163話 当たり前の確認
カミラとは、これからも仲良くできると思えた。そうなると、残りの人達が気になる。フェリシアにしろ、ラナにしろ。ジュリアだって、大変な役割を任されたからな。
そのあたりの関係を見直しておくことは、俺の心情を考えても、実利を考えても、重要だろう。
あり得ないとは思うが、背中から刺されるのが最悪のパターンだからな。疑う訳では無いが、ちゃんと話し合っておくべきだ。
お互いの気持ちがどこに向かっているのか、確認し合うべきだと思う。俺にとっても必要だし、相手にとっても必要なはずだ。
俺が、望まないまま父を殺す流れに至ったように、フェリシア達にも、本人の意志を歪める何かがあるかもしれないのだし。その時に、力になれるように。だから本心を知っておきたい。
まずは、フェリシアの方からだな。ヴァイオレット家との関係がどうなるか。その時フェリシアがどう動くか。それを確認するためにも。
ということで、本人のもとへと向かう。ふたりで話せそうな場所ということで、俺の部屋に呼んだ。
「フェリシア。ヴァイオレット家は、どう動くと思う?」
「さあ? わたくしは、家の運営には関わっておりませんから」
表情を見る限りでは、本気で知らないのだと思う。まあ、フェリシアなら、俺に感情を読ませないくらいは簡単だろうが。
それでも、言葉には納得できる。俺もフェリシアも、まだ子どもと言っていい年齢なのだから。家の運営は、関わったとしても手伝い程度だろう。
少なくとも、ヴァイオレット家の動向を左右するレベルのことは、フェリシアにはできない。まあ、当然のことだ。
ただ、確認することは大事だからな。必要な話だった。
「確かにな。俺も、ブラック家の動きを説明しろと言われても、できないからな」
「ただ、わたくし達にふさわしい流儀がありますわ。力を示す。それだけのこと」
確かに、重要なことだ。ブラック家やヴァイオレット家が権勢を振るえているのも、力あってのことなのだから。特に、単純な魔法の力は、とても大きい。
もちろん、人を抱えていることも大事ではあるのだが。それでも、領民が従う理由の大半は、逆らっても死ぬだけだからだろう。ハッキリ言って、民を虐げる領主なのだから。
だからこそ、力で上回ることができたならば、大きな影響があるだろう。まるでゴロツキのやり口だが、まあ、ブラック家やヴァイオレット家は、ヤクザみたいなものか。なら、納得だ。
「フェリシアなら、大抵の人間には勝てるだろうな。それこそ、並の三属性なんて、相手にもならないだろう」
「そうですわね。ですから、わたくしの力で押し通すことも、それほど難しくはないでしょうね」
「なるほどな。だが、気をつけろよ。ブラック家は、暗殺という手段も使っていた」
だからこそ、ブラック家に逆らえなかったのだから。俺が殺される可能性もあったし、大切な誰かに魔の手が及ぶ危険性もあった。
今では、ある程度の対策はできているのだが。それでも、脅威ではある。
「ふふっ。問題ありませんわよ。レックスさんが対策しているように、わたくしも対策していますもの」
「どんな対策かは、聞かないでおくか。どこで聞かれているか、分かったものじゃないからな」
フェリシア自身が何かしていることもあるし、俺の贈ったアクセサリーもある。それなら、大抵の状況は乗り切れるだろう。
なにせ、フェリシアはとても強いのだから。それだけで、取れる手段の幅は広がる。単純な話だ。
「そうですわね。ただ、レックスさんは安心してくださいな。これからも、わたくしはあなたのパートナー。それだけのことですわ」
穏やかな顔で告げるフェリシア。きっと、本心だと思う。だから、今の言葉が聞けただけで、話をした意味があるな。
俺とフェリシアの関係が壊れることは、とても恐ろしいのだから。本人の意志が確認できただけで、とても大きい。
フェリシアの意思を無視させる状況があるのなら、手助けする。そして、本人の意志を貫いてもらう。その覚悟ができた。
「好きにすればいいさ。俺だって、好きなようにするだけだ」
「そうですわね。レックスさんの力があれば、大抵の意思は押し通せるでしょう」
「だからといって、敵を増やしても得はしないからな。なんでもかんでもは、難しいだろう」
「ふふっ、お優しいこと。ですが、嫌いではありませんわ」
「それで? お前は、どんな意思を押し通すつもりなんだ?」
「秘密、ですわよ。ただ、レックスさんに悪いようにはなりませんわ」
いたずらっぽく微笑むフェリシアを見ていると、安心できる。きっと、これからも同じだろうと思えて。これからも、振り回されはするだろう。それも含めて、大事な関係なのだから。
「そうか。お前らしいことだ」
「わたくしのことは、よく知っていると。口説き文句かなにかでして? 誰にでも、言うのでしょうけれど」
やはり、からかってくる。だが、そんな交流こそが、俺の守りたいものなのだから。フェリシアと、これからも仲良く過ごす。それこそが、俺の望みだ。
「そんな訳ないだろう……。やはり、お前は変わらないな」
「ふふっ、見えないところで、変化しているかもしれませんわよ?」
「そうかもな。だが、誰しも同じことだ」
「可愛らしいこと。わたくしの心が、気になりますか?」
まあ、気にならないと言ったらウソになる。フェリシアが敵になってしまうのならば、俺は絶望するだろう。それは、おそらく間違いのない事実なのだから。
ただ、フェリシア自身は俺の味方で居てくれようとしている。それが、ありがたい。本人の言うように、大切なパートナーだよな。
「人並みにはな。一応、幼馴染なんだから」
「そうですわね。これからも変わらないことの、ひとつですわ」
これからも、幼馴染としての関係は壊れない。そう言ってくれているのだろう。フェリシアの言葉だから、嬉しい。今までずっと、俺を支えてくれた相手なのだから。
だからこそ、俺も恩返しをしないとな。フェリシアに困ったことがあれば、絶対に力になる。あらためて、誓おう。
「ああ、そうだな。悪くない」
「ですから、レックスさんは、好きにすればよいのですわ。わたくし達の流儀に従うも、捨て去るも」
できることならば、力に頼らない道を探す。その上で、必要ならば力を振るう。それが、俺のやるべきことだ。
この世界には、暴力に訴えかける人間は、いくらでもいる。だからこそ、そんな人間から、大切な誰かを守れるように。俺が力を求める、何よりの理由なんだ。
「ああ。そうさせてもらう。俺の願いを、叶えるためにも」
「わたくしは、どこまでも強くなりますわ。あなたに、置いていかれたくありませんもの」
俺を大切な人だと思ってくれていると、強く伝わる。だからこそ、俺も裏切りたくない。もし今回の事件で、ヴァイオレット家に良くない影響が起こったのなら、そのときは絶対に助ける。
うん。俺のやるべきことは、単純なことだ。大切な誰かの力になる。それだけなんだよな。
「そうか。お前なら、不可能ではないのだろうな」
「当然ですわよ。わたくしが最強であると、この身で示すだけ。単純なことですわ」
そう言って笑うフェリシアは、とても頼りになりそうだと思えた。




