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物語の途中で殺される悪役貴族に転生したけど、善行に走ったら裏切り者として処刑されそう  作者: maricaみかん
5章 選ぶべき道

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157話 固まった意志

 いつも通りに授業を受けていても、どうにも気が乗らない。理由は明らかだから、対策を取るべきではあるのだろうが。ただ、結局は俺が心の整理をつけるしかない。


 自分を納得させるために、何が必要なのだろうか。間違いなく、カミラ達が無事で済むように動くことは重要ではあるが。


 父を殺すことですら、手が止まるんだ。カミラ達が死ぬようなことになれば、俺は終わりだろう。だから、どうあっても助ける必要はある。


 とはいえ、ミーアに頼み込む以外の手段が思いつかない。俺の発想の狭さには、あきれる限りだ。何か、自分でも手を打つべきだろうに。


 ただ、行動することを目的にして、余計なことをする訳にはいかない。人の命がかかっているときだからこそ、軽率な行動は避けるべきだ。


 考えることが多いな。どうにも、難しい。そんな風に悩みながら授業を終え、放課後。セルフィが近くにやってきていた。会いに来たのか、偶然なのか。いずれにせよ、心配をかけそうで怖いな。


「レックス君、こんにちは。……ねえ、私の部屋に、来てくれるかな?」


 最初は笑顔だったが、すぐに顔色が変わった。明らかに不安そうだ。つまり、俺の状態は気づかれているのだろう。


 気持ちは嬉しいが、あまり巻き込みたくはないんだよな。いや、相談くらいはするべきか?


 いくらなんでも、セルフィに話したからといって、彼女が参加するという事態にはならないだろう。


「何のつもりだ? 急に部屋に誘うとは、色気づきでもしたか?」

「レックス君。今の君は、自分で思っているより、ひどい顔をしているよ」


 まあ、そうだろうな。自分でも、状態は悪いとは思っている。父を殺すための踏ん切りがつかないからな。どうしても、ためらってしまう。


 分かっているんだ。未来のためを思えば、父を殺すのが正しいとは。それでも、一緒に過ごしてきた時間があるんだ。情けないのも、理解しているつもりだ。


 だが、感情を隠しきれていないのなら、良くないよな。これから先、俺は貴族として生きていかなければならないのだから。


 それに、セルフィに心配をかけてしまっている。やはり、良い人なんだよな。だからこそ、安心させてやりたい。そうなると、話すしかないか。


「知ったような口を利くものだな。まあ良い。そこまで言うのなら、好きにすればいいさ」

「もちろんだよ。とてもじゃないけど、放っておけないからね」


 ということで、セルフィに着いていって、部屋に入る。どことなく殺風景で、趣味らしきものも感じ取れない。この人は、何を楽しみに生きているのだろうか。そんな疑問すら浮かぶくらいだ。


 セルフィの方を見ると、少し恥ずかしそうにしているように見える。まあ、自室を見られるのは恥ずかしいよな。分かる気がする。


 もしかしたら、飾りっ気のない部屋の様子を意識しているのかもしれないが。ただ、部屋がどうなっているかで、セルフィの評価は変わらないよな。ゴミ屋敷ならともかく。だから、気にする必要はないと思うが。


「あまり良い部屋でもないけど、ゆっくりしていってね」

「まったく。誘われたのだから来たというのに」

「ごめんね。でも、ちょっと見ていられなかったから」


 そこまで言われるほどか。やはり、隠しきれていないどころか、顔色が悪くなっているレベルなのだろう。仕方ないとは思うのだが、もう少しくらい演じられないものだろうか。


「お前が心配するようなことではない。これは、俺の問題だ」

「ううん。きっと、吐き出すだけでも違うから。絶対に黙っているし、君が望むのなら何をしても良い。だから、話してくれないかな?」


 固い決意が見えてくる。つまり、本気で俺を心配してくれているのだろう。だから、ここで話すのが正解だよな。


 いくらなんでも、セルフィが情報を漏らす人とは思えない。そんな人なら、誰かに相談されることは難しいだろう。原作でも、慕われていた描写のある人だ。


 それに何より、これまでずっと、俺を支えてくれようとしていた。だから、信じて良いはずだ。


 というか、セルフィからブラック家に情報が流れることはないだろう。あの家は、多くの人が嫌っているのだから。


「そこまで言うのなら、仕方ないな。話してやるさ」

「ありがとう。さあ、どこからでも良いよ」

「お前が礼を言うことじゃないだろうに。変わったやつだ」

「ふふっ、そうかもね。でも、君の力になれるのなら、変わっていても良いよ」


 気持ちは嬉しいが、なぜここまで心配というか、力になろうとされるのだろう。俺より困っている人も、探せば見つかると思うが。


 まあ、困っている人なら誰でも良いわけではないのだろう。実際、悪人が危険な目に合っていたとして、俺は助けたいとは思わない。だから、セルフィにも好き嫌いがあるのだろうな。


 その仮説だと、俺は好意的に見られているという話になってしまうのだが。自意識過剰か? ただ、これまでずっと手を差し伸べてくれていたのは事実。そこは、疑う理由はない。


「さて、どこから話したものか。結論からにするか。俺は、父を殺せと依頼されてな」

「そんなの、断っちゃえば……、いや、断れない相手なんだね?」

「ああ。王家からの依頼だ。正確には、国王からと言えば良いか」

「それで、悩んでいたんだね。確かに、ブラック家の当主は評判が悪いよね。でも、そんなに悪人なの?」

「少なくとも、王家の秘宝を盗んで、それに生贄を捧げているらしいな」

「本当なの? 嘘の情報で、君を騙そうとしていたりしない?」


 確かに、あり得る話ではある。セルフィが疑う理由は、分かる。ただ、国王がミーアまで巻き込んだウソを付く気はしない。いくらなんでも、そこまでミーアを利用できないはずだ。親としての情も、あるはずなのだから。


 それに、父が何かを企んでいたのは間違いのないこと。だから、正しいはずだ。いまさら、疑いたくない。


「状況を考えれば、辻褄は合う。それに、あの父のやりそうなことだ」

「それでも、自分のお父さんを殺すんだものね。嫌に決まっているよね」

「……」

「何も言わなくてもいいよ。それなら、私が代わりに戦おうか? それなら、少なくとも自分の手で殺さなくて済むよ」


 目を見れば、本気だと分かる。だが、ダメだ。セルフィを危険に巻き込む訳にはいかない。そうか。俺がためらってしまえば、他の誰かが父と戦うんだよな。そして、それは俺の親しい人である可能性もある。


 だったら、俺も嫌なことを、誰かに押し付けることになる。そんなの、自分で自分が許せない。


 なら、俺がやるしかないじゃないか。仕方ない。俺の優先すべきことは、親しい人なのだから。セルフィでなくても、ミーアやリーナ、あるいはフィリスを巻き込む可能性はあるのだから。


「やめろ。これは、俺の問題なんだ」

「でも、大丈夫?」

「気にするな。どうせ、生き延びるためには必要なことだ」

「分かったよ。その目を見る限りは、決意は硬いみたいだから」

「そうだ。だから、余計な手出しをするな」

「ごめんね。私が余計なことを言っちゃったよね」


 俺がセルフィの言葉で父を殺すと決めたこと、気づかれたのだろうか。いや、どうせ俺がやるべきことだったんだ。


 つまり、セルフィのせいじゃない。悪いのは、ろくでもない計画を実行しようとしている父なのだから。


「お前が気にすることじゃない。どうせ、俺がやるべきことだった」

「なら、私は応援するよ。君が勝って、無事に帰ってくるように」

「好きにしろ。何をしようと、お前の勝手だ」

「もちろんだよ。ねえ、レックス君。私は、いつまでも君の味方だからね。それだけは、信じてほしいんだ」


 もちろん、信じるつもりだ。俺の誓いを、偽物にするつもりはない。最後まで、親しい相手を信じ抜く。それは、貫き通してみせる。


 だから、これからもよろしくな。父を殺しても、関係は変わらない。そう思いたいものだ。


 まずは、ミーアに伝えないとな。俺の覚悟を。同時に、カミラ達を助ける手段も探していこう。

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