123話 新しい成果
フェリシアとは、良い連携ができたとは思う。ただ、相手の側が合わせてくれたからという部分もある。というか、それが大半かもしれない。
ただ、人と協力する感覚は、だいぶつかめたと思う。目指すべき道が分かっただけでも、大きいよな。今までは、完全に手探りだった。だが、これからはフェリシアを手本にすれば良い。
要は、相手の動きを観察して、お互いの邪魔にならない範囲で魔法を撃てば良いのだ。口で言うほど簡単ではないだろうが、今までは、言葉にすらできなかったからな。
ということで、一歩は進めたはずだ。まだ遠い道のりだろうが、得たものはある。それだけでも、これから先に歩んでいく力になるだろう。
みんなと手を取り合うことで、俺ひとりよりも大きな成果を出す。そんな未来が、形を持った気がするんだ。
だから、授業にも力が入る。もっと良い連携ができるのではないか。そんな希望を持てるから。
「……提案。今日は一定のグループの中から、ペアをそれぞれで決めてもらう」
「組分けは、もうおおよそ理解できているだろう。これまで組んでいたような相手だ」
要は、俺の友達とということだろう。やはり、フィリスには配慮されている気がする。俺が嫌われているというか、遠ざけられていることに。
心配をかけているのかもしれないと思えば、心苦しくもある。ただ、俺を想う気持ちは、間違いなく嬉しいものだ。師匠として、大切にしてくれている。そう実感できるからな。
「ねえ、レックス君! 今回は、私と組まない?」
「レックスさん、前回の反省点を活かしてみませんか?」
割とみんな、こっちに近寄ってくる。組みたいと思ってくれているのなら、とても嬉しい。だが、ペアだからな。誰を選ぶかは、大事になってくる。今回限りかもしれないからな。
「わたくしが、一番ですわよね?」
こんなことを言われたりするのだから。フェリシアは最大の理解者だと思っているが、一番だと明言するのも危険な気がする。
なんというか、軽く不穏さを感じるんだよな。いま思えば、当時のリーナの反応は、結構怪しかった。カミラとフェリシアの修羅場に介入できたことを、喜んでいたように見えたからな。
あまり、みんなの関係が壊れてほしくないのだが。ちょっと、慎重にならざるを得ない。
「レックス様と一緒なら、楽しそうだよね!」
「できれば、私と……」
「あたしも、興味ありますね」
学校もどきの関係者も、俺を誘ってくれている。流石に、このメンバーが誰かを選んだことで険悪になるとは思いたくない。
ただ、ほんの少しの不安はある。良くない考えだと、分かってはいるのだが。難しいものだ。
「わたくしめは、王女殿下と組みたいところでありますな」
「あたくしは、誰が相手でも結果を出すだけでしてよ」
こうして、俺に執着していない相手を見ると、安心できる。少なくとも、俺がきっかけで関係がこじれたりしないだろうからな。1回だけの出来事に、警戒しすぎなのだろうが。
どうしても、気になってしまう。自意識過剰だとは思うのだがな。まあ、何もなくて後で笑うくらいの方が良いか。
レックス様、自分がモテモテだと思っていたんだ! みたいに言われて終わりなら、普通に安心だからな。少しは傷つくが。
「レックス君と一緒なら、素敵な時間になるんじゃないかな?」
「今回は、私に譲ってほしい。思いついたことを、試したい」
サラの提案はちょうど良いと言えば言葉が悪いが、助かった。これなら、好みで選んだという展開にはならないはずだ。いや、疑い過ぎだとは思うぞ。だが、かつての恐怖は、今でも拭えない。
逃げていないで、カミラとフェリシアの関係にも踏み込むべきなのだろうか。より悪化したりしないだろうか。そんな悩みも、杞憂なのだろうか。
「なら、面白いものを見せてみろ。俺に見合う内容をな。サラ、俺を失望させるなよ」
「分かった。絶対に撫でてもらう」
まあ、今はサラとの時間に集中するべきだろうな。せっかく、何かを考えてきてくれたのだから。俺の役に立とうという姿勢は、とてもありがたいものだからな。
ということで、現場まで向かう。いつも通りの流れではあるが、気を抜かないように。油断すれば、事故が起きかねない。それを心に刻むべきだ。
「それで、どんな案があるんだ?」
「ふふん。私の魔力を、レックス様に預ける。侵食を使って、2人分の魔力を操作してもらう」
ああ、理論上は可能だと思う。というか、原作であったような。闇魔法使いの敵に自分の魔力を奪われるみたいな展開が。それでも、後遺症なんかはなかった。だから、問題は起きないだろう。
「それをやると、自分の体の内部を触られているような感覚を覚えるそうだが」
「別に良い。レックス様になら、何をされても良い。死ぬのは、嫌だけど」
そこまで覚悟が決まっているのなら、受けない方が失礼だな。よし、覚悟を決めよう。
「そうか。なら、お前の魔力をよこせ。それを使って、新しい何かが生まれるか、試したいのだろう」
「うん。私は、そこまで魔法が得意じゃない。なら、レックス様なら、もっとうまく使えるかもしれない」
ということで、移動していく。ある程度は、敵から離れた場所に。一応、闇魔法で防御はしている。ただ、それでも警戒はするべきだからな。
「さて、始めるとするか。サラ、俺の魔力を受け入れろ」
「分かった。……んっ、ちょっと、もぞもぞする」
くすぐったそうにしている。ちょっと、頬も赤い。本当に、触られているような感覚があるのだろう。それでも、止めようとしない。サラの覚悟を、しっかりと受け止めないとな。
「これで、お前が魔力を放出しなくても、俺がお前の魔力を使える。どうだ?」
「平気。レックス様の役に立てるのなら、安いくらい」
「なら、いくぞ。闇の刃!」
「んっ、全部、持っていって……!」
サラの魔力も混ぜて、魔法を放つ。すると、敵が燃えたり、感電したりしているような様子になった。つまり、別属性も混ざった感じなのだろう。
俺の魔法の性能も、普通に発揮できている。これは、新しい連携の形になるかもしれない。
「ふむ、なるほどな。サラの属性は、炎と雷だったよな。もう少し、性質を変化させられそうだ」
「なら、次も試す。まだ、魔力は残っている」
「そうか。無理はするなよ。お前を今後も使うのなら、壊れられたら面倒だ」
「やっぱり、レックス様は優しい。でも、まだ大丈夫。無理はしていない」
「なら、続けるぞ。……ふむ。敵に熱や電気だけを通すこともできるのか。便利だな」
色々と実験しながら、敵を片付けていく。結果としては、新しい魔法が生まれた。闇の刃の爆発も、複数属性の反発を利用して、更に強化できた。良いことづくめだな。
「全部、片付いた。撫でてもらう権利はあるはず」
「ああ、そうだな。頭を出せ」
「ほっぺたとか、あごを撫でてくれても良い」
「良いぞ。お前のおかげで、俺はさらなる成長ができそうだからな」
差し出された頭を撫でて、言われた通りに頬やあごにも手を伸ばす。心地よさそうにしていたので、十分だろう。というか、もちもちの肌をしているな。昔は枯れ枝みたいだったことを思うと、良い環境に変わった効果が出ているのだろう。
満足に食事も取れていなかったサラを救えたと思うと、自分が誇らしい。だからといって、恩人の立場に甘えるつもりもない。もっと、幸せになってもらわないとな。
「むふー、満足。レックス様、テクニシャン」
「あまり変なことを言うようなら、撫でたりしないからな」
「それは困る。でも、今回くらいならレックス様はやめない。分かる」
「好きに考えていろ。だが、今日はよくやった。それは褒めてやろう」
「むふふ、次も、また撫でてもらう。抱っこも良いかも」
サラが望むことは、できるだけ叶えたい。俺に尽くしてくれていることもあるが、何よりも、大切な相手だからな。
これから先も、サラが笑っていられるように。もっと、努力を続けていこう。




