることだろうな。自分の手で、父を殺す準備をする。それを気にしてくれているのだろう。


 正直に言えば、今でも気が重い。だからといって、立ち止まってしまえば、迷惑がかかる相手が多すぎるんだ。いま目の前にいる、ジュリアにだって。


 きっと、俺が逃げ出してしまえば、その責任の一端を背負わされるだろう。なら、どうすべきか。考えるまでもないはずだ。


「いまさらだ。もはや、何をしたところで未来は変わらん」

「やっぱり、嫌だよね? ねえ、今からでも、逃げ出さない?」


 ジュリアは、本気で俺を心配してくれているのだろうな。その気持ちは嬉しい。だが、だからこそ逃げられない。


 せっかく、ジュリアにも未来の希望が見えてきた頃だろうに。それを捨てさせてまで、俺のために行動させたくない。


 逃げ出してしまえば、最低でも王家を敵に回す。そしておそらくは、ブラック家も。なにせ、ジュリアには後ろ盾がないのだから。


 そこまで想像できていて、どうして逃げ出せるというのか。俺が嫌だというだけのことで。


「そんなこと、できるものか。だいたい、学校もどきはどうするんだよ。俺が居なくては、問題だろう」

「レックス様は、これまで頑張りすぎていたんだよ。ちょっとくらい、良いと思うよ」

「論外だな。与えられた責務を果たすからこそ、貴族は貴族でいられるんだ」

「ブラック家も、責務を果たしていたと言えるの?」

「さあな。だが、誰かが果たしていないからといって、俺がやるべきことは変わらん」


 間違いなく本音だ。誰かが遊んでいるからといって、俺は努力を放棄したりしない。それと同じことでしかないのだから。


 いや、少しはためらっているか。いくら責務でも、父を殺すのは嫌だ。だが、大勢を不幸にすると分かっている選択肢を取ることは、もっと嫌なんだ。


 せめて、少しでもマシな道を。そう考えると、父を殺すしかないはずなんだ。


「そんなレックス様のおかげで、僕達は助けられた。それは事実だよ。でも……」

「お前は、俺の心配をしている場合なのか? 俺の戦闘に巻き込まれたら、あるいは、父がお前を標的にしたら、どうなると思う?」


 ジュリアが犠牲になってしまえば、父を殺す意味が無くなってしまう。せめて、より好きな方を無事で済ませたい。そのために、殺すと決めたのだから。


 だから、俺の心配なんかで、心を乱してほしくない。ジュリアが生きていてこそ、未来に希望が持てるのだから。


「……そうだね。僕達は、勝たなきゃいけないんだ。その先にしか、未来はないから」

「なら、俺の魔力を受け入れろ。まずは、そこからだ」

「分かったよ、レックス様。来て……」


 ということで、魔力をジュリアに注ぎ込んでいく。人に魔力を送り込むのも、もう慣れたものだ。一応、ジュリアは無属性であるから、その影響がないかは気にしていた。だが、おかしなところはない。とりあえず、一安心だな。


「調子はどうだ? 問題ないか?」

「うん、大丈夫だよ。これで、転移ができるんだよね。レックス様は、すごいよね」

「当たり前だろう。俺は天才なんだからな」

「だからって、何でもこなす必要はないと思うけど」


 それは、以前に反省したことだ。だから、ジュリア達にも頼るつもりではある。まあ、今回言いたいことは、父を殺す計画についてなのだろうが。


 ただ、俺がやるべきことを、人に任せてしまうのは違う。俺が受けた依頼なんだから、責任を持って、俺が果たすべきなんだ。


 それに、ブラック家の事情にジュリアを巻き込めない。いや、今でも巻き込んでいる部分はあるのだが。それでも、負担は最小限に抑えたいんだ。


「分かっている。お前達だって、利用するつもりだ。それで良いだろう?」

「うん! レックス様のお役に立てるように、頑張るからね!」

「ああ。せいぜい励むが良い。俺の役に立てるように」

「そうだね。レックス様にもらったものを、ちゃんと返すからね」

「お前達にくれてやった程度のものを、返されてもな。大したものではないのだから」


 恩返しのために、ジュリアの人生を犠牲にされたら、何の意味もないのだから。学校もどきを作ったのは、確かに原作の事件に立ち向かう協力者が欲しかったからだ。だが、今は違う。ジュリア達には、絶対に幸せで居てほしい。それが、確かな気持ちなんだ。


 とはいえ、頼るべき部分では頼るつもりではあるが。俺を心配するジュリアの気持ちも、大切にするべきなのだから。


「ううん。これは、僕の気分の問題だから。絶対、受け取ってもらうよ」

「そうか。なら、好きにすれば良い」

「もちろんだよ。ねえ、レックス様。僕が代わりにやろうか? 口裏を合わせれば、それでいいでしょ?」


 俺の代わりに、父を殺す。そんなこと、させる訳にはいかない。父は、それなりに強い。だから、ジュリアが戦えば、相応の危険がある。


 そもそも、俺が嫌なことをジュリアに押し付けるのは論外だ。危険なことなら、なおさら。


 俺がためらってしまえば、ジュリアは代わろうとするだろう。だから、覚悟を決めなくては。迷っていたら、俺以外の誰かが傷つくんだ。そんなの、許せるはずがないだろう。


「これは、俺の問題だ。お前が手出しすべきことじゃない」

「レックス様が、そう言うなら……。でも、いつでも代わるからね」

「そんな機会はない。お前は、自分の心配でもしていろ」

「レックス様。僕は、あなたのためなら、何でもするよ。だから、いつでも頼ってね」


 そう言ってくれるジュリアのためにも、今回の計画は必ず実行する。何があってもだ。


 俺だって、ジュリアのためなら何でもできる。その想いを、確かな形にするために。

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