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第一話 呼び出し

「おはよう、(のぞ)()くん」

「おはよう、御法(みのり)(かわ)さん」

微笑む彼女に挨拶をしながら、乃位(のぞい)()(えん)は自席についた。その表情は彼女とは対照的な真顔である。

ふと窓を見れば、この基地のすぐそばにある建物を上回るほどの巨大なハコの上で、どこからかやってきた鳥たちが羽を休めているのが分かった。ペンケースとノートを出してさっそく勉強に取り掛かる。ほかにも、調査部隊を合格した若者たちが十時からの講義に向けて準備をしていた。

「ねえねえ、乃位くん」

再び隣の席の御法(みのり)(かわ)(つむぎ)から声がかかる。楓苑は顔を上げずに真顔で何、と返す。

少し前にこの地域に引っ越した紬は、ヨーロッパ系と日本人のハーフで、ウェーブのかかった長く淡い金髪と、人形のような整った顔が特徴的な少女だ。

たしか、同い年の15歳だったか。

そういえば見た目のわりに若いな、とふと思ったが、すぐに自分には関係のないことだと切り捨てた。

紬の戦闘能力は皆無に等しいが、デテニィを開発した実力が評価され、調査には参加しない研究員として、ハコの基本的なことやハコの生態系を中心に学ぶ調査隊員に混ざって講義に参加している。その見た目と持ち前のコミュニケーション能力もあり、この第一小隊ではムードメーカーのような役割を担っている。

しかし、紬は楓苑にとって、グイグイと来られたり、底なしの明るさをぶつけられたりするため、苦手なタイプである。

そのため、いつもはただの同志だと関わることを避けているが、彼女は何かと理由をつけて接してくる。昼食や休み時間、訓練中など場所や時間は様々。

「大隊長が執務室に来いってさ。来週のことに関して、らしいよ?」

「…わかった。もし講義に遅れそうだったら、講師に言っといて」

「了解っ」

ビシッと紬が敬礼の真似をして左手を彼女の額に当てる。中途半端な真似をする紬に楓苑はジト目で返した。

 …逆。敬礼は左手じゃない。それ上司にしたら怒られるぞ。

 時々、彼女の常識がどうなっているのか、不思議なところがある。


来週のことに関して、か。

楓苑は大隊長室に向かっていた。来週といえば、第一回ハコ調査開始日だ。いよいよ日本初の潜入調査が始まる。そのことについて何か連絡をするのだろうが、分からない。そのことよりも重要な案件かもしれない。

しかし、そう考えている楓苑の顔にはさっきとは違って微笑みが浮かんでいた。

はじめてハコが地球に出現してはや一五年になる。人々のハコに対する恐怖は変わらないが、以前のような騒ぎはかなり少なくなった。誰にとっても、最悪の災害であるハコの出現が与えた影響は今も昔も変わらない。ハコなんか早くなくなればいい、そう思いながら隊長室の扉を軽くノックした。

赤尾(あかお)大隊長、僕です」

「楓苑か。入っていいぞ」

返事があることを確認して、失礼します、と楓苑は扉を開ける。部屋のソファには、短いあごひげを生やした三十路半ばの男が座っていた。

男の名前は赤尾(あかお)宏舜(ひろみつ)。元陸上自衛隊で一尉を担っていた。そのころの実績を評価され、今の大隊長に任命されている。頭が切れて、数々の功績を残しているので、調査部隊の中にも彼に憧れを抱いている者が多い。楓苑もそのうちの一人である。しかし、赤尾の部下には同時に思い切った行動をする彼に振り回されている者が多い。

無論、楓苑も同様である。

赤尾に促された楓苑は向かいのソファに腰を下ろす。

「隊員たちの準備は順調か」

「はい、今のところ問題はございません。」

そうか、と言って赤尾は一つの小さな機械を机に置いた。機械にあるパネルをタッチすると、空中に調査部隊の部隊編成予定が3Dで表示された。

どうやら、これが今回楓苑を呼んだ本題らしい。

「楓苑、お前が仕切る第一小隊を最前線に配置したい。」

 今第一小隊は大隊長の護衛も兼ねて赤尾がいる最後尾に置かれている。優秀な人材は少しでも危険にさらしたくないという政府の出し惜しみで決まったことだが、正直楓苑はそれをよくは思わなかった。むしろ、自分が育て上げた第一小隊の実力をしっかり示したいと思っていた。そのため、今回の提案を聞いて、楓苑は赤尾に承諾どころか、感謝した。

「喜んで。と言いたいところですが、理由をお聞きしても?」

 大体の予想はついているが、念のため質問した。

 ああ、と赤尾は頷く。

「知っていると思うが、お前と隊員のチームワークがどの隊よりも優れているからだ。小隊長でもあるお前は統率力、戦闘能力が今の地位がもったいないほどに備わっている。隊員も同様だ。第一小隊の戦闘能力はほかの比じゃないぞ。だから、大隊長の俺としてはお前の隊なら前線を安心して任せられる。それに万が一、戦闘能力に長けたハコの奴らに出くわしたとしても、第一小隊なら時間と隊員を無駄死にさせなくて済む確率が高い。最初からそう言えばよかったんだが、会議で上の奴らを説得するのが長引いた」

 お前には悪かったな、と赤尾が言う。

楓苑の想像していたままの答えだった。やはり、赤尾大隊長はすごい。いくら、調査部隊のトップだとしても、政府が直々に決めたことは変えるのが難しいはずだ。

「ありがとうございます、大隊長。隊員にも伝えておきます」

では、と言って楓苑は部屋を出ようと思ったが、珍しく深刻な顔をしている赤尾を見て、扉の前で立ち止まった。

「何かほかにご用件はありますか、大隊長」

何も言わず赤尾がうなずいた。

かなり重要なことでも起こったのだろうか。楓苑は背筋を伸ばす。同時に、楓苑の目は期待に溢れた。

「今第一小隊に所属している研究員の御法川が、来週の調査部隊に前線で参加したいそうだ」

その言葉に楓苑は目を見開いた。

思わず嘘だろ、とつぶやく。ありえない。彼女に調査部隊は危険すぎる。前線なんて尚更だ。

「お前から説得してやってくれ」

「もちろんです。お任せください」

いつになく楓苑は真剣な顔で頷いた後、赤尾に敬礼をして直ぐに大隊長室を後にした。

「ハコのメモリー~無名の調査隊員とその記録~」第一話を最後まで読んでくださってありがとうございます!

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