154話 見えていなかったこと
王から依頼を受けて、しばらくは悩んでも良いと言われた。ということで、いったんアストラ学園に戻ってきていた。
相談できる相手は、そう多くはない。というか、知り合い自体が少ない。とはいえ、誰に話をするかは、とても重要になるだろう。
ミーアやリーナでも良いと言われたが、少しな。ダメと言うつもりなどない。ただ、お互いの立場の問題があるというだけで。
王女姉妹は、結局は王家の側の人間だ。だから、相談したところで、言える答えは決まってしまう。ふたりの本心がどうであれ。
まあ、ブラック家に味方してほしいと思う人間が居たとして、それは家族くらいじゃないか? いや、フェリシアも可能性はあるか。だが、それくらいだろう。
できれば、中立の立場の意見がほしいところだが。いや、どちらが正しいかなんて、分かり切っているのだが。ただ、第三者の立場から、確認したい。
その立場にいるのは、ミルラか? 他にも、ブラック家に関係のある人間の意見も聞きたい。なら、アリアもちょうど良さそうだな。
よし、決めた。まずは、ふたりの意見を聞いてみるか。ウェスは、どうだろうな。正直に言って、ブラック家は嫌いだろうと思うが。
どうしても聞きたがるのなら、ウェスにも質問する。それくらいでいいか。わざわざ質問するのも、嫌な過去を思い出させるだけになりそうだし。
ということで、ふたりを探す。とはいえ、簡単に見つかるのだが。俺の部屋に居る時間が長いふたりだからな。
「アリア、ミルラ、居るか? 少し、話がしたいんだが」
「何のご用でしょうか? レックス様が望むのであれば、時間を作りますね」
「レックス様が必要とされるのなら、いつでもお求めいただければと。全身全霊をもって、役割を果たす所存でございます」
「じゃあ、わたしは別の部屋に行っていますねっ。ご主人さま、ごゆっくり」
ウェスには、少し気を使わせてしまったかもな。だが、仕方のないことだ。あまり重い話をしたい相手でもない。アリアやミルラと比べたら、明確に幼いのだし。
「ウェスさんには話せないことなんですか?」
「関係なくはないのだが、今はふたりの意見を優先して聞きたくてな」
「かしこまりました。では、ご期待に添えればと存じます」
「後で伝えても、問題ないですか?」
「多くに触れ回らないのなら、好きにしろ」
まあ、仲間はずれだと思われても困るからな。気になるのなら、伝えても構わないだろうとは思う。俺の感覚としては、ウェスに父を殺せとも、殺すことを諦めろとも言わせたくはない。それだけなのだから。
単純なことだったな。ウェスは、俺にとっては穏やかな日常の象徴なんだ。だから、戦いの話をしたくない。言語化してみると、情けない気もするが。まあいい。
「では、お聞きしましょう。レックス様、何があったのですか?」
「端的に言えば、父を殺せと国王に依頼されてな。どうするべきか、お前達の意見を聞きたい」
「ああ、ウェスさんに聞いたら、自分の意志を隠してしまいかねませんね」
「同感にございます。本音のところでは、ブラック家を恨んでいらっしゃるでしょうから」
「ただ、ウェスさんにも、後で伝えた方が良いでしょうね。できれば、レックス様の口から」
やはり、隠し事をされたと思わせない方が良いのだろう。そのあたりは、同性であるふたりの判断の方が、正しいだろうな。
ウェスの心に寄り添うつもりではあるのだが、一方的な気遣いでは問題なのだから。相手が喜んで、初めて意味を持つことだよな。
「では、まずは私の意見を言わせていただきますと、カミラ様やメアリ様、ジャン様については、どうされるおつもりなのでしょうか」
「俺としては、殺すつもりはない。だが、王家の判断を聞きそこねたな」
「それでは、まずは確認からでしょうか。ミーア様に、お確かめいただければと」
やはり、ミルラは視点が鋭いな。俺は自分のことばかりで、カミラ達のことを考えていなかった。そうだよな。国王は、俺にブラック家の罪を着せないようにと言っていた。なら、カミラ達はどうなるのか。そこを知らないことには、始まらないだろう。
父は、仕方ないと思う。母も、まだ納得できる。だが、カミラやメアリ、ジャンについては、悪いことはしていないはずなのだから。彼女達が犠牲になるのは、許容できない。
「確かにな。そこが問題になるのなら、判断は変わるだろう」
「大切なご兄弟ですからね。では、次は私が。とはいえ、大した意見ではありません。私は、ブラック家ではなく、レックス様を優先します」
長年仕えたブラック家よりも、俺個人を優先する。その言葉は、とてもありがたい。いつかは、しっかりとした礼を言いたいものだ。
「そうか。好きにすると良い」
「おそらくは、ウェスさんも同じ判断をすると思います。ですから、私達のことはお気になさらず」
これは、ブラック家を裏切ってもいいという言葉なのだろうな。背中を押してくれていると、考えていいだろう。
アリアから見ても、ブラック家には問題があるのだろうな。そうでもなければ、今の言葉は出てこないはずだ。やはり、ブラック家が変わらなければ、多くの人が不幸になるのだろう。
「私も、もちろんレックス様にお仕えさせていただきます。雑事はお任せいただければと」
「ああ。お前達の忠義は、理解しているつもりだ。いまさら、疑ったりなどしない」
「感謝いたします。今後とも、粉骨砕身させていただきます。すべては、レックス様のお望みのままに」
「そう言葉にしてもらえると、嬉しいですね。ウェスちゃんにも、言ってあげてください」
そうだよな。いくらひねくれた言葉でも、感謝や信頼を伝えられたら、嬉しいはずだ。俺が嫌いなら、話は別だろうが。少なくとも、ウェスからは好意を感じているのだから。なら、できるだけ言葉にするべき。当たり前のことだ。
「気が向いたらな。さて、方針は単純だな。カミラ達を、どう巻き込まないか。そこが中心になるだろう」
「私の方でも、調査を進めさせていただきます。不穏な動きがあれば、順次報告いたします」
「レックス様にとってより良い決断になるよう、支えていきますからね」
カミラやメアリ、ジャンを救うための行動は、絶対に必要になる。俺がどの道を選ぶとしても。なら、そこを固めるのは当然のことだ。
そうだな。どうやってカミラ達を助けるのか。ちゃんと、考えなくてはな。ミーアに答えを伝える時には、しっかりと確かめないと。




