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物語の途中で殺される悪役貴族に転生したけど、善行に走ったら裏切り者として処刑されそう  作者: maricaみかん
4章 信じ続ける誓い

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130話 カミラ・アステル・ブラックの激情

 あたしは、バカ弟が憎いと思っていたこともある。あたしが欲しかったものを、全部持っていたから。だけど、今は違うわ。


 いえ、好きとかそういうのじゃないけれど。バカ弟は、あたしに従うべき。あたしだけを考えるべき。あたしに尽くすべき。それだけよ。


 もらった剣を大切にしているから大好きとか、何も分かっちゃいないわ。あたしにとっては、便利な道具。ただそれだけなのよ。


 そもそも、命を預ける道具を好き嫌いで選ぶほど愚かじゃないわ。雷閃(サンダーボルト)は、切れ味が良くて、魔法を補助してくれて、刃こぼれもしない。そんな剣を使わないなんてやつ、バカだけなのよ。


 というか、弟の一番は姉であるべきなんて、誰が言うまでもない当然のこと。それを分かっていないバカ弟には、困ったものよね。だからといって、見捨てたりはしないけれど、あたしは、優しい姉なのよ。少なくとも、レックスを弟って認めてはいるのだから。


 バカ弟の居場所は、あたしの傍だけでいい。でも、それを邪魔するやつも居るのよね。まったく、道理の分かっていないやつよね。


「エリナが居る限り、あたしの剣は、バカ弟に注目されない。ふざけた話もあるものね」


 バカ弟は、あたしだけを見ているべきなのに。それが、姉弟ってものなのに。せっかくあたしという先達がいても、エリナが居るから、あたしには頼らない。


 そんなの、許せる訳がないでしょう。バカ弟の人生は、あたしのものなのに。どこまでも、あたしと一緒にいるべきなのに。


 姉に従うことこそが、弟の幸せなのよ。それを理解しないなんて、おかしいわ。


「それに、あたしには居なかった師匠。腹立たしいにもほどがあるわ」


 あたしは求めても手に入れられなかったもの。それもあるけれど。何よりも許せないのは、あたしを見もしない女が、バカ弟に気に入られていること。


 もう、怒りで頭がどうにかなりそうだった。あたしよりエリナを優先するバカ弟も、あたしの権利を奪おうとするエリナも、ふざけている。


 そんな時だったわ。フィリスが、あたしとエリナが戦うことを提案してきたのは。


「良い機会よね。あたしとエリナの戦いは。誰が一番なのか、バカ弟に思い知らせてやるのよ」


 そして、姉弟があるべき姿に戻るのよ。あたしを尊敬して、あたしに従って、あたしを愛する。そんな弟に。


 バカ弟が素直になるのなら、あたしだって可愛がってあげるつもりよ。姉として、当然の義務なんだから。


「バカ弟は、あたしのことだけ考えているべきなんだから。それを、理解させてやらないとね」


 そう決意して、エリナとの戦いに挑んだ。だけど、思い通りにはならなかったわ。結局、あたしは手のひらの上で踊らされているだけ。


 速さでも威力でも、何もかもが勝っているはずなのに。それでも、あたしの剣は届かなかった。


「負けた……! あの忌々しい女に! バカ弟の前で!」


 どっちが剣士として格上か。バカ弟の答えは、決まっているわ。つまり、あたしよりもエリナを求めてしまうでしょう。少なくとも、剣の師としては。


「このままじゃ、エリナにバカ弟は……。奪われてたまるものか。バカ弟は、あたしのものなのよ」


 バカ弟のいない人生なんて、どれほど空虚なものか。想像するまでもないわ。あたしを見ないバカ弟を、遠くから眺めているだけ。そんな生き方は、絶対にごめんよ。


 あたしに可愛い顔を見せてくれて、貢ぎ物をしてくれて、嫌われたくないって思ってくれる。そんなバカ弟だけは、絶対に失いたくない。


 そうよ。なら、やるべきことはひとつだけ。考える必要もないことよ。


「負けたままじゃ、いられないわよね。あの女に、目にもの見せてやるのよ」


 単純な答えよね。あたしが弱いから、バカ弟を奪われそうになるのだから。あたしの方が上だって証明できれば、あたしが奪えるのよ。


 バカ弟の心も体も魔法も、すべてをあたしのものにする。その目標は、今だって同じなのよ。だったら、迷う必要なんてないわ。


「この屈辱は、絶対に忘れないわ……! 何があったとしても、よ」


 バカ弟の前で恥をかかせた罪は、絶対に償わせるのよ。まずは、それから。次に、バカ弟にエリナなんて必要ないと思い知らせてやるのよ。


 姉弟2人だけで、生きていけば良い。どんな敵も葬り去って、その先で。まあ、フェリシアやメアリなんかは、別に居ても良いけれど。セルフィだって、あれはあれで役に立つもの。


 ただ、あたしの立場を奪おうとするものは、必要ないわ。エリナにふさわしい立ち位置は、バカ弟の愛玩動物。それなら、許してやってもいいわ。


 ただ、今のあたしじゃ足りない。何の対策もしないままに挑んで、勝てる相手じゃない。そこを間違えるほど、あたしはバカじゃない。


「とにかく、強くならないと……。あの女に勝つためにも、バカ弟を奪われないためにも」


 どうやって強くなるのか。屈辱だけど、エリナを観察するのも、ひとつの手よね。後は、剣の振り方を見直さないと。素早さも剣の威力も、あたしが上回っている。なら、鍛えるべきは技術なんだから。


 とはいえ、ただの剣技を学ぶつもりはないわ。あたしの目指すべき道は、もっと違うものなのよ。


「まずは、エリナに勝つところからよ。誰を見るべきなのか、しっかり教えてやらないと」


 バカ弟に本当に必要なのは、あたし。それは、口で言うべきことじゃないわ。力をもってして、証明すべきことなのよ。


 あたしは、弱いままじゃ居られない。もう一度、バカ弟に助けられる訳にはいかないのよ。姉というのは、弟に守られるものじゃないわ。むしろ、守る側なのよ。


 だから、どんな手を使ってでも勝つ。魔法を使えない相手に、大人げない。そんな事を言う相手は、刻んであげるだけよ。とにかく、結果が全てなんだから。


「その後で、バカ弟の剣を、あたしで染め上げる。音無し(サイレントキル)なんて、忘れるくらいに」


 あたしに教わった技を使うバカ弟は、どれほど可愛いのでしょうね。想像しただけで、楽しくなるわ。その未来を本物にするためにも、立ち止まってはいられない。


 というか、エリナは本来、バカ弟の師になるべき存在じゃないのよ。それを、叩き込んであげないとね。


「魔法使いとしての剣は、あたしじゃなきゃ使えないわ。あの女とは、違うのよ」


 だから、バカ弟にふさわしいのは、あたし。ただ、勝たなきゃ空虚な戯言よ。弱い人間の言葉なんて、誰も聞かないんだから。


「そうね。もっと訓練を続けるだけ。あの女にも、バカ弟にも勝つ」


 エリナを倒すことなんて、ほんの少しの寄り道でしかないわ。あたしの目標は、レックスをギッタンギッタンにしてやること。泣かせて、その後で抱きしめてあげること。変わる訳にはいかないのよ。


「あたしの物語は、勝ってから始まるんだから。バカ弟を、あたしのものにしてからね」


 そうよ。あたしの人生は、まだスタートラインにすら立っていない。あたしとバカ弟がそろって、初めて生きるって言えるのだもの。


 待っていなさいよ、レックス。誰のものになるのが一番の幸せなのか、その身に刻みつけてあげるから。

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