147話 始まりの誘い
みんなをどう信じれば良いか、俺の中で形が定まったと思う。だから、後はまっすぐに進むだけだ。
俺は万能じゃない。当たり前の事実だ。同様に、みんなだって。だからこそ、手を取り合って、協力して、ひとりではできないことをする。それだけの話なんだ。単純な答えに気づくまでに、ずいぶんと遠回りをしてしまったよな。
だけど、それで良いんだ。俺も未熟で、みんなも未熟。そうじゃなきゃ、一緒にいる意味がないんだから。お互いに足りないものを補い合うからこそ、理想の関係と言えるんだ。
そう理解できた以上、しっかりと頼るべき部分は頼らないとな。みんなだって、望んでくれると思う。俺が力を借りたいと言えば、笑顔で受け入れてくれるはずだ。
当然、俺だって。助けを求められれば、できる限りのことをしよう。それこそが、みんなで生きる未来につながるはずなんだ。
今まで悩んでいたことが、バカらしく思うときもある。だが、必要なことだったはずだ。俺ひとりで進もうとする愚かさを、心に刻めたのだから。
そう思うと、みんなの顔を見たくなるよな。まあ、毎日の授業で会ってはいるのだが。
新しい心地で、いつも通りに授業を受け、放課後。自室に向かおうとすると、後ろから声が飛んできた。
「あっ、レックス君! 居た居た、話を聞いてくれないかしら!」
「こんにちは、レックスさん。姉さんに付き合わされて面倒だと思いますが、我慢してくださいね」
王女姉妹は、仲が良いのか悪いのか。どうも、リーナの方はミーアを雑に扱っているように見える。ただ、信頼あってのものなのだろうな。ミーアは、簡単にはリーナを嫌わないという。
実際、ミーアは笑顔だからな。リーナも、不機嫌そうではない。言葉は刺々しいが、心から不満ではないのだろう。
「もう、ひどいわ! でも、そんなリーナちゃんも可愛いわよ!」
「これですからね……厄介な人ですよ。大事な姉だとは、思っていますけれどね。でも、疲れます」
本気で呆れている様子だ。まあ、疲れるのは、少し分かってしまうのだが。ミーアの高いテンションに付き合い続けていれば、それは大変だろう。
せっかく仲を取り持ったのだから、うまくやっているようで何よりではあるが。本気で嫌いな相手なら、むしろ嫌悪感を隠すのがリーナだろうからな。
「やっぱり、リーナちゃんも私が大好きなのね! 私も、リーナちゃんが大好きよ!」
「それで、本題は何なんだ? 与太話を聞かされる身にもなれ」
2人の仲の良さが伝わるだけでも、悪くないとは思う。ただ、要件があって話しかけてきたのだろうからな。それを忘れてしまっては、困るだろう。
「あっ、忘れてたわ! 大事な話なのよ!」
「私達とレックスさんの、今後にも関わりますからね」
それは重要そうだ。俺達の未来に関わるのなら、王家の関係か? 内容は、特に思いつかないが。
「ふむ。それで、どんな内容なんだ?」
「そんなに難しい話じゃないわ! 王宮でパーティをする予定だから、レックス君もこない?」
「ルースさんやハンナさんも参加する、気軽なものです。気が向けば、どうぞ」
王宮って時点で、2人が思うほど気楽ではなさそうだが。まあ、良いと思う。せっかく誘ってくれたんだから、前向きに考えたいよな。
というか、俺にとって重要な予定は、今のところはない。だったら、答えは決まったようなものか。王家との関係だって、大事だろうからな。
「分かった。なら、参加してやろうじゃないか」
「ありがとう! 嬉しいわ、レックス君! 当日は、一緒に楽しみましょうね!」
「……レックスさんが参加するのなら、私も楽しめそうですね。期待していますよ」
リーナの声に、どこか暗さを感じた気がする。気のせいだろうか。わざわざ誘ったくらいなのだから、参加してほしくない訳ではないはず。
2人の立場なら、俺が邪魔なら無視すればいいだけだろうし。というか、ミュスカやフェリシア、ラナは誘われていないのだから。俺が不自然に思うことはないだろう。
流石に、知り合いみんなが参加していて、俺だけ誘われていなければ、違和感くらいは持っただろうが。いや、相当焦ったかもしれない。
まあ、仮定の話はどうでもいい。リーナだって、困っているはずないだろう。
「もう、つまらなそうな顔をしないで、リーナちゃん! せっかくの、祝いの日なのよ!」
「姉さんの言動には、ついていけませんね。だから、うんざりしているだけですよ」
「そんな! こんなにリーナちゃんが大好きなのに! レックス君は、違うわよね?」
いつものノリに戻った。やはり、錯覚だったのだろうな。いや、ミーアもつまらなそうな顔だと言っている。とはいえ、本人が言いたがらないことを、無理に明かしてもな。
「騒々しいとは思っているが、それがミーアだろう。諦めることだ」
「ありのままの私を、受け入れてくれるってことよね! ねえ、聞いた!? こんなの、プロポーズよね!?」
好意的に解釈してもらえるのは助かるのだが、だからといってプロポーズはないだろう。どんな解釈だよ。
まあ、沈んだ空気を明るくしようとしてくれているのだろうが。ミーアの優しさが伝わってくる言葉だとは思う。
「どう聞いても違いますけど。そんなプロポーズをされたら、結婚はお断りですよ」
「いくら俺でも、そんなバカなプロポーズはしないんだが」
「もう、ひどいわ! なら、私はただ鬱陶しいだけってことじゃない!」
「そっちに転ばれると、それはそれで面倒ですね……。レックスさんは、姉さんのことが大好きですよ。もちろん、私のことも」
その通りではあるので、良いのだが。人に言葉にされると、とても恥ずかしい。演技を続けなくてはいけないから、反応はできないが。
「ずいぶんと自信満々なことだ。陰気だった前に比べれば、マシだとは思うがな」
「リーナちゃんは、確かに魅力的になったわよね! 分かってくれて、嬉しいわ!」
俺のあまり良くない言い回しを、前向きに捉えてくれるミーアの存在には、相当助けられている。だから、今回のパーティで達成してほしい役割があるのなら、叶えるだけだ。
「も、もう。レックスさんは、普通の言葉を言っているだけですよ」
「そんなことないわ! レックス君は、私達を見ていてくれるもの!」
俺に対して期待してくれるのなら、それに応えたいよな。まずは、誘われたパーティでしっかりする。そこからだろうな。
王宮で開催されるようなパーティに求められる礼儀作法を形にできるのか、心配ではあるが。
「まったく、この調子でパーティなんて務まるのか? 不安だぞ、俺は」
「姉さんは、やる時はやる人ですよ。安心してください」
「もう、ひどいわ! いつもはダメダメみたいじゃない! でも、楽しみにしていてね、レックス君!」
着飾るみんなを見るのも、楽しみにしておくか。いつもと違う顔を見られるだろうし。
難しいこともあるかもしれないが、頑張っていこう。




