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物語の途中で殺される悪役貴族に転生したけど、善行に走ったら裏切り者として処刑されそう  作者: maricaみかん
4章 信じ続ける誓い

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138話 ウェスの決意

 ご主人さまのメイドになってから、わたしはずっと幸せだったと思います。いつか、慣れてしまって幸福を忘れるんじゃないかって、少し不安でしたけど。


 でも、そんなことはなかった。ご主人さまと一緒にいるだけで、胸がポカポカするんです。新しい一面を見るたびに、笑顔になれるんです。


 例えば、ご主人さまは、お魚料理が特に好きです。明らかに、反応が違いますから。他の料理を食べている時は、落ち着いて食べています。表情も、あまり変わりません。


 だけど、お魚を食べている時は、何度もうなずきますし、口元がゆるむ瞬間もあるんです。そんな顔を見て、なんだか可愛いなって。


 いつもは、カッコいいと思います。顔も素敵ですし、真剣な顔には、つい見とれそうになる時もあります。そんなご主人さまにも、愛らしいと思えることがある。その差に、癒やされると言えば良いんでしょうか。


 頼りになる場面も、甘やかしたくなる場面もあります。色んな感情を刺激されて、毎日、飽きません。


「わたしは、ご主人さまに見つけてもらえてよかったですっ」


 ブラック家で生きることを、恨んだこともありました。獣人という生まれを、嘆いたこともありました。


 だけど、今は良かったと思えます。おかげで、ご主人さまに出会えたんですから。それまでの苦しみだって無意味じゃなかった。そう、信じられるんです。


「ずっと大切にしてくれるし、いっぱい褒めてくれますしっ」


 ご主人さまと同じ食卓で、同じ料理を食べて良い。そんなの、他ではありえないって思います。別にすべてを知っている訳ではありませんけど。


 それに、わたし達は、とても丁寧に扱われていますから。休みだってしっかり取るようにと言われていますし。実際にご主人さまの前で休んでいても、何も言われません。


 とにかく、居心地がいい空間で生活できているんです。アリアさんやミルラさんも、仲良くしてくれていますし。


 ぜんぶぜんぶ、ご主人さまがくれたものです。美味しい食事も、暖かい寝床も、楽しい仕事も、穏やかな時間も。


「でも、そんなご主人さまに迷惑をかけてしまった」


 わたしにとっては、消えない傷。ケガは、ご主人さまに治してもらったんですけどね。でも、自分で自分が許せないんです。あの過去を、消し去りたいとすら思うんです。


 きっとご主人さまは、わたしが無事ならそれでいいと思っているのでしょうけど。でも、自分では満足できないんです。


「せっかく、黒曜(ブラックバレット)をもらったのに。それでも、オリバーに負けて」


 ご主人さまのくれた武器は、確かに強かった。それなのに、勝てなかった。わたしがもっと訓練していれば。そう思う瞬間だったんです。


 ただ、どうすれば良いのか、分からなかった。黒曜(ブラックバレット)は、魔力を打ち出す武器だとは思います。それを使いこなすためには何をすれば良いのか、方針を立てることすら、できなかったんです。


 悔しくて、歯を食いしばったこともあります。拳を握ったこともあります。涙がこぼれそうになったことも。


 だけど、ご主人さまに心配をかけるのはダメですから。必死に我慢していたんです。せめてご主人さまの前でだけはって。


「もちろん、助けてくれたのは嬉しいです。見捨てないでいてくれたのは」


 ただのメイドなんて、替えが効く存在。そう思う人は、いっぱい居たと思います。それに、わたしは獣人ですから。


 実際、わたしの右腕が失われた時、わたしは処分されるところでした。ご主人さまが右手を治してくれていなかったら、死んでいたでしょう。


 そんな存在なのに、さらわれたわたしを迎えに来てくれた。本当に嬉しかったんです。ご主人さまに、ずっとついていこうって、改めて決意するくらいには。


「だけど、もう嫌なんです。ご主人さまに、守ってもらうだけなのは」


 そう。だから、手段を探しました。黒曜(ブラックバレット)を使いこなすために、何をすれば良いのかを。


 結果的には、フィリスさんに依頼することになりました。黒曜(ブラックバレット)に興味を持ったみたいでしたから、それを利用する形で。


 訓練の成果は、確かに出たと思います。狙い方、撃つタイミング、敵の攻撃への対処。いろんなことを、覚えましたから。


「フィリスさんにも手伝ってもらって、強くなれたはずですっ」


 だから、今度こそ戦いたい。もちろん、何も無いのなら、それが一番ですけれど。


 わたしの一番の望みは、ご主人様と幸せな日々を過ごすことなんですから。ずっと、一緒にいることなんですから。わたしの命が尽きるまで、ずっと。


 あくまで、強さは手段でしかないんです。それでも、確かな成果は、大事なことですけどね。


「ご主人さまだって、褒めてくれましたからっ」


 やっぱり、ご主人さまの言葉が一番ですね。フィリスさんに認められるのも、嬉しかったですけれど。それでも、全然違います。


 フィリスさんの言葉には、達成感があります。でも、ご主人さまの言葉からは、胸のポカポカと、頭がふわふわするような感覚をもらえるんです。


 ただの言葉なのに、とても幸せになってしまうくらい。当たり前ですけど、わたしはご主人さまが大好きですね。


「ただ、まだ満足するには早いですっ。ご主人さまの敵を、ちゃんと倒せないと」


 そう。ご主人さまを困らせる人は、いない方が良い。


黒曜(ブラックバレット)は、武器には見えません。だから、油断させられるはず」


 わたしだって、初めて見た時には何なのか分からなかったくらいですから。敵が黒曜(ブラックバレット)を向けられても、おもちゃを向けられたとしか思わないんじゃないでしょうか。


「それに、わたしは獣人の中でも弱そうに見えるみたいですから」


 ただでさえ、獣人は弱いと軽んじられている。魔法を使えないから、人間には劣るんだって。エリナさんに勝てない人間だっていっぱいいるのに、おかしな話です。


 でも、だからこそ都合が良い。わたしに殺されると想像する人なんて、きっといない。


「うん、ご主人さまの敵を、隙を狙ってやっつける。それで良いんですっ」


 正面から堂々と近づいても、油断されると思いますから。それを利用して、殺す。うん、良い感じだと思います。


「だって、あんなに優しいご主人さまを嫌う人なんて、悪人に決まっていますからっ」


 ご主人さまを傷つける人は、絶対に許さない。その気持ちに同意してくれる人は、他にも居ると思います。ですから、必ずわたしが全部をこなす必要はないでしょう。


 そもそも、私のいちばん大事な仕事は、ご主人さまのメイドなんですから。


 ただ、わたしが殺す必要があるのなら、迷いません。それだけは、絶対です。


「でも、失敗しないように、気をつけないといけませんっ」


 失敗してわたしが捕まってしまえば、ご主人さまはきっと助けに来てくれる。だからこそ、確実に成功させないといけないんです。ご主人さまを、困らせないために。


「今度こそ、ご主人さまに守られる訳にはいかないんですから」


 うん。後悔は一度でいいですよね。次は、ちゃんと仕留めます。


「ねえ、ご主人さま。わたしが頑張ったら、いっぱい褒めてくださいっ」


 優しい声をかけてくれれば、全てが報われると思いますから。


「それだけで、どんなことでもできるんですよ?」


 悪いことでも、苦しいことでも。何でも。だから、いつまでも一緒に居てくださいね。

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