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 侵入者達の足音は近づいてくる。

 そんなこと想定していないから、進行を阻むような罠は設置していない。

 そんなの設置したら、俺が出入りするときに不便だからな。代わりに入り口だけは、しっかりとカモフラージュしていたつもりだったのだが……


 一本道だから逃げることも出来ず、数分も経たずに彼らは俺達の前に現れた。

 立派な翼を生やした魔族の女性が四人。先頭の一人は俺の後ろに隠れる魔族の少年を指さして「見つけたっ!」と叫んだ。

 その後、少年をかばうような位置に立っている俺に視線を向け、ゆっくりと近づいてくる。

「辺境に住む我らの同胞よ、その子を引き渡してもらいたい」

「かばうならそなたも反逆者と見做す。大人しく我らに従うことを推奨する!」


 勝手に人の家に入ってきて、好き勝手に口にする。こちらの意見など最初から聞く気もない。

 そんな横柄な態度は、人族のお偉方を見ているようで腹が立つ。

 だめだ、気が変わった。


「突然俺の根城に入ってきて、事情も説明せずに命令して、聞いてもらえるとでも思っているのか?」


 反論をすると、後ろに立っていた魔族の一人が「チッ」と舌打ちをした。聞こえてるぞ、馬鹿め。

 それでも先頭の一人は、諦めずにあくまで交渉を試みようとする。

「その子は、いわゆる『呪い子』なのです。殺さなければ災いが降りかかるのですよ」

「証拠はあるのか? そもそもお前達は何者なんだ?」

「そういえば、名乗っていませんでしたね。私たちは神罰委員会。意味することはわかりますよね?」

「さあな、あいにく聞いたこともないね、そんな組織」

 いやまあ、魔族側では有名なのかもしれないが、何せ俺は人族だから。

 馬鹿にするように鼻で笑うと、後ろの一人が「これだから辺境育ちは」と口にした。

 同時に彼は、腰に下げていた剣を鞘から抜いた。


「もういいでしょう、委員長! こんなやつ、殺してしまいましょう!」


 おそらく何人も殺してきたのだろう。そう思わせる殺気が、男から漏れ、周りの男達に連鎖する。

 いつのまにか四人の魔族は全員が剣を抜き、じりじりと詰め寄ってくる。

 俺達は後ろに下がりながら距離を取るが、やがて壁際に追い詰められる……


 俺の後ろに隠れる少年が、俺の背中に抱きついて、小さな声で囁く。

「鬼族のお兄さん」

「お兄……俺のことか、なんだ?」

「時間を稼いでください。ボクの神法(みほう)で焼き払います」

「……わかった、命に替えても時間を稼いでみせる」


 このままだと、二人とも殺されて終わってしまう。

 そうなるぐらいならせめてこの子だけでも逃がしてやろう……なんて、こそ泥らしくないことを決意した。俺は盾になるように両手を広げる。

 下卑た笑みを浮かべる魔族を凝視すると、人族の天職がわかるように、彼らの天技が透けて見えた。


 剣術、武術、探索、統率


 なるほど、戦闘系の能力者が二人と、リーダーが一人。そしてこの場所を探り当てた探索者が一人といったところか。

 剣使いと武術家さえどうにかすれば、どうにでもなりそうだ。まあその「どうにかする」が難しい。

 ……いや、待てよ? 何だ、この変な感覚は。

 不思議と、彼らの暴力がまったく怖くない。力の強さを目の当たりにしても「奪えばいい」という感想しか出てこない。

「そうだ、奪えば良いんだ……」

 手始めに、剣をまっすぐに構える剣士に向かって手を伸ばす。

強奪(それをよこせ)

 今まで出したことのないような低く凍えるような声が出た。

 剣士の身体から不可視のエネルギーが抜けて、俺の手中に収まる。

 握った手を離すと、小さな結晶が手の平の上にあった。


 剣士が、掴んだ剣の重さに耐えきれずに、ガランと獲物を床に取りこぼした。

 不思議そうな顔をして、床に落ちた剣の柄を持ち上げても、まっすぐ構えることすら出来ずにゆらゆらとふらついて、床に尻餅をついた。

「な、何をした! このっ!」

 剣士(なかま)が使い物にならなくなるのを見て、武術家が拳を握って飛びかかろうと膝を曲げる。


強奪(それもよこせ)


 武術家からもエネルギーを回収して、二つ目の結晶が手の平に。

 武術家は急に力が抜けたようにふにゃりと崩れ、その場で両手を床に突いた。

 天技に頼り切りになって、普段から楽をしていたのだろう。その反動で、天技がないとろくに動くことも出来ない身体になっていたのかもしれないな。


 残る二人、統率者と探索者は、なにが起きたのかもわからずに剣を構えたまま、動けないでいる。

 実際のところ、最初から先頭を天技に頼らない二人の方がよほど厄介だったのだが、未知の力を目前にして、二人とも腰が引けていた。

 これなら、どうにでもなりそうだ。

「これ以上俺達に手を出したらどうなるか……分かっているな?」

 そんな感じで適当に脅かすと、残った二人も諦めたように、その場にへたり込んだ。

 俺は魔族の少年の手を引いて、悠々とこの拠点をあとにすることに。


「あの、お兄さん。どこへ……?」

「とりあえず、予備の拠点へ行こう。その先のことは、後で考えればいいや」

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