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数分間のんびりして、そういえばと思いだして、俺は風呂を上がった。
戦闘着を洗濯魔道具(盗品)に放り込み、ゆったりとした服に着替えて、広間で待つ魔族の少年の元へと向かった。
「あがったぞ!」
「あ、お兄さん……じゃあ次はボクがお風呂をお借りしますね」
「お借りしますだなんて、遠慮しなくていい。そもそも、俺のものでもないしな」
「? えっと、とりあえずお借りしますね」
この施設も、俺が買ったりしたわけじゃなくて、勝手に使ってるだけだからな。
こそ泥の能力の一つで鍵を勝手に開けて、持ち主が帰らないことを良いことに、好きかってさせてもらっている。
あり得ないと思うが、もし仮に持ち主が現れたら、俺は逃げるしかない。
と、そんなことは気にもせず知りもせず。魔族の少年は風呂場に消えていった。
俺はこの間に寝床を整えることにしよう。
かつて誰かが使っていただろうベッドに清潔魔法の魔道具(盗品)を使用して、綺麗にする。
俺一人だったら、面倒だから床で寝ても平気だが、小さな子供にそれはさすがに申し訳ない。
昔は俺も、ベッドじゃないと寝れなかったし、魔道具の使い方もわからないから汚れたベッドで我慢していたし……そういえばあいつ、風呂場の魔道具の使い方はわかるのだろうか。
お湯は流さず残してあるが、浄化魔法の使い方を知らなかったら?
まあ、俺だって数日間風呂に入らないこともあるぐらいだから、別にそれで死ぬことはないだろうが……もし知らないのなら、教えておいた方が良いかもしれない。
何せあいつは俺の、人生の弟子、らしいからな!
魔道具の使い方を聞いて「すごい」といってくれるあいつを想像すると、それだけで心が弾む。
いやいや、こんなの大したことじゃないよと、謙遜する俺。まあ、実際のところ大したことじゃないんだが。
脱衣所を通り抜け、風呂場の戸を勢いよく開ける。
「おうい、我が弟子よ! お前に魔道具の使い方を教えてやろう!」
広い風呂場を見渡すと、魔族の……少女は、浄化魔法の魔道具(盗品)の前で、固まっていた。
服の上からではわからなかったが、確かに膨らみつつある小さな胸。
太ももと太ももの間には、あるべきものの姿が見当たらず……
ギリギリ……と、錆びた機械のようにゆっくりと、真っ赤な顔をこちらに向ける。
「にゃーっ! お、お兄……にゃぁあ☆□#○*!」
魔族の少女は勢いよくその場にしゃがんでこちらに背中を向けた。
俺も慌てて後ろを向いて視線を逸らす。
「あ……えっと、ごめん?」
「お兄さん、サイテーです!」
「その魔道具だけど、両手を当てて魔力を流すと身体全体が綺麗になるから……」
「ありがとう、ございます! で、でも、早く出てってください、お兄さん!」
「あ、うん、まじで、ごめんね。出てく、出てくから! その、エネルギーを解放して!」
四人の追跡者を追い払うのに使おうとした『神法』のエネルギーがチャージされているのを背中越しに感じて、俺は一目散に風呂場を後にした。
あんなのが直撃したら、消し炭になってしまう……それにしても。
脱衣所を抜けて、広間に戻ってから、命が残っていることに感謝しながら、目に焼き付いた光景を思い出す。
「女の子……だったのか」
いわれてみれば、中性的な顔をしているなとは、思っていたんだよ。
でも、一人称が「ボク」だったし、男の子っぽい服だったし。別に俺は悪くないよな……いや、相手が女の子という時点で、悪いのは俺か。
とりあえず、俺は彼女が脱衣所から出てくるまで、風呂場に向かって土下座をして待機することにした。