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物語の途中で殺される悪役貴族に転生したけど、善行に走ったら裏切り者として処刑されそう  作者: maricaみかん
4章 信じ続ける誓い

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131話 エリナの法悦

 私は、レックスの師として、あいつがどこまで強くなるのかを見たい。それだけが、今の目標だ。


 かつては、自らが最強になることを目指したこともあった。力で成り上がれるスコルピオ帝国で、皇帝を目指したこともあった。


 だが、今は違う。自分の人生のすべてを捧げてでも、レックスを強くしたい。その先には、誰も見たことのない光景があるだろうから。


 とはいえ、まだ今は、レックスの剣技自体は、私ほどではない。まあ、音無し(サイレントキル)をまともに扱えている時点で、年齢を考えれば、おかしいくらいなのだが。


 私が同じ年の頃なんて、まともな剣技とは言えない棒振りをこなしていたからな。レックスの体ができあがれば、自然と私を超えるくらいの才能はあるだろう。


 ただ、その程度では物足りない。明らかに、空前絶後の才能なんだ。それの行き着く先が見たいという欲求なんて、剣士なら当たり前のものだろう。


 無論、それを自分で超えたいと思うのも、普通ではあるのだろうが。ただ、レックスには闇魔法がある。だから、剣技なんて、何の意味もないものにできてしまうんだ。


 いや、レックスの師として、つまらない諦観に支配されるべきではない。魔法使いとして、己の限界を超えた存在だって居るのだから。


 カミラやフェリシアは、私が知るどんな一属性の魔法使いよりも強い。むしろ、二属性の持ち主ですら、並ぶ相手は少ないだろう。


 そんな相手がレックスのそばに居るのに、私が立ち止まるなんて、論外だろう。闇魔法を相手にしてすら通じる剣技を目指す。それくらいで、ちょうど良い。


 私自身が研鑽を忘れてしまえば、レックスの師としてはふさわしくない。どこまでも成長を続ける弟子なのだから。ちょっと見ない間に、別の技を身に着けているなど珍しくもないのだし。


 そのためにも、殺し合いとはいかなくとも、戦いの経験は必要だ。それも、誰でも殺せるようなザコではなく、本気で苦戦するレベルの敵との。


 なら、ちょうど良い相手がいる。私にはない技術を持っていて、レックスの剣技の役にも立ちそうな相手が。


「カミラの剣技は、とても興味深いな。一度は、見てみる価値があるだろう」


 それも、遠くから見るのではなく、実際に体感する形で。カミラの剣の振り方自体には、見るべきところはない。ただ、私とは別の才能がある。それは、否定のできない事実だからな。


 自分より優れた人間の、優れた部分を理解できない。そんな傭兵は、すぐに死ぬだけだろうな。逃げるべき敵からは逃げる。どうしても逃げられない時は、相手の弱点を探る。そうしてきたからこそ、何よりも、運が良かったからこそ、私は生きているんだ。


 なにせ、フィリスと戦場で相対していれば、私は死んでいただろうからな。そんな戦場を引かなかっただけでも、運が良いと言えるだろう。


 とはいえ、依頼前に状況を探ることもしていたが。勝ち目の無い側の依頼は受けない。それは徹底していたからな。


 ただ、今のレックスには必要のない技術かもしれない。良くも悪くも、知り合いのために動く人間だろうからな。


 例えば私が窮地に陥ったとして、勝算など考えずに助けに来るのがレックスだろう。それは、誰でも分かることだ。


 そうなると、やはり戦闘技術を伝えるのが手っ取り早い。強くなれば、勝てる相手は増えるのだから。レックスの性格にも合っているはずだ。


 やはり、カミラの剣技を知る価値はあるだろうな。


「レックスが目指すべき、剣と魔法の融合を形にしているのだから」


 私には、魔法は使えないからな。獣人でありながら剣だけを頼りに身を立ててきたことは、誇りだった。だが、今では口惜しいな。ただ、嘆いてばかりはいられない。


 とにかく、レックスのさらなる成長のためには、魔法と剣技の組み合わせは重要だ。レックスほどの才能を持っていて、わざわざ魔法を制限することになど、何の意味もないのだから。


「だからといって、カミラを参考にされてはな。あくまで、レックスの師は私だ」


 そうだ。私が育てあげることに価値がある。レックスの成長だけを望むのならば、もっと多種多様な剣を覚えるべきなのだろうが。


 だが、そんな事は許せない。レックスの剣の土台には、私の存在がある。そうでなければ。


 ならば、魔法と剣技の融合であっても、私が指導するべきなんだ。そのためにするべきことは、単純だ。


「私が何かをつかみ取って、レックスに教える。それが理想だろう」


 カミラとの戦いの中で、魔法と剣を組み合わせる要点を抑える。できることならば、カミラには実現できていない領域まで。


 自分が使えない能力を分析するのは、難しいだろうな。だが、そんなことで立ち止まるのは、ありえない。レックスの師として、情けないところは見せられないのだから。


 ただ、取らぬ狸の皮算用と言って良い。私が何かをつかみ取れなければ、机上の空論でしかない。


「まずは、戦ってからだな。それから、考えていくべきことだろう」


 ということで、カミラと戦った。結果的には勝ったが、一歩間違えていれば、負けるどころか死んでいる可能性すらあった。


 まあ、それはいい。剣技に死の危険性はつきものだ。それを完全に排除しようとしては、強くなれない。というか、実戦で死ぬだろう。


 結論としては、カミラの技は、正確には剣技と魔法の融合ではないな。


「なるほどな。基本的なところは、抑えられたと言って良い」


 要は、魔法で身体能力を上げて、それを利用して力の差で押し切る。厳密には違うが、似たようなものだ。


「カミラの剣は、必ずしもレックスが目指すべきものじゃない」


 というか、もっと先があるだろう。良くも悪くも、カミラの魔法は幅が狭い。だからこその一点集中は、確かに見るべきものだった。


 ただ、レックスとは明確に才能の方向性が違う。それは明らかだ。


「レックスならば、もっと幅広い魔法が使えるのだから」


 単純に身体を強化するだけではなく、相手を妨害したり、仕込み武器のような役割を果たしたり、色々とできるだろう。そのためには、基礎となる剣技も重要だが。


「ただ、レックスの参考になる部分もある。魔法を剣の威力や速さに上乗せするのは、正しい方向性だ」


 まあ、無音の闇刃(サイレントブレイド)でも、部分的には実現できているが。あの技は、ただの剣では切れないものを切れる。それだけでも、魔法があってこその剣技だろう。


 ただ、そんなところでは収まらないはずだ。剣技の強化の方向性でも、搦め手の方向性でも。


 基本的には、単純なことでいい。小さな闇の刃(フェイタルブレイド)を発生させるとか、闇の衣(グラトニーウェア)を変化させたものを敵に使って、妨害に利用するとか。


 後は、闇の衣(グラトニーウェア)で身体強化の代わりができれば良いか。そこまで達成できれば、大きいはずだ。


「これならば、レックスはもっと強くなるだろう。今でも、私よりは強いのだろうが」


 闇魔法が、圧倒的すぎる。まあ、他の人間の闇魔法を知った限りでは、どうやっても勝てないのはレックスくらいだろうが。


 ミュスカが相手ならば、手段はある。そもそも、私は魔力を持たないからな。魔力を奪われることに、警戒しなくて良い。


 アイクが敵だとしても、的を絞らせなければ勝てるだろう。その程度には、弾は遅い。


 というか、闇魔法の性質は、本来は魔法使いを殺すことに特化したものだろう。レックスの才能が異常なだけだ。


 だからこそ、レックスに魔法を使われた時点で、勝ち目が消えてしまうのだが。


「いずれは、剣技でも私を超える。そうなる瞬間が、楽しみだな」


 そもそも、身体能力では私を超えそうなのだから。同じ技術を持っていれば、勝つのはレックスだ。その上、才能だけなら、私より遥かに上。期待しない方がおかしいだろう。


「私が抵抗しても、レックスが望めば、組み伏せられて終わりなのだろうな……」


 無理やり押し倒されて、屈服させられる。そんな未来も、容易に想像できる。


「ダメだな。許されないことだと分かっているのに、感情が抑えきれない……!」


 正直に言って、息を荒らげてしまいそうだ。頭に熱が登る感覚があるし、胸の鼓動も早くなる。


「ああ、レックス。どこまでも強くなってくれ。その上で、私を求めてくれ……!」


 そんな瞬間が訪れたら、今までの人生で得た喜びなど、ゴミのように感じるかもしれない。そんな予感があるんだ。


「レックスに付けられる傷なら、甘美なのだろうな……」


 噛みつかれるのも良い。引っかかれるのも良い。あるいは、押しつぶされるのも。考えただけで、興奮してきそうだ。


「責任を取ってくれよ、レックス。私に、おかしな感情を植え付けたことの」


 どんな未来があったとしても、お前から離れたりしない。遠ざけるなど、許せない。分かっているよな、レックス?

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